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「レーヴェ・・・?」
「そう、あなたのお名前は??」
「カナデ、よ」
「そう、カナデね!よろしくカナデ!
そのおじさんたち、名前も教えてくれないのよ?」
失礼しちゃうわ、と日傘をくるくると回しながら口を尖らせるレーヴェ。その赤い瞳が無ければ魔人だとは到底思えない、細い体、細い四肢、そして無垢な笑顔。
「本当に、あなたがやったの・・・?」
その姿と背後の悲惨な状況のあまりの違いに、思わずぽつりと呟いてしまう。
「え?ああ、おじさんたち?
挨拶もしてくれない、名乗りもしない、その上剣を向けるのよ?
紳士としては失格ね!」
「だからって、殺す必要なんて・・・!」
「カナデ、おじさんたちの味方するの?」
急に、その声音が冷えた。
「あーあ。なんかもうやだっ!」
そう言って、レーヴェは日傘をあさっての方向むけて振り払う。同時に、鳴り響く轟音と、一直線に穿たれた地面。
「つまんなーい!何もかも壊したくなっちゃう!」
再び、今度は横薙ぎに振るわれる日傘。大きな岩が、割れる。
なるほど、衝動・・・破壊衝動とか、殺戮衝動とか、そういうことか!
「じゃあレーヴェ。私と遊びましょう?」
「カナデ、遊んでくれるの!?やった、やったぁ!
何して遊ぶ?追いかけっこ?それともかくれんぼにする??」
「じゃあ、追いかけっこにしましょうか。私に追いつけるかしら?」
そう言って、私は空中へと舞い上がった。レーヴェもまた、空に浮かび上がる。準備完了、といった表情だ。
「いくわよ!」
空を加速して泳ぎながら、向かうのは西。出来るだけ街から遠ざける!
「カナデ、速い、速いね!こんなに楽しいの、久々!」
難なく追いついてくるレーヴェは、本当に楽しそうに笑っている。こんな少女が何故魔人に変貌しなければいけなかったのだろう。しかし、彼女の衝動は、危険だ。倒さなくてはならない、相手だ!
「ねぇ、レーヴェ。私に追いつける子なんて、初めて会ったの。
なのに、あなたと喧嘩をしないといけないわ」
「喧嘩するの?あたしと?カナデ、死んじゃうよ?」
「あら、でも仲良くなるには喧嘩の一つも必要でしょう?」
「そう・・・そうね!本気で喧嘩することも、必要よね!」
私とレーヴェは、地面に降り立ち、そして向かい合った。命がけの喧嘩をするために。
マジックボックスから剣を、右手に。
合図はない。どちらからともなく、剣を、日傘を振るう。
日傘が振るわれた軌道には、その悉くに衝撃波が伴う。広範囲に渡るその爪痕を見ると、街から離れてよかったと心から思う。そう思える程度には、私には未だ余裕があった。
レーヴェは近接攻撃ではなく、攻撃魔法を遠慮なく放ってくるタイプだ。ここはハルを手本に、地球のファンタジー漫画を参考に、魔法を使ってみることにしますか!
レーヴェが日傘を前に突き出すと、そこから猛烈な勢いで水弾が連続で放たれた。剣をマジックボックスに収納して、代わりに燃え盛る炎で出来た刃を生み出し、水球の全てを切り捨てる。じゅぅ、と蒸発する音を立てながら、切り裂かれた水球は私の体を逸れて散っていく。
見えない風の刃を無数に作り出し、レーヴェへと放つ。不可視のはずのそれは、日傘のひと振りで障壁に当たったかのように消え去った。
追撃に、レーヴェの足元から巨大な炎の柱を立ち上らせる。上昇気流に浮き上がるように、レーヴェは空へと逃げた。スカートが、若干焦げただろうか?
「この服・・・お気に入りだったのにぃいいいいい!!!」
先程も見た巨大な火球が私に迫る。次の瞬間には私は空中へ飛び出し、レーヴェの背後で雷を生み出していた。
地上を襲った火球によって、地面にはクレーターが出来ている。恐ろしい火力ではあるが、私のスピードで振り切れないわけがない。それは恐らく、レーヴェにとっても同じことだろう。彼女は衝動の任せるまま、息を吐くように魔法を使う。私と、同じように。
だから私は雷を選んだ。スピードで雷に勝る攻撃は、ない!
私が魔人の背後で生み出し放ったその電撃は、レーヴェの体を焦がし、地面へと叩きつけた。
「痛い・・・痛いじゃないカナデ!!!」
確かに地面に墜落した彼女は、恐らく瞬時に回復魔法を使ったのだろう。服は焼け焦げていたが、その肌に傷は既に無い。
お返しとばかりに上空に渦巻く黒い雲。マジックボックスから再び剣を出現させ上空高く放り投げると、それは避雷針の役割を果たして地面に落ちた。
「ずるいずるいずるいっ!!」
もはやがむしゃらにと言っていい、私に向けて炎や氷の矢、礫、風の刃が飛んできて、地面は私を飲み込もうと隆起する。
日傘を前に突き出して魔法を繰り出す彼女の視界に、私は今入っていない!
空間転移の入り口を、作り出す。出口は、レーヴェのすぐ後ろ。その入り口は、そこから飲み込んだレーヴェの魔法の全てを、彼女へと返す。
そして、その弾幕と共に。私の腕に絡みついた氷の刃が、転移の門を挟んで、彼女の胸を穿った。
「ずるい・・・じゃない・・・カナデ・・・っ」
正確に心臓を貫いた刃から、私の手に血が伝ってくる。その血の色と同じ赤い瞳は、やがてそのまま光を失った。
始めから、魔法は全て目くらまし。弱体化できればいいな程度には思っていたが、回復魔法も使いこなす彼女相手ではイタチごっこになるだけだった。
だから、背後を狙った。彼女が我を忘れたときを狙った。
レーヴェの亡骸をマジックボックスに収める気になれなくて、私はその体を抱き上げたまま、ザルツの元へと戻った。
小脇に、赤く染まったうさぎのぬいぐるみを抱えて。




