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『病気、だったの?』
『うん、よく熱を出したりしていたんだ。
お父さんは、空気中の良くないものをいっぱい取り込んでしまうんだって言ってた』
『今はもう平気?』
『うん!』
世界樹になったことで病気も良くなったのだろうか。その病気があったから、きっとロキの父親はロキに少しでも生きていてほしくて世界樹に宿らせたんだろう。結果長生きしすぎた感は否めないが、それでも生きていて欲しいという願いは果たされたのかも知れない。
『夢の中のお父さん、誰かと戦っているみたいだった』
『戦っている?』
ロキの夢が誰かの記憶なのだとしたら、ここ最近になってその記憶が世界に還されたということだろうか。しかしそれは遥か昔の記憶のはず。
『うん、お父さんが勝って、そこで夢は終わっちゃった』
ロキの父親が戦っていて、そして勝利した相手。尚且つ今その古い記憶を、今更になって夢として見せたということは・・・その記憶の持ち主は、最近精霊を宿した魔人、かもしれない?
『それも、誰かの記憶なのかしら?』
『多分、そうだと思う。でも誰の夢なのかはわからないんだ』
『その夢に映っていた場所は、わかる?』
少しの間を置いて、ロキは答えた。
『ううん、わかんない。
でも寒いところだと思う!』
魔人の記憶だとすれば、鬼は封印が解けていないし、悪食は精霊を宿していないから除外するとして、レーヴェの封印されていた場所もそれほど寒い地域ではないので除外してもいいだろう。となると、まだ解読も石碑の発見もされていない残る2人の魔人のどちらか、ということだろうか。
寒い地域・・・単純に考えれば北だ。そしてアイゼストの北側の魔物の増加。関連があると考えるのが妥当、か?
『なにか、大事なことだった?』
考え込んで思わず無口になった私に、ロキが不安げに問いかけた。
『大事なこと、かもしれないわ。
何か他にもわかったら、教えてくれる?』
『うん、わかった!』
それから少しの世間話をして、私とレイは野営場所へと戻った。今日のロキの話は、バイゼル将軍に伝えるべきだろう。
「戻りました」
野営ポイントでは暖かな焚き火の火に鍋がくべられ、湯気とともに美味しそうな匂いが上がっていた。野営に慣れたゲインはこういった焚き火で料理をするのが非常に上手で、固形のスープや携帯食を使ったり、道中で獣を取ったりして体のあたたまる料理を提供してくれている。ハルが魔法で外気を遮断してくれてもいるので、野営と言えども非常に快適に過ごせるのである。
「おかえりなさい、ティエラ」
「おかえりー、どうだった?」
ゲインがカップに熱いお茶を注いでくれる。
それを両手で包むように持ち、立ち昇る湯気に息を吹きかけながら、ロキの話の内容を伝える。
「恐らく、発見されていない2人の魔人のどちらかの記憶なのではないかと」
「なるほど・・・その可能性は高いな」
「では、明日は街に立ち寄りましょう。
ロロを飛ばしてからでも、明日中にはミュールに到着出来ると思います」
全員がザルツの言葉に頷く。
「ミュールの不穏な噂って、なんなんでしょうね・・・」
初めて立ち寄る国を目前に、なんとなく不安がよぎる。
商業国家であるミュールは王を政治の筆頭にしつつも議会が存在する。最終決定権は王が持ってはいるが、商人同士の信頼関係や力関係が国内で強い影響を持つため、議会の決定を無視するのは難しい。あとで聞いた話ではあるが、魔人化したタリムも議員の一人であり、ミュール出身のエルミラの父親もまた有力議員の一人なのだという。貴族という制度がないため、ミュールで家柄がいいということは議員の家系か、大商人の家系ということになるらしい。
「行ってみればわかるでしょ、考えても無駄無駄」
確かにハルの言う通りではあるのだが、やはり気になってしまうものは仕方がないのである。しかも将軍は、出自を明かすなと言っていた。それはつまりミュール国内だけでなく、他国の人間にも関わるなにか、ということなのではないか?
「気になって仕方ないなら他のことでもしなよ。
将軍に手紙、書くんでしょ?」
そうでした。
明日街についてすぐにロロを飛ばせるように、今のうちに手紙を書いておかねばならない。世界樹には異常がないこと、既に他の魔人の封印が解けているかもしれないこと、北の方にその石碑が存在していた可能性があること。伝えるべきことは多い。
いっそ通信の魔導具を普及させてしまうというのもアリかなぁ。今の世界の状況を考えれば、製法は秘匿して各国に通信できたほうがいいような気もするのだ。
一度ヴォイドに相談してみるべきかもしれない。




