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「とはいっても、霊力の・・・あるいは精霊自体の、なのかもしれませんけど、その変質は目印に過ぎないと思うんです」
「魔物化に霊力は関係ない、ってことー?」
「はい、魔物化に精霊が関係しているのであれば、古代文明時代には魔物はいなかったことになりますし」
しかし実際には遺跡から発掘された日記には魔物についての記述があるし、なにより封印された魔人がいるわけだから、精霊がいなかった時代にも確かに魔物化という現象は起きていたはずだ。
「となると、魔物化を防ぐには魔力の流入を制限できればいいわけか?」
「あるいは体内の魔力を排出するか、か?
だが流入する速度と排出の速度を合わせるのは、流入を防ぐよりも難しそうだな」
現状霧の中でどれだけのはやさで魔力量に変化が現れるのかはわからない。個体差があるのかどうか、小動物にくらべて大きな動物ではもっと時間がかかるのかどうか・・・そういったあれこれを現段階で測定するのは難しい。そういう意味で、確かにギィの言うように魔力の排出機能という方法は難易度が跳ね上がるだろう。
「流入を防ぐという方法でいいと思うんですが・・・」
「ですが?」
「問題はどういう風に流入しているのかもわかっていないことですかね。
そもそも霧に触れるだけでアウトなのか、吸い込むのがダメなのか。
そして魔物化が始まったとして、その魔力はどこから取り込まれているのか」
「んー・・・コンセプトを変えていくつか試作品を作るとして、動物実験するしかないですね」
やはりそれしかないだろうか。失敗すれば魔物化一直線なのがわかっているだけに、どうしても躊躇してしまう部分はあるのだが。
「んっじゃその方向で考えるとしますかね。
カナデはしばらく貸してくれるんだよな?ザルツ」
「仕方ないですね、お貸ししましょう」
「勝手に貸し借りしないでくださいよ、物じゃないんですから・・・」
魔導具作成の補助をするのは始めからそのつもりだったし異論はないが、年々私に対する扱いは雑になっているような気がしてならない。
ミーティングを終えて、旅の疲れもあるだろうと今日は解散になった。しばらく馬車に揺られていたせいで、軽い目眩のようなゆらゆらとした振動を未だに感じていたので、今日は早めに休むことに決めて帰宅した。
「おつかれさま、カナデ」
自宅の玄関をくぐると、肩の上に具現化したレイが労ってくれた。
「ありがと、レイ。
レイはあの霧どう思う?」
私の中で同じものを見ていたレイにも意見を聞きたかったのだ。
「あれ自体が凝縮した魔力だったりしたら対策もカンタンだったのにね」
レイが言う通り、あの霧自体が魔力そのものだったならば、それを取り込まないようにすればそれでよかった。しかしその可能性はゼロと言っていい。もしあれが魔力が可視化したものなのだとしたら、あの霧の中で魔力感知は意味をなさなかったはずだ。しかし実際には内部の様子を魔力感知で探ることができたわけだから、全く違う何かということになる。
「あれが何か、か・・・」
うーん、どうして魔力が急に限界を超えて流入するのか。古代文明時代と違って大気中に魔力があるわけではない。今は精霊を介さなくては魔力を取り込むことができないのだ。その違いがあるにも関わらず結果は同じ。ということは?
「魔力に直接働きかけるわけではなくて・・・体が本能的に魔力を取り込むような状態に、する?」
それならば精霊の有無は関係なくなる、ような気がする。
「精霊を宿していない、生まれたばかりの動物ならば変異しないのかしら」
うん、これは確かめる価値があると思う。
「そういえば、動物も精霊を宿してるよね?」
「そうね!」
「・・・どうやって宿してるの?
人間と違って皆が皆精霊の泉に行くわけじゃないでしょう?」
「多分、食事だと思うわ!」
「食事?」
「人間は精霊の泉の水を飲んで精霊を宿すけど、別に泉以外のところに精霊がいないわけじゃないわ。
泉に多いっていうだけで、木々とか草とか・・・そういうものにだって精霊はいるのよ」
「そういう植物とかを食べることで精霊を取り込んでいる、ってこと?」
「多分、だけどね。
人間は食事をする前に加工するし、草木も一度摘むじゃない?
だからそういうものから取り込むことが出来なくてわざわざ泉に足を運ぶんだと思うわ」
ふむ、例えば地面に生えた草ならそのままかぶりつくのと一度摘むのとでは違いがあるのか。
しかしそれならば、生まれたての動物でかつ食事を一度もしたことがないという条件をつければなんとかなる、か?
問題はそれをどうやって見つけるかだけれど・・・
「自分で鳥の卵でも孵したらいいじゃない」
・・・卵か。




