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「な、んで、、、?」
地面に座り込んだままのハルから、震える声が漏れた。その声を背中で聞きながら、剣に付着した血液を布で拭う。
「一旦ここを離れましょう、近くにはいないようですが血の匂いに寄ってくるかも」
この街にある魔物の反応は、あと11。幸いこの付近では反応がないが、いつ遭遇してもおかしくない距離だ。
「ハル、立てますか?」
剣を納め、ハルに手を差し出す。突き飛ばしたのは咄嗟のことだったので力加減ができなかった。完全に転ばせてしまったようだ。
しかし、ハルが私の手を取る気配はない。
私に向けられるのは、ただただ怯えの視線だけ。
「ハル・・・急いで」
差し出した手は、それでも決して取られることはなく・・・結局ハルはリッドに抱えられるようにして立ち上がり、そのまま街の門を弱々しい足取りで出ていく。
丁度転移してきた街道あたりまで戻ったところで、未だリッドの支え無しでは歩けずにいたハルが、ついに座り込んでしまった。
まぁ、この辺りは近くに隠れられる茂みも見当たらない。それなりに安全、だろう。
「なんで・・・女の・・・女の人だったよ!」
確かに女性だったと思う。しかしあれほどに変異した姿を見ても、一度人間として認識してしまえばそれがまるで特別なように感じられてしまうのはどうしてなのだろうか。
「元に、戻るかも、しれなかったのに・・・!」
ハルの言う”何故”は、つまり・・・
「なんで・・・どうして殺したの!!!??
あれは人間だった!
人間、だったのに・・・!」
ハルの言いたいことはわかる。しかし、許容は出来ない。それにしても、責められるのはなかなかに心を抉られるものだ。
何をどう言えばいいのかわからずに口ごもると、それを罪悪感と見たのか、ハルの追求の言葉は勢いを増した。
「ボクを助けるためだったのはわかるよ・・・!
でも、なにも殺さなくてもよかったじゃないか!
カナデならそうできたでしょ!?なのになんで、なんで平然として・・・っ!
この・・・人殺し!!!」
ぱしん、と軽快な音が鳴る。
勢い良く捲し立てたハルの言葉は、ザルツの平手によって途切れた。
目に涙を溜めたままのハルは、そのザルツをも責めるように視線を送る。
「ザルツは・・・っ、いつでもカナデの味方、なんだね・・・こんな状況でも・・・!」
「ハル、少し頭を冷やしなさい」
ザルツの言葉は、あまりに冷たく響いた。今その言い方は逆効果な気もするのだけど・・・
「ハル、気づきませんでしたか?
街の中には至るところに血の痕が残っていました」
「魔物に襲われたんなら当然じゃないかそんなの!」
「では、死体は?」
「!?」
街の中には争ったあとと見られる血痕や建物の破損は見て取れたが、確かに死体は転がっていなかった。あの街の規模なら、小さいとは言え1000人単位の人が住んでいたはずだ。街が襲われたのだとしても、その亡骸が無いというのは不自然なのである。
「ティエラ、街の中の魔物の反応はいくつありました?」
「転移直後で13・・・今は11、ですけど」
女が食らっていた魔物、そしてその女は私が倒したのでその数は当然減っている。それにしたって元々の街の推定人口に比べて反応が少なすぎる。半分が街の外へ逃げたと仮定しても、あまりに少ない。
「その反応が、元はどんな生き物だったものなのかはわかりません。
ですが、状況から考えるに」
数を減らして報告した私へ向けて、ハルの非難がましい視線が痛い。
「その11の反応が、この街における争いの・・・あるいは食物連鎖の頂点に立っている」
「しょくも・・・つ・・・?
・・・っそんな!まさか、そんな・・・!」
「では、他の1000人近くの街の人たちはどこへ?」
街の中の不自然に血痕だけが残っていること、ハルの目の前で魔物同士で争っていたこと、そしてそれを食らっていたこと。それらを考えれば、ザルツと同じ結論に至ってしまうのは仕方のないことだと思う。元々は人間だとしても、魔物化した以上他の魔物とは違う、なんてことはありえないだろう。互いを襲い、争い、奪い合った。
気分が悪いなんてもんじゃない。
「・・・なんで、みんなそんなに、平然と」
「別に、平気なわけじゃないですよ、ハル殿。
でもまぁある程度の惨状は覚悟してはいましたね、ここまでひどいとは思ってなかったですけど」
肩をすくめるようにしてサイファが答える。横で静かに目を閉じて、リッドがゆっくりと頷く。私も、ザルツも同じように頷いた。
「誰も生き残っていないかも知れない、って・・・それくらいはボクも思ってた。
でも、そうだよね・・・街の人だって、魔物化、して・・・
襲ってくるかもしれないって、少し考えれば、わかること・・だったの、に」
ハルの目に再び涙が浮かぶ。
「少しだけ、ちゃんと落ち着くから、もう少し、待って・・・」
しばらくの間、ハルは静かに泣いていた。それに背を向けて、けれど決して離れずに、私達もまたこの残酷な現実を受け止めるべく、ただただ沈黙していた。




