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今回赴いたのはアイゼストの南東。アイゼストは北部が魔物に埋め尽くされ、南東のわずかな土地に無事であった人々が逃げ込んでいる状況なのだが、それだっていつまで魔物化から逃れられるかはわからない。”病”によると思われる魔物化の影響はじわじわと南下を続けているのだ。それは目に見える、黒い霧という形で現れている。
さらに出来る限り南へと逃げ出したいと思うのは当然のことではあるのだが、そこからさらに南というのは他国、つまりはトリス国になる。現在の状況を理解しているからこそ、勿論受け入れ拒否なんてことはしていないし、そもそも他国からの流入を防ぐような仕組みも存在していない。
ただ、そういった人々の数は決して少なくはない。それ故に、全員の住居の確保や職の斡旋先の確保が未だ難航しているのが現状だ。
そういった準備を待たずに移動してくる人々もそれなりにいる。元々アイゼストは獣人が多く、腕に覚えのある者もそれなりにいる。そういった人々が主となって我先にと移住を進めた結果、戦う術を持たない人々が取り残されたという一面もある。
なによりも、国全体としてそういった層が多かったことで、魔物化による脅威度が格段に増したとも言える。獣人の力、戦う技術、そこに魔物化による肉体の強靭化と凶暴性がプラスされたことで、中途半端に戦える善良なる者たちは人々を守ろうと前線に出て、そして淘汰されてしまった。それ故に、アイゼストに取り残された人々が移動する上での護衛役が激減したのだ。
私達のように雇われて護衛をする者たちは物資を運ぶ商人の護衛だけではなく、そうしたトリスへの移住を希望する人々の護衛ももちろん請け負ってはいるのだが・・・身の安全を保証するものがなにもない状況で、無償で引き受ける者はいない。むしろ無償で奉仕してしまっては他の傭兵を生業とする者たちの仕事を奪うことにもつながるため、ある程度の金銭を受け取ることが暗黙のルールとなっているくらいだ。
そんな中、私達は同業者に睨まれない程度の安値でそういった移住の手助けを引き受けている。商人からは他の同業者と同じくらいの値段を取っているけどね。
そういった活動をしてはいるが、慈善事業のつもりはない。
単純にもののついでであり、特に経済的に困っているわけでもないというだけのことだ。
ついでというのは、つまりはアイゼストでの情報収集にどうせ遠征を行う必要があるから、なのだが・・・
「今回の遠征の成果で研究は進むはずでしょ?
戻ったら報告と作戦会議しないとね」
そう、ハルの言うように、今回の遠征では今までにない成果が得られた。そのためしばらくは遠征は中止の予定である。
なにせ今回の遠征は私とハルの2人だけで行った。普段ならここにミュールから逃げ延びたサイファとリッド、そしてゲインとザルツ、場合によってはセルガが同行するところなのだが、あまりに進展の無い状況に業を煮やしたハルによって、かなり強引に計画が進められたのだった。
私とハルだけでの行動であるが故の身軽さを駆使した計画。それは、”病”による黒い霧に近づき、可能であれば内部を観察するというものだ。
勿論うっかり近づきすぎて魔物化するわけにはいかないので、実際はかなり遠方の空中でいくつも障壁を展開し、その外側には霧を押し返すように風を発生させ・・・とまぁ出来る限りの対策をとってのことではあるが、ハルが魔法で霧の内部を観察し、一方私は索敵魔法で魔物の反応を探るという方法で、今回初めて小さな動物が魔物化する様子を見ることが出来たのである。
これまでは魔物化を防ぐ方法を模索しようにも、魔物化の原因どころかプロセスすらわからず立ち往生していた。今回の成果でそれが一歩も二歩も進むと期待できる。
「ギィは一気に忙しくなりそうですね・・・」
「まあそこは頑張ってもらうしかないねー」
「ハルも霊石の補充に駆り出されますよ?」
「うぇ・・・あれ飽きるから嫌い」
現在は増えた魔物への対抗策として様々な魔導具を開発し、その普及に努めている。そのため魔導具作成に用いる霊石はいつも不足している。自分たちで実験に使う分は自分たちで補わなくてはならない状況だ。
「魔物化を防ぐ魔導具・・・それが完成したら、武器の類よりもよほど普及が望まれますよね」
「・・・トリス国民に霊石の作成を義務づければいいよ!!」
「正直否定できませんねその案」
慢性的な霊石不足は深刻な問題だ。有用な魔導具を開発してもなかなか量産が難しいのだが、その要因の一つになってしまっている。とはいえアイゼストやミュールから原石を輸入することもできないため、人海戦術で霊石を作ろうとすると今度は原石が足りなくなる。今はトリスとアルディアの間にある山脈に埋まる原石を、トリス国の力だけで掘り起こしているのだから。
できるなら、アイゼストからの移民たちには積極的に採掘の仕事に就いて欲しいところだが、強制もできず難しいところである。




