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研究室をあけている間に、南東の海底洞窟の調査準備は整って、私達の復帰を待っている状態だった。それを知った私達はひたすらに頭を下げ、急いで水中訓練を行い、遠征に必要な物資を集め、そして、今日。
恒例と言ってもいい、顔合わせという名の飲み会である。
今回の遠征にはカルラは参加しないが、ゲインは引き続きの参加だ。といっても前回は遠征自体が流れてしまったわけだが。
遺跡発掘チームの他に水中調査チームが加わったことで、それなりに大所帯になった。私達チームの4人を含め、10人。残る2チームから3人ずつである。それを探索中は更に3班に分け、各班に各チームからの参加者が均等に散らばることになっている。
私はゲインとザルツ、そして水中調査チームのハルと組むことが決まっている。まだ9歳の私の保護者的な位置づけで、私の班が4人になることは最初から決まっていた。では誰が私と組むか、ということで若干の波乱があったが、ザルツが譲らずに結局こういう形に落ち着いた。
今はゲインとハルと親交を深めている最中である。
「そういえば、レイは?」
「自宅ではいつも具現化しているんですけどね。
呼べば外でも出てきてくれますけど」
あの日以来、レイは人前ではあまり姿を見せなくなった。四六時中具現化しておくのをやめたのだ。とはいえ自宅で私が一人でいるときは具現化して、相変わらず胸を張って私の肩の上に座っていることが多い。
多分、具現化する必要が無くなったんだと思う。今はもう姿を見せていなくてもレイの存在を感じ取ることが出来る。以前はその姿を見ることでレイを認識していたけれど、今はレイが私の中のどこかにいるのではなく、”共に在る”のだとわかっているから。
「ハルさんの精霊にお名前は?」
「ある。アキだよ」
水中調査チームのハルは転生者だ。ハルの精霊は話はしないが、他の転生者の精霊同様具現化している。しかも彼は初等学園を飛び級で卒業し、3年間高等学園に通ってから研究棟に入ったらしく、15歳にして研究者としては私よりも2年先輩になる。
ハルというのはミドルネーム。つまり転生前の名前だ。その名前は日本でもよく耳にする名前なものだからもしかしたらと思ってはいるのだけれど、転生前のことをあれこれ聞くことも出来ず、確認はできていない。以前は魔法研究をしていたという話も聞いているけれど、何故水中調査チームに移籍したのかもわからない。聞いていいのかどうかわからないし、実は別にそこまで知りたいわけでもないので聞くつもりはない。
「アキ、よろしくお願いしますね」
返事がかえってこないのはわかっているのだけど、レイといつも一緒にいる私はついつい他の人の精霊にも話しかけてしまうのだ。まあ、多分アキも会話はできなくても言葉の意味はわかっていると思うし、実際こちらに笑顔を向けてもくれたのだけれど。
「カナデは準備大丈夫なの?
転生者だからって過信してると怪我するからね?」
「はい、気をつけます」
「うん、ちゃんと調査中はボクの指示に従ってよね」
なんだか絵本を読み聞かせてくれた頃のジルのようだ。兄になったことで今まで自分が焼かれていた世話を焼きたがるみたいな。
先輩であることは確かだし、水中での活動において専門家がどれほど頼りになる存在かは訓練でよくわかっている。だから私はこの言葉にも素直に頷くことが出来た。
「ハルは相変わらず生意気だな!」
ゲインはそんなことを言ってはいるが、それを不快に思っている気配はない。ハルは誰にでも物怖じせずはっきりと物を言うが、自分が間違っていると思ったら素直にそれを認めるし、謝罪も反省もする。加えて明るくさっぱりとしていて人によって態度を変えたりもしないので、生意気だと言われつつも可愛がられているのだ。
「まあ飲めよハル!成人もしたことだしな!」
「ボクはまだまだ成長期なんだよ!」
おお、ダメじゃない大人がいた。素晴らしい。
「おや、ハルはお酒弱かったんですか」
「ボクは飲めないんじゃなくて飲まないの!」
「ザルツは飲むの、控えてくださいね」
そういった私の背後には多分般若が居たと思う。
「・・・その節はすみませんでした」
「あっはっは!さすがのザルツも形無しだな!」
こうして、この日はダメな大人が量産されることなく解散になった。
ラーファまでの乗合馬車に揺られながら、調査日程の確認をしたり不測の事態への対応を確認したり。ラーファの港には既に水中調査チームが所有する船が待機しているはずだ。到着したら1日宿を取って体を休め、移動の疲れをできるだけ取り去ってから調査に向かうことになる。
海底洞窟の奥が、単なる行き止まりである可能性もある。しかしそれでも私達は期待が膨らんでいくのを止めることは出来なかった。




