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世界樹は夢を見る  作者: 深月
スーリヤ学術都市
142/201

141 side:ロッシュ

なんだったんだ?あのカナデの変わりようは。

いや、今はザルツだ。今のあいつは放っておいたらなにをしでかすかわからない。それこそどっかに身投げでもしそうな勢いだよ・・・

良かれと思って2人にしたのに、一体何があったってんだ!



ザルツの家はかなり広い。こんな家に一人で暮らしてるなんて知らなかった。

けどまぁ、こいつの今までの研究成果を考えれば納得はいく。俺やウルドだって同年代の研究者たちに比べたら相当に安定した生活をしてる。

それも、こいつがいるからこそだしな。


しかし、こんな屋敷にこんな状態で一人になるのは落ち着かないなんてもんじゃないだろう。閉じこもるには広すぎる。



ザルツをリビングに抱えるように連れて行った後、取り敢えず落ち着かせようと紅茶を淹れた。

カップを渡したら素直に受け取りはしたが・・・心ここにあらず。口をつける気配もない。


「ザルツ、一口くらい飲め」


「あ、ロッシュ・・・ええ、そうです、ね・・・」


そう言ったまままた放心。こんなんで事情を聞いていいものか?


「伝言預かってきたよー」


ウルドが入ってきた。カナデとあの後少し話せたのだろうか?


「伝言!?なんて・・・!!?」


「次のアルの日には起きるからー、心配いらない、だってー」


「そうですか・・・アルの日、次の・・・」


「なんだ?まだ本調子じゃなかったってことか?

大丈夫そうに見えてたが・・・」


「いえ、違うんです、ちがうんです・・・っ」


ウルドの伝言を聞いて少しは落ち着いたようだが、動揺は隠せてねぇなぁ。

しかし、話を聞くくらいはさせてもらわないとどうしていいかもわからん。


「あれは、カナデじゃないのか?」


「あれは・・・レイ、です」


レイ?カナデの精霊の?


「んー?よくわかんないー」


「僕のせいなんです、僕が・・っ」


「誰のせいとかは後で聞く。まずは状況を話せ」


ザルツはやっと一口紅茶を口にしてぽつりぽつりと話し始めた。


「2人が出ていった後、少し話をして・・・」


「うんー」


「心配してたことを、伝えたんです。

そしたら、そんな風に・・・心配するくらいならどうして、って。

どうしてあんな見せつけるような真似をしたのか、って、責められて・・・」


まあ、それくらいは仕方がないだろう。ザルツが悪いからな、あれは。


「見たくなかった、弁解もないなら知りたくなかった、って。

見られて平気だと、僕が思っているなら、自分は」


一度区切って、ザルツは心底辛そうな顔をした。


「僕にとって妹ですらないじゃないか、そんなこと知りたくなかった、って、泣いて・・・すごく、泣いてて」


ザルツの手から、カップが滑り落ちた。・・・掃除はまた後でいいか。

両手で顔を覆うザルツを放置して掃除できるような空気じゃない。


「弁解、しようとしたんです。

でも、ティエラは耳を塞いで、聞いてくれなくて、それで」


聞きたくない、って感じか。


「一瞬、表情が抜け落ちたように、なって。

泣いてたのに、急に・・・泣き声も、なくて、目もなんだか虚ろで。

肩を掴んで、呼びかけて・・・

手を、振り払われて。

多分、その時から、ティエラじゃなくてレイ、でした」


拒絶反応みたいなもんか・・・?


「レイは、なんか言ってなかったのか?」


「ティエラは眠った、って。

僕が傷つけたんじゃないか、って・・・そう、僕が、僕がティエラを傷つけた・・・っ」


なるほど、そういう理由で自分を責めてるわけか。

励ましてやりたいところだが・・・カナデを傷つけたのは確かなんだよなぁ。


「ウルド、伝言ってのはレイからだよな?

落ち着いてる感じだったか?」


「うんー。大丈夫そうだったよー。ザルツよりはよっぽどまとも。

んー、レイがそうしたのかカナデがそうしたのかはわかんないけどー」


ウルドの見解、か。こいつ喋り方はほわんとしてるけど、こういうとき誰よりも頼りになるんだよなぁ。


「精霊の力が強いから、聞きたくなーい、って思って、そうしちゃったのかなー?」


「魔法で聞こえないようにしちまった、ってことか?」


「わかんないけど、そんな感じじゃないかなぁ?多分無意識に、現実逃避、みたいなー」


「で、魔法で自分を眠らせて、代わりにレイが、ってことか」


「推測でしかないけどねぇ」


ふむ。そこにレイが期限をつけてきたなら、多少は安心できる気もするな。

一先ず、だ。


「来週まで、待つしかできねぇだろ」


「僕のせいだ・・・僕が、あんなこと・・・っ」


「うるせぇ」


取り敢えずザルツの頭を殴りつけた。カナデのほうが大丈夫でも、こっちはどうしたもんか。いい大人の、しかも男が泣いてる姿なんて見てて気持ちいいもんじゃない。


「事情を知ってるカルラには、落ち着いてるけど復帰はまだ、ってことにしておくぞ。

レイが期限を決めたのは、多分親御さんに心配かけないようにってのもあるんだろ。ロロを飛ばすのも保留だ。

一応交代でカナデに一人ついておくようにしよう。

いいな?」


様子を見ることしか出来ない今、やるべきことはまずザルツを落ち着かせることだ。方針を決めて動き出せば、多少はマシになるだろう。

・・・カナデ、ちゃんと目を覚ましてくれよな・・・

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