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世界樹は夢を見る  作者: 深月
スーリヤ学術都市
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夜。

念の為出来るだけ目立たないほうがいいだろうと、真っ暗になってから私とハルはミュールへと出発した。

ここから南へ、速度によっては30分程度で着いてしまうだろう。街の外に出てからすぐに、2人で空へと飛ぶ。街の中の人の姿が点にしか見えないほどの高さ。この高さまでくると非常に寒い。自分を包む空気を暖めてから南へと加速。


ハルは遺跡への道のりでも見せたように、なかなかの速度で南へと下っていく。とはいえ私やレーヴェほどの速度ではない。ハルは漫画や小説に出てくる魔法を参考にしていると言っていたし、それが枷となって出力の限界値が低くなっている可能性もある。といってもこの世界では多分十分に規格外すぎるのだろうけれど。




真下に小さく検問のような物が見える。地形的にも恐らくここが国境で間違いないだろう。

遥か下方に国境をまたぎ、無事ミュールへと入ることができた。騒ぎになったり灯りが動く気配も無いので、気づかれてはいないだろう。

そこから少し南下すると、東側に林が見えた。ハルが身振りでその林を指差し、降下の意思を伝えてくる。少し西側に離れたところにも灯りが見えているので、恐らくあれは街なのだと思う。となればあまり不用意に近づくわけにもいかない。一先ず林に降りるのがいいだろう。

頷きを返して、林の上空から念の為地上へ向けて索敵の魔法を使い、誰もいないことを確認してからすばやく降下した。


「到着、っと」


「西の方に灯りが見えましたね」


マジックボックスから地図を取り出し、小さな光を点して確認すると、やはりアイゼストに最も近い街で間違いなさそうだった。ミュールは南北に狭く東西にのびた国だが、その面積は他の国々と比べてかなり小さい。

その小さな国の中に交易の中継点となる街が点在しており、そのどれもが比較的大きく栄えているらしく、街と街の間が極端に狭いのが特徴だ。交易が盛んなだけあって街道の整備には力を入れているようで、その狭い距離も馬車の行き来が容易になっている。

これ以上近づくと街道沿いに野宿をしている商人に見つかる可能性もある。この辺りで戻るのが懸命だろう。

転移先にちょうど良さそうな少し開けた場所を探して、地上を歩く。明かりはつけてはいるが、外に光が漏れないように私達の周囲5mほどのところに結界を張っている。これならば光だけでなく音が漏れることもない。


「そういえばハルさん」


「んー?」


「本当はアキも喋れるでしょう?」


直球で聞いてみた。


「なんで?」


「ハルさんの前世の記憶量、私と多分そんなに変わらないですし」


他の転生者は、場合によっては自分が転生者であるとわかる程度の記憶しか持っていないのだ。私のように意識もそのまま転生したわけではないかもしれないが、それでも日本の漫画やゲーム、携帯電話の表示・・・そういったあれこれを覚えているのだから、私とそれほど差があるとは思えなかった。


「・・・まぁ、カナデにはわかっちゃうか。

うん、ほんとは喋れるけどね」


ハルはちらりと自分の肩の上の精霊を見て、少し困ったように笑う。


「でも、それを明かすつもりはないんだ。

アキには窮屈かもしれないけど」


軽く首を振って穏やかに微笑むアキ。


「吹聴するつもりはありませんし、ご安心を。

ああ、でも」


「でも?」


「私が成人したら、レイへの質疑応答の席を設けることになっているんです。

出てくる質問によってはもしかしたら」


「カナデみたいに疑問に思う人が出るかも、か。

まあそれは仕方ないでしょ、そのときはその時でなんとかするよ。

あ、あの辺いいんじゃない?」


ハルが示した先には、折り重なるように倒れ苔むした2本の木があった。


「この林、踏みならされたような痕もなかったし人気はなさそうだよね。

イメージしやすいほうがいいんじゃない?」


ここに来るまで、切り株どころか足跡すら見られなかった。この林全体、人の手が入っていないのだと思う。人気がないのならある程度の空間があれば問題ないのだが、確かにイメージしやすいほうが転移の門はつなげやすい。


「そうですね、倒木が目印になっていいかもしれません」


答えて、記憶に焼き付けるように辺りを見回す。地面も丁度良く平らで都合が良さそうだ。うん、問題ない。

これで私はミュールへの裏口を手に入れたわけだ。その気になればミュール軍の背後からアルディアの軍勢を送り込むことだってできてしまう。そんな状況にはならないでもらいたいものだけれど。


「ここで大丈夫です。

万が一にも見つからないように、転移で戻りましょう」


この場所から、ラーサの南へと空間転移をつなぐ。ぼんやりともやがかかったような空間の歪みを通過すると、正面の方向にラーサの街の灯りが遠目に見えた。


「ふぅん、こんな感じなんだ・・・」


そこから街までは、ハルに転移の魔法のイメージを教えながら、ゆったりと歩く。


「なんとなくわかったけど」


「けど?」


「カナデはさぁ、魔法に名前つけないの?

空間転移の魔法ーとかいちいちめんどくさくない?」


・・・ごもっともです。

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