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世界樹は夢を見る  作者: 深月
黒い霧
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「これにて任務しゅーりょー!」


高らかなハルの宣言と共に、情報収集&護衛任務の旅は終了。外壁を抜けて帰還したスーリヤの街は、今日も平常運転だ。


街を守る外壁ができたり政府機関が移転してきたり、あるいはアイゼストから多くの人々が流入してきたりという変化はあったが、この街の雰囲気はあまり変わらない。以前よりも昼間も賑やかにはなったが、学術都市という姿を変わらず保っている。

5年前の混乱期には一時期荒れたこともある。なにせトリス以外の全ての国が激動の時であった。トリス出身者にはさほど影響はなかったが、故国の戦争の行く末を心配する者やアイゼストの魔物被害で家族が亡くなった者も多かった。そのうちの一部の者は留学を切り上げて帰国したし、そうでないものも精神的に荒れていた。この街にも言い争う喧騒や逆にお通夜のような静けさが生まれたりもしたのだが、5年という月日は決して短くはない。その時々で必要な事を行い、必要な物を生み出す。そうした人の営みの末、この街はやはり学問と研究の道を選ぶことになった。


勿論北側の研究棟は健在だ。その一角に政府機関がお引越ししてご近所さんになったりもしたが、そこで過ごす研究者たちにそれを気にした風はない。元々身分や年齢、あるいは種族というものに対して頓着しない者が多いからこそとも言えるが、ここの研究者たちには王族に対する緊張なんてものもほとんど見られない。当然と言えば当然のことだ、なにせザルツは長らくここで研究を続けているし、後からは私もそこに加わった。要は、慣れているのだ。



ザルツ研のミーティングルームはそんなわけで、今日もまったりと弛緩した空気が流れている。

帰還後すぐではあるが、取り敢えずの報告のためにメンバーに集まってもらった。今回は皆を集めるに値するだけの成果があったのだから。


「おかえりーカナデ。

ハルもお疲れ様ー」


続々と集まるメンバーたちに声を掛けながら、ウルドが紅茶の入ったカップを渡していく。ミーティングはお茶をしながらまったりと。他の研究室のチームメンバーを混じえても、その習慣に変わりはないのだ。


「ティエラ、ハル、お疲れ様でした。

心配で心配で仕方なかったですよ・・・主にティエラが無茶してるんじゃないかと思って」


一同の間に苦笑が起こるが、そのどれもがザルツの言葉を肯定するような空気。ひどい扱いもあったものである。


「ま、ボクがついてるんだから大丈夫だけどね。

今回集まってもらったのは、収穫があったから、だよ。

まずはどういう調査をしたかだけど・・・

調査地点は例の霧の境界から南へおよそ20kmあたり。

ボクが遠視の魔法で、カナデが索敵魔法で、それぞれ境界付近を観察した、ってわけ」


「結構近づきましたね・・・」


「うん、これまでになく踏み込んでみたよ。

ただし、一応安全マージンは取ってある。

すぐに退避可能なように空中で、障壁も何重にも張って、ね」


私とハルだけだったからこそ出来た調査。つまりは霧が急激に南下を始めたりした場合、すぐに後退することができるというのが強みだったのである。


「観察中、小さな生体反応が霧の内部に侵入したんです」


「遠視で見えたのは、一匹のウサギだったよ」


ああ、あれはウサギの反応だったのか。野生の小動物としか認識していなかった。私は索敵魔法を通してしか見ていなかったのである。

その索敵魔法も、3つを同時に使用していた。精霊の力である霊力を探る精霊感知、魔力そのものを見る魔力感知、そして生物を識別する熱源感知だ。その反応を全て視界にリンクさせることも可能ではあるのだが、広範囲をカバーするには不向きなため、遠視はハルに任せて私は索敵に引っかかる反応を見ることに専念していた。

それだって、始めのうちは3つ同時に使用することはできなかったのだが、自分の時間だけを引き伸ばし、ゆっくりとした時の流れのなかで思考するという、いうなれば思考加速を思いついたことによって、なんとか情報の処理が可能になったのだ。それなりに頑張ってるんです、私も。


「霧に侵入したその反応を観察していたんですが・・・数分は特に反応なし。

問題はその後です。

およそ3分後、対象の魔力が急激に膨れ上がっていきました。

魔力反応は増大し続け・・・最初の3倍程度になったところで霊力が変質を始め、完全に霊力が変質しきったのは魔力量が5倍ほどになった頃です」


「つまり、魔物化の最初のステップは異常な魔力の体内流入、ということ?」


「ええ、私はそのように考えています。

霧の作用によって異常なほど魔力が体内に流れ込み、許容量を超えることで霊力が変質、そして魔物化に至る、と」


これは懐かしいあの西の旅での経験も踏まえての推論だ。

カチアに索敵魔法を教えてもらったときは、霊力感知しか使えなかったが、それでも魔物とそうでないものとの区別をつけることはできた。それは本来なら透き通って見える霊力の反応が、魔物の場合濁り強風に吹かれるかのように揺らいでいたからである。

その過程で霊力が少しずつ揺らぎを持ち変質していく様も、魔人化したタリムの反応を見て知っていた。

その過程を早送りしたような変化が、今回観察された索敵魔法での反応である。

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