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「・・ツ、お前は少し休めって!」
「嫌です!ティエラが・・・!」
「ザルツ!お前のほうがもたねぇよ!」
・・・騒々しい目覚めだ。レイが心配ないって伝えたはずなのに。心配、かけたんだろうか。東の森に一人で行ったのは確かに私が悪かったけれど。
「おはようございます」
上半身を起こすと、流石に少し体が痛かった。腕を伸ばして、体もゆっくりと伸ばす。凝り固まった筋肉がほぐれて、心地いい。
「ティエラ・・・?」
「はい」
「ティエラ・・・!ティエラ、良かった・・・!」
うーん、ウルドは本当に伝言を伝えてくれたんだろうか。
・・・まあ、一週間眠っている人を目の当たりにしたら、私も取り乱すかも知れない。
「私は大丈夫ですので」
「カナデ、だな?」
「ええ」
「レイの言う通り、だったねー。
あ、喉乾いてるでしょー?はい、お水」
ウルドがコップに注がれた水を差し出してくれた。受け取って、ゆっくりと飲む。胃がびっくりするかもしれないし。
「ありがとうございます、ウルドさん」
「いえいえー」
ひらひらと手を振るウルドの目の下には、若干隈ができているように見える。そして、ロッシュの目にも。
「もう、大丈夫です。
ご心配おかけしてすみません」
誰よりもひどい有様なのはザルツだ。痩せこけた頬、黒黒とした隈、初めて見る髭の伸びた顔。こっちが心配になってしまう。
ただ、それでも。私は彼とどう接していいのかわからない。
気持ちは落ち着いたとはいえ、ザルツの気持ちがわかったわけではない。話を聞く気はあるけれど、自分から進んで聞きたいとまでは思えなかった。
きっとザルツの方も、私になんて声をかけるべきかわからないのだと思う。
「カナデ、もう落ち着いたのか?」
「ええ、もう大丈夫です」
ロッシュの問いかけに、先ほどと同じ言葉を繰り返した。
「・・・少し、ザルツと話をしてやってくれるか?」
「無理にとは、言わないよー」
ザルツが話をできる状態だともあまり思えないけれど・・・
「・・・はい」
それでも、ザルツが何か話したいならば、聞こう。それが聞きたくない言葉でも、いつかは知ることになるのならば、本人から聞いたほうがまだマシというものだ。
私の返事に頷いた2人は、ザルツの肩を叩いた。
「ザルツ、よかったな、聞いてくれるってよ」
「俺達、廊下にいるからー。
カナデ、無理だと思ったら呼んでくれていいからねー」
そうして2人は部屋から出ていった。
私はザルツの方をまっすぐ見た。こちらから何か言うことはしない。
弁解をしたいならザルツから言い出すべきだと思うし、そうでないのなら、彼は部屋を出ていくべきだ。
「・・・体はもう、大丈夫、ですか?」
おずおずと、という表現が似合う。話したくないなら、別にいいのに。そんな風に思ってしまう。
「ええ」
「僕は・・・僕のしたことは、本当に無神経で」
自覚はあるらしい。
「ティエラを、傷つけたこと・・・謝りたくて・・・」
それは決して謝罪の言葉にはなっていない。
「・・・ごめんなさい、ティエラ。
謝って許してもらえることじゃないかも知れないけど、それでも、ごめんなさい・・・!」
「・・・はい」
それだけ、なんだろうか。その謝罪はどういう意味なんだろうか。傷つけてごめんなさい、それは、わかる。でも、聞きたいのはそういうことじゃないでしょう。
「ごめん・・・本当にすみませんでした・・・」
「それだけ、ですか?」
「・・・え?」
「心配しなくても、謝罪の有無に関わらず、別に婚約破棄とか大人気ないこと言い出したりはしないですよ?」
私の言いたいことは、伝わっていないようだ。何かを探るように私を見るその目は、そう言ってる。
「・・・なんて言えばいいでしょうか、うーん・・・
今後どうしたいのか、聞きたいです。例えば婚約は解消したいとか、解消はしないけど好き勝手させてほしいとか、あるいは以前と変わらず妹と思ってくれてるのかどうかとか」
「僕は・・・!」
彼は何か言いかけて、やめる。
「・・・ティエラが無事なら、それだけでいいと。眠っている間それだけを思っていました。無事に目が覚めるなら、僕のことを嫌いでも、それでも・・・いい、と・・・」
「うん、わかりました」
「待って、ティエラ!待って、ください・・・」
必死な顔。相変わらず、私にはわからないよ、あなたのことが。
「聞いて、もらえるなら・・・」
だから、さっきから聞いているじゃない。勝手に口を噤んでいるのはザルツのほうだ。
「信じてもらえるか、わかりませんけど・・・僕は、妹だなんて、僕は」
ザルツはベッドの傍らで、以前見たように私の右手を掴んで祈るような姿のまま、言葉を続けた。
「僕は、あなたを愛しています・・・」
思わず、私は言葉を失った。




