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・・・あたたかい。ふかふかと包まれている感じ。
目を開けると、暗い部屋の中にいた。キッチンで床に倒れたはずなのに妙にふかふかすると思ったら、ベッドの中だ。いつの間に、移動したんだっけ?
すごく寒かったのも、今は大丈夫。お布団があったかいからだろうか。
右腕が、少し重い。持ち上げようとしてみたけれど、なんだか上から抑えられているような感覚。何かの下敷きに?
顔を向けると、暗い中にぼんやりと人影が見えた。私の手を掴んで、まるで祈るような姿勢で。
「だれ・・・?」
私の声に、弾かれたように顔を上げたその人は、泣きそうな顔をしていた。
「ティエラ・・・!」
「・・・ザルツ様?どうして」
「ティエラ!よかった、本当によかった・・・」
泣きそうな顔が更に崩れて、暗闇の中、涙が光るのが見えた。
バタバタと階段を上がってくるような音が聞こえた。他にも誰かいるのだろうか。そもそも何故家の中に?私の部屋、なのは間違いない。
「カナデ、起きた!?」
ドアが開かれて、廊下から漏れる光が少し眩しい。
「明かりくらいつけときなよー、ザルツ」
入ってきた人は、ウルド、だ。
「ウルドさん?どうして・・・?」
「はい、お水ー」
「あ、ありがとうございます」
受け取って一口飲むと、少しむせてしまった。
「少しずつ、一口ずつねー」
ウルドに言われるまま、ゆっくりと水を飲み下す。
「うん。起き上がれそー?」
ふらついたりということもない。多分、大丈夫だと思う。
「大丈夫です。ご心配おかけしたみたいで・・・」
「うん、取り敢えず体拭いて、着替えもしたいでしょー?
リビングで待ってるからー。
ほら行くよーザルツー」
「ウルド、良かったです、ほんとに、良かったです・・・!」
「うんうんー、わかったから行くよー」
ウルドがザルツを連れて行って、部屋に一人になった私はゆっくりと立ち上がった。うん、大丈夫。
「カナデ、大丈夫?」
「うん、ごめんねレイ、心配かけて。もう大丈夫」
「よかったよ、カナデ・・・」
レイの小さな目もうるうると潤んでいた。もう一度、ごめんねを伝えて、私は浴室へと向かった。
体を流してさっぱりしてから、服も着替えた。森を歩き回ったままの服は土で汚れていて、汗を吸ったせいかごわごわしていた。ラフなワンピースに着替えると、肌触りの良さで気分がいい。
リビングに入ると、ザルツとウルドだけでなく、ロッシュもそこにいた。驚く私にひらひらと手を振るロッシュ。耳もピンと立ち上がって、多分元気になったことを喜んでくれているんだろうと思う。
「みなさん、ご心配おかけして申し訳ありませんでした」
どういう経緯かはわからないが、倒れた私を介抱して、傍についていてくれたのだろう。
「うん、無事でよかったよ」
「カナデー、座って座って」
ソファを勧めてくるウルドの言葉に従って、私は腰を下ろした。低くなった私の目線に合わせるようにウルドが顔をのぞき込んで、にへらと笑う。
ぱしん。
左の頬に、じんじんと残る痛み。
「ウルド・・・っ!」
それを咎めるように声を掛けるザルツ。その顔は随分疲弊しているように見える。私よりもよほど具合が悪そうだ。
ロッシュが近づいてきて、私の頭にげんこつが落とされた。・・・痛い、けど。
2人とも、手加減してくれているのはわかる。
心配、してくれたんだ。
「ロッシュまで!やめて下さい2人とも!」
「いえ」
止めようとするザルツを遮る。私には叩かれる理由がある。それなのに2人は手加減してくれた。それもきっと、私が病み上がりだから。
「すみませんでした。それから・・・ありがとうございます」
私の言葉を聞いて、2人はうんうんと頷く。それから、いつものように、両側から頭をぽんぽん、と。
「心配かけやがって」
「無事でよかったよー」
お湯が沸いた音がする。ウルドがキッチンに入って、少ししてスープを持ってきてくれた。
「固形のやつだけどー、少し何か食べたほうがいいからねー」
「ありがとうございます、いただきます」
「火傷すんなよ?ゆっくり飲め」
「はい」
「じゃあ、俺達は隣にいるから」
「またあとでねーカナデー」
スープを私に持たせて、2人は出ていった。隣、というのはザルツの家だろうか。
残されたザルツと私。
・・・ザルツは何も言わない。
「ご心配をおかけして、すみませんでした」
「・・・いえ。無事なら、それで」
まっすぐにザルツを見る私とは対称的に、視線を合わせようとはしないザルツ。彼の様子から、すごく心配をしてくれたんだとは思う。それこそ、痩せこけて見えるほどに。
それなら、と思ってしまう。
それならどうして、私にあんなものを見せるの?
どうして、弁解もしないの?
心配をかけてと怒ることも、無事でよかったと抱きしめることもない。
だからといって部屋を出ることもしない。
このひとがなにを考えているのか、今の私には、わからない。




