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謁見の時間はすぐにおとずれた。それだけザルツの信頼が厚いのだろう。
「魔人が封じられた石碑、か・・・
すぐに各国に報せを出そう」
「ありがとうございます、兄上」
「いや、いい。それで、トリス国内にもう一つの石碑があるということだが?」
「ええ、中央に広がる森の中に」
「精霊の泉がある森か。急ぎ警備の兵を出す。
詳しい場所を教えてもらうぞ」
「勿論です」
中央の森・・・その森を囲むように街道が巡らされてるが、精霊の泉があったのか。それならば確かに森を安易に切り開くわけにもいかないわけだ。
森を中心に、南東にラーファ、南西にルスト、北西に王都、北東にスーリヤが位置していることになる。そこでもし魔人が目覚めてしまえば、どの方向に行っても街に行き当たるわけで、石碑の位置としては最悪と言えるだろう。
何より、精霊の泉の存在がある。万が一復活した魔人が精霊を宿してしまったら、街に到達するしない以前の問題になってしまう。
ならば、警備よりも魔人を討伐できる精鋭を送り込むべきだ。
「モーガン様、魔人は復活してすぐならば弱体化しています。
しかし魔力を取り込む方法を魔人が入手してしまったら・・・恐らく兵士では歯が立ちません。
そうなる前に討伐の手段を模索しては頂けませんか」
「魔力とは精霊の力のことだな?精霊の泉が近いことが問題、か」
「魔力と精霊の力はまた別ではあるのですが・・・精霊を宿されるのが問題であることは確かです」
「ふむ。その違いについては論文を待つことにさせてもらおう。
しかし、討伐か・・・騎士団の精鋭を送り込むしかあるまいな」
そう言って、モーガンは騎士団長であるアイディンを呼び、魔人討伐の任務を言い渡した。これで騎士団から討伐隊が派遣されることは決まったが、できればこの目で確認したいものだ。騎士団を信用していないわけではないのだけれど。
「石碑の捜索については、その山脈の東側だけでよいのだな?」
「はい。ですのでまずはアイゼストに急ぎ動いてもらわなくてはなりません」
「アルディアとミュールに関してはほとんどがその境界の西側ですし、捜索範囲はかなり絞られるかと思います」
「うむ、わかった。
他国より情報を求められる可能性がある、そなたたちは王都に滞在してもらえるか?」
「「はい」」
こうして、謁見は終わった。これからしばらく私達は王都に滞在しつつ、研究室と行き来を繰り返すことになる。予定通りと言えるだろう。
王都に滞在しながら出来ることは・・・壁画の解析、くらいだろうか。
一度ザルツの部屋から研究室に戻り、壁画の複写をさらに描き写して再び王都へ。今日は本当に転移してばかりである。
古代文明文字に関しては、その翻訳は遺跡発掘チームに丸投げしてきた。そちらの報告も後々ロッシュとウルドを経由して受け取ることができるだろう。
「さて。順番に見ていくことにしましょうか」
部屋自体が円柱形であったため、どれが最初に見るべき壁画なのかはわからない。取り敢えず片っ端から見ていくしかなさそうだ。
数枚に共通して描かれているモチーフは、人。杖を持った人の姿や剣を持った人の姿などはわかりやすくデフォルメされている。魔人もその瞳の赤は特徴的だが、人間の姿としては共通しているのでこちらもわかりやすい。
それ以外は、壁画の上部に描かれた、丸く赤いもの。・・・太陽、だろうか?
加えて木が描かれている壁画がいくつか。
太陽(仮)の下で葉をつけた木々が並ぶ絵、太陽の下に黒い直線的な太い線が引かれ、葉をつけていない木が並ぶ絵。これは、木が枯れていることを示しているのではないだろうか。となると、この直線的な太い線は、太陽を隠す雲に見えないこともない。
創世記を連想させる。
空は暗く闇が覆い、草木は枯れ・・・急いで数枚を捲っていくと、やはり、あった。
杖を持った人間と、苗木のような小さい木が共に描かれたもの!
「ザルツ様、これは・・・!」
「ええ、古代文明の滅びと世界樹の誕生、に見えますね。
だとすれば・・・ここに描かれているもう一人の人物は、一体なんなんでしょう」
ザルツが示したのは、苗木の横に倒れるように描かれた人間の姿だ。世界が危機に瀕した状況を表しているのか、それとも世界樹と関係のある人物なのか。
「創世記の・・・一本の若木に自我を、与えた。
それがもしかして、元々は人間であったもの、とか?」
「ティエラは世界樹と話をしたんですよね?」
「ええ、世界樹は、まるで少年のよう、でした」
となれば、ここに描かれているのがロキである可能性もある、ということか。
では、世界樹は、ロキはまるで世界を救うための生贄のようではないか。
この推測は間違っていて欲しい。人間を木に宿らせたなんて推測は。しかし一度そう考えてしまうと、それを否定できない自分がいる。
「少し休憩しましょう」
そう言ってザルツが淹れてくれた紅茶は、いつも通りおいしかった。




