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「お父様、遠征の報告に参りました。
明日からアイゼストに行ってまいります」
「・・・そうか」
出発を明日に控え、私は一時的にアルディアの屋敷に戻っている。父との約束である、”遠征の際の報告”を済ませるためだ。今までのような気楽な発掘調査というわけにはいかないため、反対されないか少し身構えていたが、ヴォイドは頷いてくれた。
「行き先がアイゼストということは、そういうことなんだろうが・・・
お前は黙って行ってしまうかも知れないと心配していた」
「迷いはしました。ですが、約束ですし、それに」
「それに?」
「心配かけまいとすることが・・・黙って行くことが最善ではないと学びました」
「・・・そうか」
同じ言葉を繰り返すヴォイドの心境はわからない。しかし、黙って行って何かがあったら、きっと家族は傷つくだろうと思ったのだ。あの時の、ザルツのように。
「状況はどうなのだ?」
「石碑は無事です。復活を阻止するために魔導具を運ぶのが目的です」
「わかった。無事に戻ったら、また顔を見せに来なさい」
「ヴォイド様とは話せましたか?」
「はい、きちんと」
翌朝、私達は馬車に揺られてスーリヤからまっすぐ北へと向かっているところだ。ルートはスーリヤから最短距離でアイゼストに入り、そこから中央部を突っ切る形で北西へと進む。トリス王都から北上するルートも候補ではあったのだが、私達がトリス国に所属している形になっていることもあり、一応の状況確認やアイゼスト内で活動するお墨付きをもらうためにアイゼスト王都を通過するルートを取ることになった。中央に位置する王都を経由しつつ北西までの最短距離を行くにはこのルートが一番だったのである。
アイゼストは元々が小国をまとめた形で成立した国だ。そのため他の国々に比べると面積の割に多くの街が存在する。それらをつなぐ形で街道の整備もされているため、どの街を経由するかの選択肢もまた多い。宿泊地で情報収集を行い、場合によってはルートを多少変更することも容易だ。そして臨機応変に対応でき、かつ最速で移動できるように、今回は乗合馬車ではなくトリス国から貸し出された馬車を利用している。途中馬を休ませる必要はあるが、乗客全員を待たなければならない乗合馬車よりは早いし、なにより融通がきく。
街道の先に、小さな建物と人影が見えてくる。馬車を減速して近づくと、その人影が兵士であることがわかった。国境だ。
アイゼスト側にいる3名の兵士は、全員が獣人である。獣人が重用されるアイゼストでは当たり前の光景なのだろうけれど、トリスやアルディアの常識から考えるとなかなかにレアだ。獣人は珍しいほどではないけれど、それほど多くはなかった。
なんとなく国外に出るんだなぁという実感が湧く。トリス国王直筆の紹介状を見せると、馬車内の人数を確認する程度ですぐに通ることができた。このまま少し北上すればアイゼストの最初の街にたどり着くはずだ。
馬車の中では日記の解読が続けられている。これから向かう石碑に書かれた魔人の特徴については既に解読されたが、5人の魔人全員についてさらに詳しく書かれている可能性もある。
北西に封印された魔人は、”鬼”と表現されていた。何を持ってそう称するのかは相変わらず不明だが、以前討伐した2人を考えれば、対峙すればなんとなく納得がいくような、ぼんやりとした特徴を捉えたものなのだろうとは思う。鬼という言葉から想像する限りでは、獰猛であるとか大男であるとか、あるいは角があるとか、正直あまり正解とは思えない事柄ばかりが浮かぶ。復活しなければ答え合わせができないというのならば、正解がわからないほうがいいのだが。
それから2日を移動に費やし、私達は王都に到着した。途中ひと目のないところでは”加速”を使ったり、馬車を馬ごとわずかに浮かせて飛翔したりといった裏技を駆使したことによる。
すぐに王城へ向かい、国境同様トリスからの書簡を見せて取次を頼んだ。時間がかかるならば王に直接会えなくてもいいからできるだけ急いで欲しいと伝えると、すぐに城内に通された。
案内された先は謁見の間ではなく、ソファの置かれた広い部屋。執務机があるため、誰かの執務室が応接室を兼ねているのかもしれない。恐らく魔人騒動の現状を最もよく把握しているのはアイゼスト国軍か、あるいは騎士団だろう。その要職にいる人物の部屋であるならば文句はない。
事情を知らない重鎮の間をたらい回しにされるという事態は、結果避けられた。焦る私達の待つ部屋におとずれたのは、見慣れたあの方だったから。
「ザルツ殿、カナデ殿、おまたせして申し訳ない。
学術都市の皆様、此の度の遠征には王に代わり礼を申し上げる」
現れたのは、バイゼル将軍。獣人が重用されるこの国で、人族にして軍部の要職を任された稀有な人物だ。西の果てへの旅で彼の誠実さはよく知っている。加えて顔見知りである分話も進めやすいだろう。
ザルツと私は、その人物の登場に心から安堵するのだった。




