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「まさか転生して元日本人と知り合うとはねぇ」
「この世界からそのまま転生した方も複数いらっしゃるらしいですし、あり得ないことではないんでしょうけど・・・レアですよねぇ」
兄たちの論文にそういった転生者の存在が書かれていたのを思い出す。とはいえ異世界というのがどれくらいの数あるのか不明だが、転生元の世界が同じというのはそれほど多い例ではないだろう。
「そういうの、名前でわかるものなのか?」
ギィの疑問も尤もだ。
「私のいた世界の中で、私の国は島国だったので文化的に少し特色があったんです。
言語とか文字とか・・・それで名前の付け方も国特有のもの、というか」
「へぇ・・・なるほどなぁ」
そんな話をしている間に、魔導具は兵士たち全員が一度起動し終えたようだった。特に質問が出る気配もない。今後は兵士たちが交代で、手元の霊石が尽きるまで魔導具を起動し続けてくれるだろう。
「此の度の助力、感謝する」
バイゼル将軍がこちらに歩み寄り、改めて礼を述べてくれる。
一先ずこれで私達の仕事は終了だ。ゲインとザルツも翻訳の手を止め、会話に加わる。
「他の石碑もアイゼストにある確率が高いと聞いているが・・・」
「ええ、位置的にも面積的にも可能性が高いのはアイゼストです。
ゲインたちのチームがいくつか遺跡の位置の予測を立ててはいますが、これまで見つかった石碑はどれもかなり見つけづらい場所にあったので、なんとも・・・」
「なるほど、とはいえ取り敢えずの方向性があるだけ有難い。
兵士たちで虱潰しに探しまわるのも難しくてな」
アイゼストの面積は広い。トリスやアルディアの倍、とまでは行かないが、それでも5割増しくらいの面積があると思う。その広大な国全域が遺跡がある可能性のある地域なのである。どこから探し始めればいいかその手がかりすら無い状況で、よくここの石碑を見つけられたものだと感心してしまうほどに、石碑の捜索は非常に難しいはずだ。
バイゼル将軍はゲインから遺跡の位置予測の地図を受け取って、そして真剣な顔でこちらに向き直った。
「帰還のルートは決めていらっしゃるのか?」
アイゼストにはいってひたすら北西へ進んで来たが、帰りはそれほど急ぐ道のりではない。とはいえトリス王都には報告に立ち寄らなければならない。アイゼストからまっすぐ南下してトリスに入ってから進路を東に取るのが最短ではあるのだが、その場合ミュールの東側を通過する形になる。バイゼル将軍にも勿論それはわかっているはずだ。なぜ敢えてルートに言及したのだろうか?
「なんだか含みのある言い方だねぇ」
なにかあるの?とハルが将軍へ視線を向ける。
「いや、不確定の情報ゆえ」
言い淀む将軍。国の重鎮が他国の、仮にも王族に表立って話すには不適切、ということだろうか。しかし言い出しておいてそれは無い、気になって仕方ないじゃないか。
「僕達はただのスーリヤの研究者、ですよ?」
「うぅむ・・・
恩人たちと友人への世間話と思っていただけまいか」
勿論、と頷く私達全員の顔を見回して、ひとつ咳払いをして将軍はやっと続きを話し始めた。
「ミュールに不穏な噂が立っている。
迂回されるか、通過されるなら決して出自を明かさぬよう。
・・・ところでレイどのの姿が見えないが」
「ええ、自宅以外ではあまり姿を見せなくなりました。
ですが、勿論いつも一緒ですよ」
「そうであったか。
ならばそのほうがいいであろう。
ハルどのも出来るなら精霊の姿は隠したほうがいいかもしれぬ」
精霊を連れているというのは確かにひどく目立ちはする。レイのように言葉を話す精霊を連れていれば、私の場合一発で素性がばれてしまうだろう。なんせこの世界でレイのような精霊は他に報告されていない。ハルの精霊であるアキは実は話せるんじゃないかとは思っているのだけど。
「不穏な、ですか」
「うむ・・・」
「みなさん、どうします?」
ザルツが問いかける。そこまで将軍が言うということは噂が良くないものであることは確かだが・・・逆にどんな噂なのか気になってもしまう。私が一緒なのだし、空間転移があることを前提に入国して聞き耳を立てるというのも手だと思うのだ。
「立ち寄るに一票」
ゲインが挙手して答えた。
「不穏な噂がどんなものかできれば教えてもらいたいところではあるが・・・
仮に遺跡や魔人絡みだとしたら情報収集して帰りたい」
「ボクもゲインに賛成かな」
「俺は迂回に一票」
これで2対1。
私の答えは既に決まっている。
「危険があった場合すぐに逃げることを前提にミュール通過に一票です」
反対に票を投じたギィが、やっぱりなぁ、というような表情で苦笑いを浮かべた。
「では決定ですね。
真っ直ぐ南下してミュールを通って帰還しましょう。
問題があった場合は情報収集はやめて即撤退、ということで」
こうして私達は、不穏な噂の正体を探るべく帰還のルートを決定した。




