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今のところ、探知魔法には目立った反応はない。どこもかしこも魔物の反応だらけではあるが、見つかるのは全て普通の魔物特有の、少し濁って揺らめく霊力反応ばかり。霊力が決定的に色を変えるような反応には出会っていない。
魔力探知にも目立って強い反応はなく、そういった探知に引っかかる反応の薄い場所を選んで野営をしながら進んでいるわけだ。
3日目の朝。旅は今のところ順調だ。少なくとも未だ、私の危惧した事態にも遭遇していない。
しかしそれも時間の問題だろうと思う。魔物化に例外は、無いだろうから。
「この辺りにも反応はありません。
次の場所に行きましょうか」
「了解、今この辺りだから・・・」
地図と現在地を照らし合わせながら、ハルが次の転移先の候補を絞っていく。
「丁度中央部のこの街が見えた辺りの街道なら、いけるかな」
ハルが示したのはカルムという街の少し北側。この街には立ち寄りはしたが滞在はしていない。最低限の補給を済ませて通過したはずだ。
それでもずっと草原や森に囲まれた道中で、目の前に街が現れるとそれなりにインパクトは残る。この街の手前への転移門ならば、私も開けるだろうという程度には。
無意識に、ごくりと喉が鳴る。今回の旅路で街に向かうのはこれが最初である。
私は大丈夫。自分に言い聞かせるように、そう思った。そんな私を心配そうにちらりと見たサイファもまた、恐らく大丈夫なんだろう。
「さて、行くよ!”転移門”!」
魔法を使う時にその名前を口に出すのは相変わらずのハルの癖だ。その声には緊張は無い。
ハルの言葉通り、転移門をくぐって見えたのはあまり大きいとは言えない街だった。以前特に長く滞在することもなかったのは、なんの特徴もない街だったから、というのが理由の大半を占めていた。
街の周囲は背の低い獣避けの石塀で囲まれており、その外側にも畑なんかがちらほらと見える。しかしその畑は踏み荒らされて作物など見当たらないし、石塀もまたところどころがひび割れ、あるいは完全に割れて侵入を容易なものにしている。
以前ならば恐らく煙を上げていたであろうたくさんの煙突も火の気のなさを示しているし、一応は立っていたはずの門番も当然、いない。
人気がない。
当然ではあるが、今はそれが救いかもしれない。
「ラーサには生き残りがいるかもしれない、って話だったけど。
この辺りはちょっと厳しい、よね・・・」
私達が南下してラーサを目指しているのは、アイゼスト南部であるラーサの街には、まだ取り残された人間がいるかもしれないからだ。場合によってはラーサに到達した後、その人たちを護衛しながら戻れるように。
しかし南端に位置するラーサと違い、ここは完全に霧の中。生き残りがいるかと思うかと問われれば、間違いなくノーと答える。
「それでも、一応探すだけ探しても、いいよね・・・?」
「ハル、待って」
希望にすがるように、ハルがふらふらと街へと一歩を踏み出す。それを制止したザルツは、ハルの腕を掴んだまま、辛そうな顔で私を見据えた。
「・・・街の中に、魔物の反応が複数」
ハルの顔が青ざめる。
「はやく、助けないと・・・っ!」
ザルツの腕を振り払い、ハルは駆ける。その先に、助けるべき人間がいるのかどうか。もはやハルはそれを正常に判断できていない。
「ぅ・・・うぇっ・・・」
”加速”を使ってでも止めるべきだっただろうか。
しかし、この旅を続ける以上、いつかは目にしなくてはならない光景。直視しなければいけない現実が、そこにあった。
涙を流し嘔吐するハルが見たものーーー人を襲い、そして喰らう、人の姿。
その目に映るものは例外なく獲物であり、それが昨日の隣人であっても、愛する子供であっても・・・それは変わらない。
勿論、立ち尽くすハルもまた、獲物であるという点では同じ。
「ハル!」
顔を上げられずにいるハルに、太い腕が伸びる。
長い髪を荒れ放題にしたその腕の持ち主は、恐らくは女性なんだと思う。破けたスカートの裾から覗く太ももにも、女性らしからぬ発達した筋肉が見て取れた。
”加速”!
最大限に加速した私の体は、女の腕がハルを捕まえるよりも早くその間に入り込み、腕を刎ねた。
「ぎゃあああああああああああああああああ!!!」
女の口から発せられた絶叫は、確かに人間の面影を残していた。
その声に、思わず一瞬顔を顰める。
けれど、私は止まらない。後ずさる女から遠ざけるようにハルを後方へと突き飛ばし、その反動をも使って剣を振るった。
これが人間であったり、あるいは動物であったなら。腕を落とされた時点で相手は逃げ出しているだろう。しかし女は忌々しげにこちらを見据え、
「あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛!!!」
もはや言語を失い、しかし動物とは異なった声帯のある発音で・・・奇声をあげながら再度向かってくる女の、心臓あたりに刺突を繰り出す。
その体を貫いた剣から、赤く生温かい血液が私の手へとつたって、そして滴り落ちた。




