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「8時方向から向かってくる反応が3つ!」
「くっそ、次から次へと・・・っ!」
文句を言いながらもサイファの動きは止まることがない。
魔物化の影響か、随分と巨大な猪を相手に、リッドが正面に立ちその牙を剣でいなしながらも隙を見ては前足に傷をつけていく。一方のサイファは身軽さを武器に、空中から不規則に向かってくる数羽の嘴を難なく躱しては、まるで空中に足場でもあるのかと思うくらい高く飛び上がり、確実にカラスのような真っ黒い巨大な鳥の首を落としていた。
2人の戦いぶりは見事の一言に尽きる。しかしいかんせん数が足りない。8時方向からの増援を迎え撃つべく、私も動く。
現れたのは筋肉の浮き上がる馬が一体、そしてこれまた巨大な鶏が二体。家畜として飼われていたのかもしれない。
魔物化した馬の脚力は半端ではない。こちらを視界に捉えたのだろう、一気に加速して突っ込んでくるが、その速度は地を蹴った瞬間からトップスピードに乗り、まだ数十mはあったであろう距離が一瞬にして詰められた。
私の背後にはザルツとハル。ハルは魔法での攻撃しかできないので今は見学に徹してもらっている。一方のザルツは一応剣が使えるということもあって武装はしてもらっているものの、正直戦力として数えるつもりはない。自分とハルの身を守れるように障壁の魔導具をいくつか渡してあるので、後衛の防御担当である。
チラリと後ろを見ると、ザルツがドーム型の障壁を張っていた。魔人ではなくただの魔物の攻撃程度であれば問題ないだろう。守りに気を取られる必要もない。
前方から馬が頭を下げてこちらへ突進してくる。恐ろしいスピードだ。加速を使っていなければその動きに反応できたとしても避けきれないだろう。
横飛びに突進を避けると、姿勢を低く保ったまま私は剣で前方を薙ぎ払う。そこには後ろ足で急停止を掛けるためにバランスの崩れた馬の右腿。微細に振動する魔導具である私の剣は、その発達した筋肉の塊を易易と切り裂いた。
後ろ足に体重が乗っていた馬は、支えを傷つけられさらにバランスを崩す。横倒しになりそうなところを踏ん張る力はさすが魔物といったところではあるが、その隙を見逃すはずもない。大きく傾いて持ち上がった頭部に向けて、一閃。首を刎ねることはできなかったが、その半ば、恐らく気道を傷つける程度には深く、魔物の首に傷を与えた。
液体に空気が通るコポコポという異音をあげながら、後退りする魔物。2,3歩後退したところで、その体は崩れ落ちた。首筋の傷からは真っ赤な血液が一定間隔で泡を吹き、出血に拍車をかけている。恐らくかろうじて行っている呼吸によるものだろう。
いまいましげにこちらを見上げる馬の傷口に、もう一太刀。
完全に胴体と分離した馬の目は、その血と同じ赤色をしている。
「あの鳥はお任せを!」
遅れて向かってくる2体の鶏に、猪たちを片付け終わったリッドとサイファが迎え撃つ。
あの2人、性格が大分違うので気が合うのだろうかなんて心配をしたりもしていたのだが、戦闘における相性は抜群にいいようだった。敵の正面に相手取り防御しつつ妨害を行う盾役のリッド。そして素早い動きでその背後に回り込み畳み掛けるサイファ。素人目に見てもどちらも一流の戦士であるが、2人が組むと増々厄介な相手だと思う。味方としては頼もしい限りである。
「今日はこの辺りで野営にしましょうか」
ザルツの言葉を受けて、サイファとリッドはあっさりと倒された哀れな鶏を捌き始める。飛べない鳥はあまり脅威にはなり得ないのだった。
手際よく羽を処理していく2人同様、ハルやザルツもまた手慣れたものだ。しばらく傭兵として旅をしてきた分、メンバー全員すっかり旅慣れている。現地での食料調達もお手の物である。
魔物化した動物は決して毒ではない。元の生き物同様食べられる。食べられるのだが・・・味の方はお察し、というものである。急激な変異により筋肉を増した魔物の肉は硬く筋ばっていて食感はあまりよくはないのだ。しかし鶏はしっかりと鶏肉の味だし、ここで鶏の魔物が現れたのはある意味幸運である。さすがに猪とかは癖が強いからね。
ここまで旅は順調に進んでいる。いや、成果が無いためそこは順調とは言い難いのだけれど。
”鬼”の封印の石碑は、割れていた。故に私達は第一の目標である”鬼”の捜索のため、アイゼストの北西の遺跡から南下し、ラーサの街に向かっている。以前も通ったルートである。
何故このルートを選んだかと言うと、転移門の限界のためである。
なにせ転移門は一度行ったことのある場所にしか転移できない。尚且つ場所をイメージしなければいけないため、ある程度特徴のある場所を転移先に選ぶことになるのだが、私達がアイゼストでゆっくりと周りを見る余裕が生まれたのは帰路についてからだった。要はアイゼスト西側をまっすぐ南へ進むルートしかあまり記憶に残っていなかったのである。
そのルートの中でも、精霊の泉の近く、とか、経由した街の入り口、とか、点々と記憶にある場所をハルが転移門でつないでくれている。
転移した先を中心に探知魔法を広げ、カバーできていない範囲があれば多少徒歩、あるいは飛翔の魔法で移動するといった具合だ。




