138 side:カナデ⇔ザルツ
「我らからも聞きたいことがある」
「はい、私にわかることでしたら」
こちらばかり聞いておいて答えないというのはフェアではない。私が知ることならば全て答えるつもりで、質問を待った。
「世界樹の嘆きの原因は、なんであったか」
「西の果てで、世界樹の根に斧で切られたような傷がありました」
「フォルティエラが癒やしたのか」
「ええ、回復魔法で」
「なるほど。礼を言う」
「あなた方は世界樹を、守っているのでしょう?」
「その通り」
「ロキと直接話さなかったのですか?」
西の果てで私はロキと念話をして、ロキから彼が泣いている理由を聞いた。彼らもそうしてロキから聞けたのではないだろうか。
「我らは世界樹の声を聞くことは出来るが、話をすることはできない」
なるほど。
レイも私に宿るまではロキと話せなかったようだし、それでいてロキの泣き声は聞こえていたようだった。直接話すためには、私が使える程度の魔力が必要なのだろう。
それにしても、少し寒い。こんなに気温が低かっただろうか。
「ふむ」
彼らがふと、なにかに気がついたように言った。
「客人よ、そちらの領域に戻るがいい」
「しかし、まだお話を」
「以前、そちらの領域に足を踏み入れた同胞がいた。
同胞は1日が経った頃、体を壊してすぐに戻った」
何故、急にそんな話が出てきたのだろうか。
「恐らく、我らにはそちらの領域の空気が合わず、逆もまた同じ」
「私の体に、この領域は合わない、と?」
「恐らく。・・・震えておるぞ」
気づけば確かに、先程から感じる寒さのせいか体がわずかに震えている。
まだ聞きたい話はたくさんあるのに・・・!
「集落の外れまで送ろう。あとは霧が運んでくれよう」
そうして、私はもと来た道を戻ることになった。体が重い。向こうの領域に戻ったとして、あの森を抜けることができるだろうか。
不安に思いながらも、彼らに見送られて霧の中に足を踏み入れた。
来たときとは違い、数分で霧は晴れた。目の前に、2本の革紐が結び付けられた木。スタート地点に戻る、親切設計だ。
「カナデ、大丈夫?
すぐに転移で戻ろう」
「うん、ベッドで、寝たいしね」
そうして、私は空間移動で自宅へと跳んだ。キッチンに入って、コップを手に取る。水を、ひとくち。
世界がぐにゃりと歪んで・・・
ガシャン。
手に持っていたコップが、滑り落ちて割れた。
慌てて、掃除の道具を取りに行こうとそこを離れて、
どさり。
自分が床に倒れる音を、他人事のように聞いた。
「カナデ!」
「ちょっと、寝る、ね」
それだけ言って、私は目を閉じた。
ガシャン。
昼頃、4人でカナデの屋敷の前で転がりながらこれからのことを話していた時。
家の中からかすかに、何かが割れるような音が聞こえた気がした。
「中から、なにか・・・!」
「俺も聞こえた。片っ端から、窓覗いてみろ!」
手分けしてあちこちの窓から中を覗いてまわる。庭は、誰も通っていない。なのに中から音がしたということは、侵入者か、ティエラが転移で戻ってきたかのどちらかのはずだ。気持ちだけが焦る。
「ザルツ!こっち、台所!」
ウルドが珍しく大きな声をあげた。
急いで駆け寄って中を覗くと、奥の方にわずかに見える人影。
床に広がる、ピンクシルバーの髪。
「ティエラ!」
「一体どこから入ったんだよ、ずっと庭にいたのに!」
「とにかく中、入ろう!」
でもどうやって。窓を割る?玄関をぶち破る?
「・・・レイ!!」
ティエラの傍を飛び回るレイの姿が目に入った。窓を叩き、レイを呼ぶ。
「レイ、玄関の鍵、開けて下さい!」
レイがこちらを見る。気づいてくれた!
廊下の方へと飛び去って行くレイの姿。きっと、玄関に向かっている。
「玄関に回りましょう」
「レイがいてよかったな・・・急ごう」
そうして内側から鍵が開けられて、僕らはティエラの元へ駆けつけた。
うつ伏せに倒れるティエラの姿。血の気が引く。
「ティエラ!」
抱え起こすと、ひどい汗だ。それなのに、体は冷え切っている。
「ティエラ!目を開けて!」
「寝室に運べ、ザルツ!起こすのはそれからでいい!
回復魔法が使えるやつ、誰か呼んでこれるか?」
「カルラの家なら、知ってる。
行ってくる!」
「ほらザルツー、カナデの寝室の場所、どこ?」
「2階・・・運びます!」
「お湯わかして持っていくからー、ドアあけといてねー」
「ザルツ、お前の家からタオル持ってくるからな!」
僕達4人は慌ただしく、やっと帰ってきたティエラのために動き出した。
はやく目を覚まして下さい、ティエラ!




