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「魔導具?この石碑自体が?」
「ええ。うっかり触れてしまうわけにもいきませんし、少し移動しましょう」
ザルツの言葉に従って、私達は全員石碑から距離を取る。
「ゲインはあの一部の解読急いで下さい」
「任せとけ」
ゲインは複写を1枚受け取ると、別の紙と照らし合わせ始めた。そこまで急いで解読しなければいけないようなもの、ということか。あまりいいものではないのは伝わってくるが・・・
「それでー?」
「ええ、石碑に書かれていたのは、こうです。
5つの魔を5つの魔導具に封じる。
触れるなかれ、傷つけるなかれ。
この地に眠るのは・・・
この下の部分が、前の遺跡とは違う文字になっています」
5つの魔・・・魔物か、魔人か、それ以外の何かか・・・確かにどう考えても碌なものではない。
「前の遺跡では、なんと?」
「この地に眠るのは、衝動。
そう書かれていました」
衝動、とはまたよくわからない表現だ。文脈からすれば封印されたものを表しているのだろうけれど・・・
「食・・・」
解読しているゲインに視線が集中する。食?
「暴食・・・悪食・・・そんな感じか」
またしてもよくわからない。いや、しかし仮にそういった特徴を持つ魔物が封印されているとするならば、大地を食べてしまうとか?
「5つの魔って、もしかしてあれ?」
「あれ?」
「壁画にあったんだよ、ほらあれ」
ハルの指差した方向にある壁画には、5人の人間が描かれている。そのどれもがそれぞれに人を踏みつけたり、巨大な鎌を構えていたり・・・何より特徴的なのは、その瞳。
「赤い瞳の、人間の絵・・・?」
「ザルツが魔物化した人間のサンプル持ってきたって聞いてるけど」
「ええ。あれは魔物化とはまた別かもしれませんが、瞳が赤く変わっていたのは確かです」
「となると、封じられているのは」
「壁画と関連があるのだとすれば、人間の魔物、もしくは魔人ということに」
魔人。魔物よりも相当に厄介な相手だ。しかしそれくらいでなければわざわざ封じるという手段を取らないのではないだろうか。魔人自体討伐が不可能な存在ではない。それを敢えて”封印”したのならば、倒しきれなかったか、倒すと不都合な何かがあったか。
ザルツはメンバーに魔物と魔人の違いを説明している。まあざっくり言うならば理性があるかないかの違いくらいしかわかっていないのだが、その有無が大きくその脅威度を変える。
仮に魔人が封じられているとしよう。魔人で、悪食。人を食べる、とかだろうか。こちらはなんとなくわからなくもないが、しかし衝動の意味がわからない。
「魔導具研のやつを連れてくるべきだったかもしれんな。
あの石碑のどこが魔導具なんだ?霊石も見当たらないぞ?」
メンバーのその言葉に、ふと思い至る。あの黒い、わずかに透明感のある、材質!
「あれ、霊石です!」
つい大きな声を出してしまった。そうだ、あれは、あの石碑自体が霊石だ。
「石碑自体が霊石で出来ているんです」
「・・・しかし、黒いぞ?」
そう、霊石の研究については未だ公表していない。公表に向けて論文の準備をしている段階なのだ。
「まだまとめている最中なので公表していなかったのですが、霊石は魔力を込め続けると色が変わります」
「濃紺くらいならそりゃ見たことがあるが・・・」
「ええ、その段階を超えると、黒く変わるんです。
そこから徐々に透明感もなくなって、最終的には」
私は一度区切って、左手の指輪を示す。
「こんな風に変化します。
これ以上の段階があるのかどうかは、まだわかりませんが」
「え、それ霊石だったのか!?」
「きれいな宝石だなーと思ってたー」
ロッシュとウルドにもそう言えば話していなかった。マジックボックスであることは言うつもりはないけれど。
「濃紺の霊石よりも性能のいい霊石、ってことか。それもあのサイズってことは相当な品だな」
「ええ、私があのサイズの霊石に付与をしたとしたら・・・数日は気絶してるでしょうね」
あれが最上級品だったとしたら、付与自体できないか、命と引き換えになることを覚悟するかのどちらかだ。古代文明時代の魔道士の実力が垣間見える魔導具である。
「あれ自体が霊石ならば、尚更触れるわけにはいかんな」
「ええ、うっかり起動して封印が解かれるようなことがあれば一大事です」
そんなことが無いように作ってあると思いたいが、そんな希望的観測でリスクを冒すわけにもいかない。
「しっかし、悪食?暴食?・・・なんだろね、それ」
うーん・・・と悩む私達の耳に、突然その音は響いた。
ぴしり
「・・なんか、聞こえた?」
そう言ったのは、ハル。
ぴしり。
「うわぁー、すごい嫌な予感しかしないねー」
ウルド、フラグ立てるのやめてください。
ぴし・・・
「全員、走れぇええええ!」
ゲインの言葉に、出口である海へつながる縦穴へ向かおうとする私達。
しかし、無情にも・・・
「よく、寝たなぁ・・・・・・」
石碑が崩れ、”そいつ”は部屋の中央で大きくあくびをしながら、赤い瞳を獰猛に輝かせていた。




