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「んぉ?んー・・・?」
何かを不思議に思ったのか、きょろきょろと辺りを見回す”そいつ”には、残念なことにーーー明らかに理性が、あった。
「魔力が、ねぇなぁ?
おい、そこの人間ども。なーんで魔力がねぇんだ?」
魔力が、ない?無いわけがない、だって私達は魔法を使えている。
「・・・その割にお前ら魔力持ってんじゃねぇか」
「精霊の力のこと・・・?」
ぼそりと、メンバーの一人が口に出す。それはあくまで私達に確認のつもりで聞いた言葉だったはずだった。
「精霊?なんだそりゃ。
お?お前の横に浮いてるそれのことか?」
視線の先にいるのは、アキだ。この場に具現化している精霊はアキしかいない。狙われる、だろうか?
「ふぅん、世界も随分と様変わりしたもんだ。
よくわかんねぇけど・・・お前らが魔力持ってるなら取り敢えず、だ」
赤い瞳の下にあるその口が。瞳と同じ獰猛な色を持って、ニヤリと、笑った。
「・・・俺が、もらってやるよぉおお!」
「っ!障壁!」
”そいつ”が・・・封じられていた魔人と思しき男が地を蹴ると、凄まじいスピードでこちらへ向かってくる。たった一蹴りで15mほどの距離を詰めてくる。驚異的な脚力と、スピード。
前方に私とハルが張った障壁が難なくそれを弾き飛ばしはしたものの、状況は悪い。メンバーの殆どがパニック状態だ。海に逃がそうと思っても、縦穴までは距離がある。その上こんな状態で海に飛び込むのは危険なようにも思えた。
「カナデ!戦えるんでしょ!?」
「はいっ、ハルさん!」
「全員、守るよっ!」
私達2人は、メンバーをかばうように一歩前へ。囲うように障壁を展開したいところだが、パニック状態の彼らを逃げ場のない状態にしてしまうのは逆効果かも知れない。しかし、迷っている時間もないのだが・・・
「ティエラ、後ろは僕が」
「どうするつもりですか」
「ティエラにもらった魔導具があります」
ああ、そういえば彼の指輪は障壁を展開するように作ったものだ。ある程度の強度は実証済み。
「ゲイン、ロッシュ、ウルド。まず全員落ち着かせましょう。
僕の後ろにいれば大丈夫ですから」
「落ち着いたら、障壁をはります。
それまではお願いしますね、ザルツ様」
「様付けは、やり直し、ですよっ」
打ち合わせる私達の元へ、氷で出来た槍が飛んでくる。私とハルは両側へ跳んでそれを躱し、ザルツは魔導具に触れて・・・展開された障壁で、氷の槍は砕けちった。
防御は問題なさそうだが、絶え間なく攻撃を防いでいては落ち着けるわけがない。出来るだけこちらに攻撃を引き付けないと。
剣を、右手に。
マジックボックスから現れたショートソードは、寸分の狂い無く私の手に吸い付くように現れた。それを握り、”加速”して背後へ。
魔人はこちらを見ていない。しかし、地面から無数の礫が飛んでくる。障壁を足元に展開し、それを足場にして空中へ。そのすぐ下を飛んでいった礫は、壁にあたって壁画の一部を崩す。
「貴重な遺跡なんだから壊さないでよっ!」
ハルもまた、アキを肩に乗せたまま魔人のほうへ駆け出していた。
「ファイアストーム!」
ハルの声に呼応するかのように、男の周囲に炎が巻き上がり、その体を包む。
「ちょ、ハルさん!ここで炎は・・・!」
慌てて失った酸素を生成し続ける私。こんなところで酸欠になるわけにはいかない。
「あ、そっか!でももう・・・」
その言葉が示すように、炎は既に消えかけていた。しかし、それは男が燃え尽きたからではなく。
「はははっ!魔力をありがとうな、少年っ!」
愉快そうに笑いながら、魔人の男は全くの無傷で立っていた。
その体は、先程よりも幾分逞しく・・・
「お前ら2人は結構な魔力を持ってるようじゃないか。
貰ってやるから、もっと寄越せよ!!」
その体が持つスピードもまた、増した。
「障壁っ・・・!」
前方にハルが展開した障壁は、魔人の突進を受け止めはした。しかし、男が触れた部分から、融けるように消えていく。
「な・・・!?フリーズアロー!!」
空中に現れた氷の矢が、魔物を穿つ。
確かにその腹を貫いたと思われた矢は、やはり融けるように、消えた。
そして、魔人の体は更に一回り逞しく変貌する。
「魔法から魔力を吸い上げてる!」
「そんなん手詰まりじゃんか!ボク剣は使えないよ!??」
なるほど、悪食・・・魔力を食う相手、か。
こういうの、漫画とかなら魔力を食いすぎて破裂、とかあるんだろうけど。限界がわからない上に途中で逃げられたらどうしようもない。
「ハルさんは皆の防御をお願いします!」
「カナデ、いけるのっ!?」
「多分、ハルさんよりは!」
そう言って、私は駆け出した。
大丈夫、私はいくらでも早く走れる。いくらでも早く剣を振れる。
意識が夢を見るようなものだ。




