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「では我々は何のために・・・っ!」
普段温厚なリッドが声を荒げる。騎士としての誇りもあるのだろう、一応は主人にあたる私が戦っているのをただ見ていろというのは確かに屈辱的であるかもしれない。
「リッド、サイファ。
2人に同行をお願いしたのは、魔物から私達を守ってもらうためです。
霧の中で魔物化していない動物は、精霊を宿していないもののみ・・・
そういった生き残りはゼロである可能性も高いです。
それら全てから身を守るのに、私やハルでは魔法に頼った戦い方になる。
それでは魔力が足りなくなる恐れがあります。
そんな状況で魔人と遭遇したらアウト、最悪の場合全滅です」
まっすぐ2人を見つめて、私は続けた。
「防御は障壁の魔導具で固めることができますが、攻撃ではそういうわけにはいきません。
物理的な戦闘技術を持ち、危険な場所に同行を依頼できる方・・・お2人しかいないのです」
「ま、なんにせよ俺は行きますよ」
軽い口調でサイファが口を開いた。まるで呆れたような、けれどそれを嫌がる風でもなく、サイファの猫尻尾の先がゆっくりと揺れている。
「元々守られて安全地帯にいるのを良しとするような姫様じゃありませんしね。
まったく大した度胸と覚悟ですよ、絶対傭兵のほうが向いてますって」
それは私もそう思う。元々人に頼ったりあるいは使ったり・・・そういうことは苦手なのだ。人間関係を希薄にしてきたツケというやつだろう。自分でできることや試せることはついつい自分でやろうとしてしまう。それは単純に他人に依頼することへの苦手意識と、相手に迷惑だろうなとか考えすぎてしまって躊躇ってしまい、それなら自分でやるほうが早いじゃない、という結論に至るからだ。多分日本にそのままいたらこの性格のせいでいつの間にか大量の仕事を抱えてオーバーワークに、なんてことになっていたと思う。
サイファの言葉を受けて改めてリッドを見つめると、彼もまた諦めたような表情で今回の作戦における役割分担を了承してくれたのだった。
旅の準備は整った。
となればやることは一つ。
飲み会である。
なんだか不謹慎な気もしなくもないが、私達はこれまでも遠征の度にチームの結束を高めるため、あるいは遠征の緊張を紛らわすため・・・まぁ理由はともかく必ずこうやって集まっていた。
その習慣は変えない。
変えてしまえば、それはまるで世界があまりにも変わってしまったように思えてしまうから。状況が変わっても私達の日常はここにあるのだと胸に刻み込むのだ。そんな事を考えているのは私だけかもしれないけれど。
サイファとリッドが加わったことで歓迎会のような雰囲気もあり、遠征には参加しないがギィやウルド、ロッシュも集まって、膠着していた状況の変化を喜び旅の成功を祈ってくれてもいる。
「カナデ、帰ってきたら魔物化防止の魔導具の量産について詰めないとな。
資料はもらったし、俺もいろいろ考えてみるわ」
ギィの言うように無事遠征が終わってもやるべきことはたくさんある。・・・だから必ず帰ってこなくてはならない。
「あーカナデの作ったケーキがまた食べたいなぁー」
たまに時間を見つけてはケーキを焼いていたのだが、ウルドの胃袋を掴むことには成功していたらしい。
「5日の予定だっけ?戻ってくる頃には背が伸びてるといいな、ハル」
「どうせ大して伸びなかったよ!!!
5日で伸びるならボクは今頃ロッシュを踏み潰してるよ!?」
茶化すロッシュに、ハルはいつも通り文句を言う。
これが私達の愛すべき日常だ。古代文明の負の遺産なんかにこれ以上壊されてたまるものか。
アイゼストを”病”の支配から取り戻そうとか、トリスを守ろうとか・・・そんな気持ちは正直全く無い。私にそこまでの力は無いと思うし、何より私はそれほど優しくはない。
けれど、私は魔人の討伐を父に託された。
世界のためとか全ての人々のためとか、あるいはこの地の未来のためとか。
そんなのは知らない。
手の届く範囲にある大切なものたちだけを守れればそれでいい。
だから私は、命に優劣をつけるつもりでいる。ザルツは意外とドライなので、興味のないものには無関心だから恐らく大丈夫。
ハルは、どうだろうか?
「カナデ、なんか怖い顔になってんぞ」
「幼気な少女をつかまえて怖い顔とは失礼なっ」
考え事をしているうちについつい笑顔を忘れてしまっていたようだ。ロッシュに言い返して、冷えたグラスに手を伸ばす。
うん、この場は楽しまなくては。
「意味わかって言ってる?だとしたら自己評価が残念すぎるね」
「ティエラ様、もう成人したんですから少女というのも・・・」
「ついでに人妻だしねー」
・・・皆様容赦がありません。
こんな風に軽口を言い合える仲間を、心の底から大事に思う。
だから先程の決意をもう一度胸に刻んで、今はただ笑っていよう。




