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宿に戻った私とハルを、3人は寝ずに待っていてくれた。
「大丈夫でした?」
「ええ、目的は果たせました。
そこで提案なんですけれど・・・
ゲインさんやハルさんにも明かしたことですし、明日街を出たら空間転移の魔法・・・通称・・・えぇと・・・通称”転移門”の魔法でさくっと戻りませんか」
「ネーミングセンスやばいね、カナデ」
「そんなこと言われましても!!」
センスのなさには自覚があるのです。
「早く戻ってアルディアに戻りたいでしょうし、問題ないと思います。
その前に、明日もう一度バイゼル将軍にロロを飛ばさなくてはいけませんけど」
「なにかわかったの?」
将軍に手紙を送るということは、日記の解読に進展があったのだろうか。
「はい、残る2つの石碑の文字は、”幻惑”と”病”。
”鬼”についての記述も解読できました。
残忍で人間を殺すことだけを目的としたような大男で、身体強化に特化しているようです」
なるほど、”鬼”は強靭になった魔人としての身体能力をフル活用するタイプか。しかし残る2つの”幻惑”はなんとなくわからなくもないが、”病”・・・?
「討伐隊が整う前に”鬼”の情報が出せますね」
「戻ったら遺跡研の資料も使って他の記述の解読を急ごう。
情報があるとないとでは大違いだからな」
ゲインの言葉に頷く私達。ついでに石碑の位置も書いてあれば助かるのだけど・・・期待はあまりしないでおこう。
翌日、私達は街の東側に出てから街道を逸れて、転移門で馬車ごとトリス王都近くに帰還した。長旅というほどでもなかったが、なんだか疲れが押し寄せてきて、その疲労感がより一層帰ってきたという思いに拍車をかける。
アイゼストで私達の取り敢えずの仕事は終わったが、問題はこれからだ。残る2つの石碑の捜索、”鬼”の討伐・・・この2つは報告を待つことしかできない。そして何よりの問題は、ミュールがどう動くのか、噂は本当なのかということだ。
この状況で父王はどうしているだろうか。母は、兄たちは。
「ティエラ。
報告は僕達に任せて、先に戻っても大丈夫ですよ」
申し出はありがたいが・・・他のメンバーたちの顔を見回すと、皆頷いてくれる。
「ありがとうございます。・・・お言葉に甘えて」
皆の好意をありがたく頂戴して、私は一人アルディアへ向かうことにした。といっても転移門をつなげて通るだけ。道のりはたった1歩である。
「お嬢様、お帰りなさいませ」
自室を出て階段を降りると、セルガがすぐに私に気づいた。見知った二人のメイド、メルとスイが掃除している姿がセルガ越しに見える。特に慌てていたり不安そうな様子はないが、アルディア王都はミュールから距離がある。ここまでは噂が流れてきていない可能性もあるし、知らないのならいたずらに不安を煽るわけにもいかないだろう。
「お父様は王城ですか?」
「はい、最近は少し忙しくしていらっしゃいますので、お帰りも遅くなるかも知れません」
「そうですか・・・」
ふむ、どうしたものか。
「お嬢様、お茶をお淹れしますのでこちらへどうぞ」
ヴォイドを待つべきか考えていると、セルガがそう言って食堂のドアを開けた。
焦っても仕方がない、お茶を飲みながら決めても別に構わないのだ。促されるままに食堂に入り、しばらくするとセルガが宣言通りティーセットを持って現れた。
「アイゼストに行っておられたとうかがっております。
・・・急いでいらしたのは、隣国の噂が原因ではございませんか?」
セルガは噂のことを知っているようだ。さすがである。
「ええ・・・スイたちも噂のことを?」
「耳にはしているはずですが、詳しくはありませんでしょう」
知ってはいるのか、ならば内心かなり不安だったりするのではないだろうか。表情に出さないあたり王室付きとしてプロフェッショナルなんだろうなぁ。
「3日前、エイド様が北側国境付近まで向かわれました。
ミュールは経済的には豊かではありますが人口は少ない。
軍備ではアルディアに劣りますし、エイド様たち精鋭部隊が国境の警備に回りました故、そう簡単に攻めいることはできないでしょう」
「だといいのですが・・・
ミュール議会で開戦派が過半数を超えたらしいという噂を昨日耳にしました。
ミュールのすぐ北、ラーサの街で聞いた噂ですので、こちらより情報としては新しいかも知れません」
「なるほど、そうでしたか・・・」
「念の為ミュール東に転移できるようにルートを確保してきました。
お父様にそのように伝えてもらえますか?」
「ミュールの・・・内部にですか?」
「ええ」
答えると、セルガは少し苦々しさを混じえた笑顔を浮かべた。
「ルートの確保は喜ばしいことですが・・・御身の安全を疎かにしては困りますぞ」
・・・はい、すみません・・・・・・




