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最大の爆弾は、5日目、最終日にやってきた。
ザルツが個室に篭る中、ウルドとロッシュによる聞きなれた質疑応答が進行している中、ドアをノックする音が響いた。私がドアを開けると、そこに居たのはギィ。
「カナデ、手空いてる?」
「大丈夫ですけど、魔導具研のほうはいいんですか?」
「うちはそれなりに人数がいるから持ち回りなんだよ」
なるほど。今日はギィの担当外ということか。
「ちょっと煮詰まってるんだが意見もらえないか?」
ギィが持ってきた資料は、魔導具に魔力を供給する魔導具、についてのものだった。魔力の供給自体には成功してるらしい。ただ、問題は。
「つまり、使い捨てになってしまう、と?」
「そうそう。仮に壊れないように供給量に制限をつけたとしても、今度はそれに魔力を供給する魔導具を作らなきゃいけないんじゃ本末転倒なんだよなぁ」
魔力を供給するには当然霊石に込められた魔力を使うわけで、そうすると今度はそちらの魔導具の魔力が無くなってしまう。
「そうですね・・・私なら霊石を2つ使います」
魔導具を起動する霊石と、魔力の供給元となる霊石を分けるのだ。供給用の霊石は割れてしまうが、魔導具自体が使い捨てになるのは避けられる。次に使うときは供給用の霊石だけ追加してやればいい。
「なるほど、おもしろいな。
カナデ、やっぱりうちに移籍しない?」
「いえ、それは」
「聞こえましたよ、ギィ・・・引き抜きはやめてください」
見れば、個室に篭っていたザルツが共有スペースに出てきていた。
「お、ザルツおはよ・・・」
「ザルツせんせーぇ!いらっしゃらないのかと思ってましたぁ」
挨拶をしようとしたギィの言葉を遮ったその声は、いつぞやの遠征の日に見たあの子である。聞き覚えのある甘ったるい声が響く。さっきまで無言だったから気づかなかった。
本能的に何かを感じ取ったらしいギィは、私に再度お礼を言ってそそくさと退散してしまう。
「先生、質問いいですかぁ?」
「・・・どうぞ」
まずい時に出てしまったと思ったのだろう、ザルツの顔からは、一瞬ではあるがいつもの笑顔が無くなった。
「どうしてぇ、研究員の募集をしないんですかぁ?」
その質問、既にさっき誰かがしてウルドとロッシュが答えていたはずだが。
「さっきも言った通り、うちは少数精鋭で・・・」
「私は先生に聞いてるんですぅ!」
ロッシュに対しても強気な姿勢だ。ある意味強者である。
ウルドとロッシュは顔を見合わせて、ため息をついている。これが所謂爆弾というやつなのだろうか。
「必要ないですからね。幸い優秀なメンバーに恵まれているので」
「その子も、ですかぁ?」
矛先が私に向いた。ザルツ研に入りたい人から見れば、なんで私は良くて自分はだめなんだ、って言いたくなるんだろうなぁ。
「ええ、とても優秀な方ですよ」
「ふぅん・・・」
じろじろと、上から下まで私を眺めるその目には、敵意があからさまに込められている。
「でもぉ、優秀な生徒なら他にもたくさんいますよぉ?
お茶を淹れるだけなら、私にだってできますしぃ」
見学会では確かに私はお茶くみしかしていない。見た目や年齢から見ても、私が研究している姿は確かに考えにくいのかもしれない。
「それにぃ、私だったら先生の私生活だって・・・」
もじもじと、上目遣いでザルツを見る。研究がどうのとか優秀さがどうのという話は無くなってしまったらしい。
それに対し、ザルツははぁ、と大きなため息をついた。
「はっきり言っておきますが、僕は君に興味がありません」
絶句する彼女。
「むしろとても迷惑ですし、付きまとわれるのは非常に不愉快です」
「そ・・・んな、先生ひどい・・・っ」
遂に彼女は泣きだしてしまった。まああそこまでばっさり切り捨てられたら泣く以外できないだろう。しかしおかげで見学会の空気は最悪だ。
「じゃあー、他に質問はー?」
ウルドが彼女を完全に無視して進行を続けた。この状況で挙手があるわけもなく・・・
「なさそうだな。これでうちの見学は終了とします。
次に見学予定の研究室に向かってくれ」
学生たちは席を立ち、おろおろとしながらも部屋を出ていく。彼女を慰める生徒はいない。その結果、彼女だけがぽろぽろと涙を溢したまま、一人研究室に残されてしまった。
丸テーブルの上のカップを片付ける私とウルド。次の見学者も来るので早めに片付けて、次の飲み物を用意しなければいけない。
そんな中、ザルツが泣いている彼女に歩み寄る。どうするつもりなんだろうか。
「大丈夫ですか?」
「先生・・・っ、やっぱり、ほんとは私のこと心配・・」
「大丈夫そうですね、ではさっさと出ていってくださいね」
そう言い残し、ザルツはそこから離れて自分の分の飲み物を用意して、ソファへ。
結局彼女は、涙を拭くこともなく荷物を抱えて勢い良く部屋から出ていったのだった。
「研究棟では教師という立場が無くて、楽ですねぇ」
ゆったりとカップを傾けるザルツは、晴れやかな声でそう言った。




