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最寄りの街でロロを将軍に手紙を送ったあと、馬車に揺られた私達はアイゼスト南西、ミュールとの玄関口にあたる街へと辿り着いた。
王都から離れてはいるが、ミュールと接していることで発展した巨大な街、ラーサ。多くの商人が行き交い、大通りにはいつも露店が立ち並ぶ賑やかな街・・・と聞いていたのだが、思いの外人通りは少なく、商人のような衣服を着た獣人たちは多く見かけるが、同じような人族は少ない。露店も出てはいるが、出店できそうな空きスペースがあちらこちらにあるし、正直期待はずれ、といった感じ。
通りには時折数人が立ち話に興じている姿があるが、あまり浮かれた雰囲気ではない。
「普段からこうなのか、それとも例の噂の影響・・・?」
「考えてみればバイゼル将軍の耳にも届くほどの噂なら、この街ではもっと噂になってるかもな」
ギィの言う通り、ミュールに入らなければ情報収集できないと思いこんでいた。しかしミュールと接する街で騒がれていないわけがないのだ。
「今日は宿を取って、ラーサで情報収集しましょうか」
ザルツがそう提案し、異議はなし。早速宿を探すことに。
アイゼストは国土が広く森も多いため、木造の建物が多い。一般家屋はほぼすべてが木造だ。大通りには石材を積んで作られた建物も見られたが、ちょっと高級そうなお店だったりしていたため、比較的贅沢な造りとして位置づけられているのかもしれない。
いくつか見つけた宿の中にはそういった建物もあったが、やはり高級宿であった。路銀に不自由はしていないが、かといって贅沢をする旅でもない。あまり裏通りに入らず治安の良さそうな”そこそこの”宿を探して歩き回っていたのだが・・・
「ついに、過半数超えたらしいぞ・・・」
「しかし一体なんだってまた・・・」
ひそひそと噂し合う声が時折耳に入る。今すぐにでも情報が欲しくなるが、日が暮れる前に宿を見つけておかなければならない。
ふと、ザルツがふらりと露店に立ち寄った。
「おいしそうな匂いですね、これなんですか?」
肉が焼ける香ばしい匂いがするその露店では、ゲインと同じ熊の耳を持ったいかついおじさんが忙しなく串にさした肉を裏返していた。
「これは羊の肉だ。
なんだ人間の兄ちゃん、この辺の者じゃねぇのか?」
「ええ、僕らはスーリヤの研究員でして。
ラーサの街は初めてなんです」
「そこの同族の兄ちゃんもかい?」
ゲインと比べても見劣りしない筋肉を持ったおじさんがゲインを見て言う。熊耳は珍しい部類だろうしなんとなく親近感が湧くのかもしれない。
「ああ、俺もラーサは初めてだ」
「そうかい、それにしても随分と小さな学者さんもいるんだな」
「ボクは成人してるから!」
おじさんの視線が私だけでなくハルにも向けられたことに気づいて、ハルは抗議の声をあげた。ハルは確かに成人しているが、小柄な体ゆえに幼く見られることが多い。私については実際幼いので仕方がない。
「そりゃすまなかったな!」
豪快に笑い飛ばすおじさんの手から串焼きを受け取ると、ザルツは代わりに銅貨を手渡した。
「今日は一泊するつもりなんですが、いい宿知りませんか?」
「宿か、そうだな・・・
その先の路地を右に一本入ったところに、眠る羊亭ってとこがある。
メシも酒もうまいぞ」
口々にお礼を言って、羊肉を頬張る。少し辛めの味付けが歯ごたえのある肉によく合っている。うん、おいしい。少しクセがあるが、スパイスが効いていて気にならない。
「お嬢ちゃん、おいしいかい」
「はい、とても」
「ははは、そうか!
こんな時じゃなきゃもっといろいろ店も出てたんだろうがな・・・」
「こんな時、っていうのは?」
「なんだ、あんたら知らないのか!」
無言で頷く一同。
「大きい声じゃ言えねぇがな・・・」
そう言って声をひそめると、おじさんは渋い顔をして噂について教えてくれた。
「ミュール議会が、戦争を始めるための話し合いをしてるんだとさ」
「・・・へ?」
あまりに突拍子無さすぎて思わず間抜けな声が出てしまった。
現在の国家間の関係は決して悪くない、というよりも良好であるはずだ。だからこそ西の国の合同調査があったり、今回の石碑の一件もトリスから協力要請が出ており、それが受け入れられている。戦争をする目的も理由も全く想像がつかない。
「俺もそこまで詳しくはねぇがな。
最近じゃ議会の過半数が開戦派になったって話だ」
「戦争って・・・一体だれと?」
そう、戦争をするとなれば相手がいるはずだ。ミュールはすべての国と隣接しているため、その気になればどこにでも喧嘩は吹っ掛けられる。しかし逆に言えば、喧嘩をしかけたとしてその相手国以外のどの国からでも、後ろから攻められる可能性があるのだ。現在の友好関係から考えれば、一方的に開戦すれば他国からのバッシングは確実である。
「なんでも、相手はアルディアだそうだ」




