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次回からまた新章にはいります。
ここまでティエラ視点でずっと書いてまいりましたが、登場人物が切り替わることも増えるかと思い、次回からは三人称視点になっています。
ミーティングルームで言い争いが起きているその頃。
ティエラは街道の真ん中で自らの作り出した小さな結界を椅子代わりにして、両手で温かなカップを包み込むように持ち、何事か思案していた。
一見空中に腰掛けているように見えるその様はなんとなく現実離れしていて、他者からはお人形のようだと評される愛らしい姿がまるで作り物のようにも感じられる。
「んー・・・やっぱりガルクラウニーを探すところから、かな」
小さく独り言をもらし、カップに注がれた紅茶を啜る。
(MPタンクが無くなるまではアイゼストで探索を続けられる。
なんとなくあっさり出てきてくれそうな気もするのよね、あの魔人)
考えていたのは今後どうするかということ。セルガやサイファの想像通り、ティエラはもうスーリヤに戻る気は無かった。全く心残りがないわけではないが、その心残りというのも、自宅の工房にある霊石や素材が惜しいなぁということに過ぎない。
ティエラの自宅にはほとんど物が無い。インテリアにこだわるタイプではないし、何よりも実用性を重視してきたため、それほど高価な家具の類も持っていないのである。
勿論ベッドやソファといった最低限くつろぐための家具はあるが、そもそもティエラの自宅は持ち家である。家主が急遽いなくなったからといって荷物を処分されるような心配も無いし、転移で戻ればいつでもそれらを回収することができる。ただ、未だ今のところは荷物を回収するという理由があってもスーリヤに立ち寄る気になれない、それだけのことだった。
(魔力反応が急激に増していくところから魔物化はスタートしているはず・・・体内に魔力が流れ込む、これは普通のこと。
その量が多すぎると魔物化する、とか?
うーん、いっそ本当に私が魔物化してみる?
実体験ほどわかりやすいものはないんだけど・・・理性を保てるとも限らないしさすがにリスクが大きすぎるかな)
サイファの想像通り、自分のことに無頓着な彼女は魔物化を体験してみようかなんてことも考えていた。ただ、いかに無頓着といえどもさすがにノリで実行して見るようなものではないことは理解しているし、実際に実行には至らない。ただし、今のところは、という注釈がつきそうな雰囲気ではあるが。
「さて、っと」
ティエラは腰掛けていた結界からふわりと地面に降り立ち、軽く伸びをする。
(一息ついて落ち着いたことだし、そろそろ動くことにしますか)
目を閉じて、探知魔法を広げていく。探知に引っかかるのは濁った精霊の反応ばかりで、澄んだものも、あるいは黒く変質した反応も見当たらない。徐々に東へ向けて魔力を拡大していくが、あまり広範囲を一気に探ることはしない。多すぎる反応に脳の処理能力の限界を超えてしまうからだ。
魔力を気にしなければ勿論もっと広く範囲を広げることはできる。しかし今の状態ではMPタンクを使い切ったら撤退しなくてはならない。
(魔物化すればこの霧の中でも時間無制限で動ける、よねぇ)
正直、今のティエラは魔物化することに魅力を感じてさえいた。理由はシンプルだ。魔物になることに実用性がある。ただそれだけ。もし100%確実に理性を持ったまま魔人として変貌するという保証があったならば、彼女は既にタリスマンを外していたかもしれない。
それは自己犠牲の精神とか、そんな美談になりうるようなものではない。彼女にとって、自分というものはあまり大事ではないのだ。とはいえ痛い思いはしたくないので自分の身を守らないというわけではないし、自分をチップにして勝率の見えないギャンブルをするつもりもない。そういったリスクがなければ平然と自分で自分を切り売りするくせに、一方で他者からつけられる傷には滅法弱い。
面倒くさい性格。ティエラが、あるいは奏が自身をそう評価するのはこういった我儘とも言うべき矛盾を抱えているからだ。
しばらく探知魔法に集中していたが、魔人らしき反応は見当たらない。少し移動してそこでまた探知を行い、あとはひたすらそれを繰り返す。今後の予定は決まった。
(南に進路を取るか、東か)
元々は北から南下する形で旅をしていたので、本来の予定としては今日も南を目指し最終的にはラーサに到達するはずであった。
(ガルクラウニーは東からこちらへ向かってきた・・・拠点があるのかもしれない)
ずっとアイゼストの西の端を歩いていたのだし、どうせそのうち東の方向に探索範囲を広げる予定ではあったのだ。ラーサでは帰路のついでに生き残った人々を護衛するつもりだったのだが、スーリヤに戻ることをやめてしまったティエラにとっては、帰路のついで、というものはもう無くなってしまった。ならばすぐにでも探索の範囲を変えたところで問題はない。何より誰に迷惑をかけることもないのだ、今彼女は一人で動いているのだから。
「よし!東へ進路変更っ」
声に出して宣言することで気合を入れて、彼女は空中へと舞い上がる。




