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「それで、なんですと?」
ミーティングルームにはティエラの想像通り、いつものメンバーがいつも通り集まっていた。
しかし、その空気はいつものほんわかしたものとは大きく異なる。
「お嬢様を、魔物ばかりのその霧の中に、一人残していらした、と?」
ザルツを問い詰めるセルガの口調は丁寧ではあるが、今にも掴みかからんばかりの迫力だ。
「一人じゃないよ、門をくぐる時ちらっと見たけどサイファが残ってたし」
未だティエラへの怒りが燻っているのだろう、ハルの声に罪悪感などは微塵もなく、むしろサイファが残ったことへの不満が込められているようでもあった。
「ほう。一方のリッド殿は何故ここにいるのですかな?
お嬢様の騎士として仕えてらしたとばかり思っておりましたが」
火の粉が飛んできたリッドは答えに詰まる。なにせハルやザルツとは立場が違う。ティエラはリッドの主人に当たる。それがヴォイドの代わりとしての立場であったとしても、だ。
そんな険悪な空気の中、ふと風が流れた。窓は開いていない。それは突如として生じた空間の歪みから、いや、空間の歪みより現れたサイファによるものだった。
「っと・・・あっぶね!」
自由落下により結構な速度で落下してきたサイファは、その身軽さを活かしなんとか体勢を立て直し、軽やかな音を立てて着地することに成功した。
「無茶しやがるぜ、あのお姫様は!」
もう既に消えてしまった空間の歪みを・・・中空を仰いで呟く。その着地地点は部屋の隅の方ではあったが、サイファは当然その場の注目を集める羽目になった。
ティエラと共に残ったはずのサイファの出現に、セルガはティエラの帰りを期待して部屋中を見回す。
しかし、新たな空間の歪みがーー転移門が生じることはなかった。
「サイファ殿、お嬢様は!?」
セルガにしては珍しく、内心では相当に焦っているようだ。思わず語気を強めてサイファにすがるような視線を送っていた。
それに対してサイファは、肩をすくめて答える。
「強制送還されちまいました。
信じられます!?足元に転移門ですよ!??
さすがに足場無くなったら俺もお手上げですよ・・・」
愚痴をこぼしつつもティエラを心配しているのだろう、セルガと同じように新たな転移門を期待してか、視線は空中をさまよっている。
「ザルツとハルから事情は聞いたが・・・
サイファさんから見た状況を、教えてもらえないか」
腕組みするロッシュは、ティエラを置き去りにした3人を軽く睨めつけるように見据えていた。
サイファが残ったということは、ザルツたちとは違う受け取り方をした可能性がある、そう考えてのことだろう。
「えーと、立場によって報告も変わるんですけどね・・・
ちなみにお二人からはどのように?」
「魔人に壊滅させられた街を目の前にしながら、魔人に感情移入して肩入れした、と」
実際の言葉そのままかどうかは不明だが、少なくともセルガにはそのように受け取られたのだろう。簡潔に説明するセルガの表情は硬い。
「あぁ、なるほどね。
んー、まずは諜報員としての立場で言うならば、その1魔人に遭遇、その2で魔人は襲ってくる気配無し、その3姫様が魔人と会話をはじめて・・・その4でハル殿が魔人に魔法をぶっ放した、と。
魔人から情報を引き出すチャンスだったのに、感情的になったハル殿に邪魔されたって印象ですかね」
「な・・・っ!」
「情報は命ですよ。
魔人の目的がわかれば他の魔人の居場所を特定できたかも知れないし、あるいはおびき寄せる餌を見つけられたかもしれない。
言語が通じる相手が会話に応じようとしていたんです、貴重な機会だったはずだ」
自分の行動を完璧なまでに否定されて、ハルは言葉を失った。顔は紅潮し、握りしめた拳が震えている。そこにあるのは怒り、だろうか。
「で、俺個人として言うならですけど。
魔人と遭遇、意外にも会話ができて理性的で・・・尚且つ魔人たちにも目的があって動いているらしかった。
正直、種族が違うだけで戦争みたいなもんだな、って感じですかね。
俺達の正義と相手の正義は違う的な?
でもって魔人っていうのは・・・元々は人間なんですよね。
それを思い出したっつーか気付かされたっつーか。
それに気づいた姫様が魔人の見方を変えようとして、糾弾された、と」
サイファの説明はハルやザルツの言い分に比べて、幾らか理性的で客観的なようにセルガには思えた。そして自分が仕えるティエラの性格を思い返して、なんとなくティエラの心の動きがわかるような気すらする。
あの少女はー既に成人しているにも関わらずセルガにとっては未だ少女であるティエラは、転生の影響かは不明だが驚くほど賢い。視点が変われば見えるものが変わることを理解しているし、相手の見ているものが自分には見えなかったり、あるいは同じものを見ているのにその形が違う可能性があることを知っている。
メイドの扱いについて教えた時も、メイドの視点での捉え方を説明したことできちんと主従としての扱いをするようにティエラの行動は変化した。そういう違いを目の当たりにすれば、相手の事情を考慮した行動をするのがティエラの良さであり、そして今回のような仲間割れの原因でもあった。
セルガは深くため息をついた。
感情に流された男たちと、いつも感情的になりきれないティエラ。
そしてティエラの脆さを知っているからこそ、セルガは思う。
(お嬢様はもう、ここに帰ってくることは無いかもしれませんな・・・)




