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20話に満たない程度の短い章ではありますが。
前章から5年程ワープしております。
またお付き合い頂ければ幸いです。
「右前方に魔物の反応!」
「はいはい、任せなさい、っと!
サンダーボルト!!」
既に20匹以上の狼の群れが地面に横たわってる。索敵にかかった新手の数は6体。それもハルの魔法によって落とされた雷撃で既に黒焦げ。魔物の群れに怯えていた護衛対象の商人は、あまりのあっけなさに呆けている。
「お疲れ様です、ハル」
「カナデもお疲れ」
目的地であるスーリヤももう目と鼻の先。今回の護衛依頼も問題なく完遂できそうだ。
ミュールとアルディアの戦争から5年が経った。わずか5年の間に魔物の数は激増し、今や戦う術を持たない人々が単独で移動することは難しい。とはいえ1つの街の中で人の生活を完結させることは不可能だ。食料や物資をやり取りして補い合うことでなんとか現状を維持している。そうして街を行き来するのは主に商人たちであり、彼らが護衛を雇うのが常識となっている。この世界からは、平和という言葉は消え失せたのである。
そういった事情から、傭兵を生業とする者たちも激増した。その多くは転生者であったり、元は兵士として魔物と戦っていた者だったりするのだが、そういった者たちにとっても魔物の力は脅威だ。平和な時代には一体の魔物を討伐隊をくんで処理していたのだから、現在の状況は過酷としか言いようがない。運が悪ければ先程のように群れに襲われることもあるのだ。
ただ、私達がこうして護衛して回るようになったのは比較的最近の話。そろそろ半年が経つ頃、だろうか。最近では私達の名前も知られてきて依頼の件数はうなぎ登りだ。最強パーティと呼ばれることも珍しくない。
とはいえ別にそれまで遊んでいたわけではない。これまではスーリヤの研究者として、できる範囲でこの変化への対応作を取っていたのだ。
当然ながら、世界が平和でなくなったからといって、人間の力が急激に変わるわけもない。しかし魔物は倒さなくてはならない。故に、人間は・・・というより私達は、新たな道具を生み出した。
一つは武器型魔導具。微細な振動により切れ味を増した剣であったり、炎や氷を生み出す槍であったり。これらはギィ主導で開発が進められ、傭兵たちの間で普及している。
もう一つは大規模障壁であり、これはスーリヤをぐるりと囲む外壁を築き、そこに組み込んだ。普通ならば王都の守備に使うべきなのかもしれないが、スーリヤには研究棟がある。魔物に対抗するための魔導具の研究を進めるためにも、王都よりもスーリヤを優先したのである。そういった事情から、王都の主な政府機関やらなにやらはごっそりスーリヤへと場所を移すことになった。今はスーリヤがトリスの王都であるとも言える。スーリヤが現状唯一の安全地帯なのである。
「それにしても、やっぱり北へ行くほど魔物は増えるね」
「そうですね・・・原因はやはり”病”でしょうか」
「”鬼”も討伐されてないって話だけどねぇ・・・」
私達が傭兵をしているのは、各地を回って情報収集するためだ。旅をする人間が減った今、最も不自然な点なく各地をまわることができるのは商人か傭兵のどちらか。しかし商人という立場をとると、商品を運んだりと偽装をしなくてはならずあまり身軽にどこへでも、というわけにはいかず、腕に覚えもあるし傭兵として、ということになったのである。
魔人の情報、そしてミュールとミュールに組み込まれた旧アルディア内部の情報を求めて足を伸ばしているわけだが、正直あまり捗っているとは言い難い。何よりも情報を運ぶ媒体である人間の分布が偏ってしまっているのだ。
「一度北に行ってみないことには話にならないかも」
「問題は”病”対策ですか。
ミイラ取りがミイラに、なんてごめんですからね」
探しているのは、”鬼”、”幻惑”、”病”・・・つまり封印されていた魔人の情報である。”鬼”は石碑の位置も明らかであったが、今では封印が解けたのかどうかもわかっていない。アイゼストで召集された討伐隊は、結局北部の魔物増加の対応に手一杯で”鬼”の討伐はなされていないのだそうだ。これは今では南東地域に移ったアイゼストの主要機関からの情報なので、討伐されていないということだけは確かなのだが、問題はそれを確かめようと思ったらアイゼスト北部に乗り込まなくてはいけないということ。”病”と呼ばれる別の魔人への対策を取らずには北部に踏み込めないのである。
彼ら3人の魔人については、日記の解読から多少の特徴はわかっている。”鬼”は残虐で人間を殺すことだけを目的としたような魔人。”幻惑”は人を操る精神操作のスペシャリスト。そして”病”は、あらゆる生き物を魔物に変異させる魔人。
無策で北に渡って”病”により魔物化しました、では話にならない。ハルや私が魔物化して理性を無くしたら事態は余計に悪化するだろう。
そんなわけで、ギィ主導で魔物化を防ぐ魔導具の研究が進められているところなのだ。




