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世界樹は夢を見る  作者: 深月
スーリヤ学術都市
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魔法で攻撃しても吸収されるなら、物理的手段に訴えるだけだ。

一歩踏み込むと、私の体は魔人の左腕の下を潜り抜ける。すれ違いざまに剣を振るう。考えうる最速の剣を求める私の意思に従って、剣には”加速”がかかり、私の腕力からは想像もつかないような速さで横薙ぎに振るわれた。


「・・・嬢ちゃん、やるじゃねぇの」


慣性を無視して方向転換。魔人の左腕は切り落とされ、肘から下が地面に落ちていた。意外なほどに出血はない、魔法で止血したのだろうか。


無言で再び剣を構える。腕をおとせたということは、剣が通ったということ。強靭な体に阻まれて刃が潰れるといった事態は起こらなかった。ならば、問題はない。


魔人の男は今まではまるで遊んでいるかのように愉悦の混じった顔をしていたが・・・私のことを明確に敵と認識してくれたようだ。その瞳にあるのは残忍さだけ。お遊びは終了、という感じか。


「くっそ、魔力が足りねぇ・・・」


そう、聞きたいことがある。


「漂っている魔力が、無いってことかしら?」


「ぁ?ああ、そうだよ!

なのになんでお前らは魔力を持ってる?」


「さぁ、何故かしらね」


やはり、恐らくこの魔人がかつて生きていた場所は、東の領域と同じ。あの領域とこちらでの違いは空気中に魔力が漂っているか、否か、だったに違いない。だから東の領域の彼らは魔法を使えて、それをこの領域だから、と言っていたのだ。推論を確定するにはまだ根拠が足りないが・・・私はそう確信していた。

しかし、魔人があの時の私のように体を壊す様子はない。強化された体故か、あるいは魔物化の際にそういった特性を持つのか。


「考え事とは余裕じゃねぇの!」


岩の弾幕が私を包む。足元から、上下左右から、全方位から向かってくる岩の数々を、しかし私は全て見切っていた。一部は細かなステップで避け、一部は剣で切り払った。私の時間だけが加速している中で、それはなんの苦労も伴わない。下手に障壁を展開して吸収されるよりよほど安全だ。

その弾幕の中を、魔人が体勢を低くして突進し、右腕を大きく振りかぶる。その爪は長く伸び、私の体を引き裂こうと迫ってくる。

しかし、見えている。

左手を軽く上げて、その腕を掴む。たったそれだけで、まるで赤子のように魔人は動きを止めた。


「この・・・ガキっ」


地面を蹴って逃れようとする魔人だが、その腕は私が抑えている。距離を取らせては少し面倒だ。


「がぁあああああっ!!」


魔人の体が膨れ上がる。魔力を身体強化につぎ込んでいるのだろう。しかし魔人の言葉が本当ならば、それも長くは続かないはずだ。とはいえ、魔力切れを待つ理由は何もない。

右腕を上げ、その手の剣を振り下ろす。真っ直ぐに、ただただ早く、重く。

肩口のあたりから腰の辺りまで、私が振り下ろした剣は魔人の体を切り裂いた。

”加速”と”加重”。腕の振りまでも加速されたその一撃は、魔人の命を奪うには十分なものだった。


どさり、と音を立てて、魔人の膝が地面に落ちる。右腕を支えたままなものだから、膝と右腕を支点に上半身は起き上がったままだ。

念の為、その首を刎ねてから、私は左手を離した。魔人の体が地に落ちる。完全に、沈黙している。


「カナデ!」


ハルの声がして、彼が駆け寄ってくるのが見えた。その視線は魔人から外れることはない。警戒しているのだろう。


「大丈夫、倒せましたから」


「意外と、あっさり死んだじゃん」


「魔人が万全であったらどうだったかは、わかりませんけどね」


そう、この魔人には恐らくほとんど魔力が残っていなかった。そうであればただの人間と大して変わりはない。更に、魔法から魔力を奪う以外に魔力を補充するすべを持っていなかったからこそ、魔人は相当に弱体化している状態だったはずだ。仮にこの魔人が人を襲い、その魔力を得て、尚且つ精霊の力を取り込むことができるのだとしたら。魔人が世界から魔力を得る方法を入手することになる。そうなった場合どれほどの強さになるのかは、はっきりいって未知である。


「取り敢えず、魔人の体は回収してもらって、あとは石碑の残骸も」


ザルツのマジックボックスにそれら全てを収納し、私達は少しの休憩をとって急ぎその洞窟を後にした。魔人を討伐した以上ここに危険はないと思いたいが、万が一ということもある。なによりも、一度魔人の現れた場所で気を抜いてゆっくりできるほど、調査チームのメンバーたちは落ち着けていないようだった。

海中を進む速度も、心なしか速い。皆あの場所から一刻も早く遠ざかって安心したいのだろう。


しかし、あれと同じものがあと4つ。今回のように出現してすぐに討伐できれば問題はなさそうだが、そううまく行くとも思えない。せめて、まだ石碑が割れていないことを願うばかりだった。

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