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そして、噂の”あれ”はやってきた。
ザルツ研は人数が少ないためかなり共有スペースも広いが、そうでない研究室のほうが多い。多いところでは20名近くの研究員がいるらしい。そういった事情から、150名近くいる高等学園1年生たちは、5,6人程度のグループに分かれて代わる代わるやってくる。絶え間なく学生たちが見学にくるものだから、完全に研究はストップせざるを得ない。
ついでに言うと研究棟の東側にはザルツ研を始め魔導具研、遺跡研などが配置されているため、元々かなり人気のある研究室が多い。気合を入れる必要のない東側では、面倒くさい、の一言が共通見解である。
トントン
「どうぞー」
「「「失礼します」」」
「はーい、いらっしゃい」
面倒くさいと言いつつも面倒みのいいロッシュとウルドなので、見学は無難に何事もなく進行している。
「うちは特に紹介する研究内容も無いんで、質疑応答だけになる」
「質問のある人は挙手してねー」
2人のこの言葉も、初日にしてすでに4回目。そして挙げられるたくさんの手。熾烈なアピール合戦の始まりである。どの程度広く扱ってるんですか、といった内容から、この研究についてザルツ研の広い視野で見るならばどのように解釈すればいいですか、といった事前に調べてきてるんだなぁという内容まで様々だ。
そんな風に前のめりになりながら丸テーブルを囲む学生たちに飲み物を提供するのが私のお仕事。ザルツはずっと見学会に張り付くことはせず、個室にいたり共有スペースに出てきてみたり、ポジションとしては私達2人はかなり楽をさせてもらっている。
とはいえ、ザルツ研のメンバー構成については学生の間でも広く知られているらしく、お茶を運ぶ私に対しての視線は時に厳しい。入学式以来高等学園にはいっていないし、今年学園生で研究棟に在籍している学生がいる、ということは恐らくザルツ研メンバーについてよりもよほど知られていないだろう。つまり、なんでこんな子供がこんなところでお茶を運んでいるんだ?という疑問が彼らの中に生まれることは自然なことなのである。まあ質問されるわけでもないので敢えてこちらから説明することもないのだけれど。
またも、学生からの挙手。
「卒業後、ザルツ研に入りたいのですが」
そう言ったのはプライドの高そうな男子学生だ。
「うちは募集してないんだよねーごめんねー」
「何故募集をしないのですか?」
「うちは共同研究が多いんだけど。
いろんな研究室の人と顔を合わせるわけだけど、担当を分けたりすると知識や情報に偏りが出るだろう?
それを避けるためにも少数精鋭ってわけだ」
「なるほど。では・・・失礼ですが、彼女は?」
矛先がこちらに向いた。うーん、誰かしら質問してくるかもしれないとは思っていたが・・・私が何か言うよりも任せたほうがよさそうな気がする。
「うちのメンバーだよー?」
「先輩方から、ザルツ研には3人しか在籍していないと聞いていましたが・・・」
「今年からのメンバーだからなぁ」
「募集していないのに、新メンバーですか?」
「まあ、特例に近いかもな。
なんせザルツがスカウトして隣国から連れてきた人材だし」
ザルツがスカウト、というのは多少違うような気もするのだけれど、ザルツのお陰でここにいるのは事実。何よりもそういう表現をすることで諦めさせようという思惑があるんだろうし、私は口を噤む。
案の定、納得はしていなさそうではあるがその学生は引き下がった。
こうして初日は無事終わり、一息つくウルドとロッシュに紅茶を差し出す。
「お疲れ様です。任せ切りですみません」
「仕方ないよーカナデは一応まだ新人なんだしー」
「ザルツには手伝って欲しいもんだけどな!」
「それにしても、本当にうちって人気あるんですねぇ」
「ザルツの講義はほぼ全員取ってるだろうしなぁ」
ザルツの授業は、様々な分野を跨いで研究を行うことの必要性とか、そういう視点での物の考え方などの他に、他の共同研究先の研究内容の紹介も兼ねているらしい。そのため学生にとっては各研究室の特徴を知ることのできる数少ない場所。そして何よりも、ザルツ本人の人気がかなり高い。そういう理由で1年生はほぼ全員がザルツの講義を受講しているのだそうだ。
「まあ、全く人気がないよりは・・・」
「実際ありがたい話ではあるんだけどねー。
全員がカナデみたいな子だったら考えなくもないんだろうけどー」
「俺達が要求するレベルが高すぎるという自覚はある」
「・・・お褒め頂いて光栄です?」
見学ツアーはあと4日も続く。
できるだけ矛先を向けられないようにひっそりとお茶くみに徹することを決めて、この日は帰宅した。




