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彼らの案内で到着した集落は、まるで映画の世界のようだった。地上だけでなく、巨大な木を利用して樹上にも作られた木造の家々。その木々の間にははしごが掛けられて行き来ができるようになっている。なにより幻想的なのが、周囲にぼんやりと光る植物たち。薄暗い森の中を穏やかに照らしていて、それは地上だけではなく、蔦の絡まる巨木の半ばまで広がっている。
思わず感嘆のため息を吐く私の様子に、彼らは少し誇らしげだった。
「フォルティエラ、食事と寝台の準備をさせます。
今日は休んで疲れをとるといい」
3日も歩き続けたのだ、ゆっくり眠れるのはありがたい。
「ありがとうございます、そうさせてもらいます」
緊張しながら森を歩き続けるというのは、想像以上にハードだった。用意してもらった寝台に入ると、仄かに若草の匂いがただよう。ふかふかベッドとはいかないが、十分に柔らかい。人に会えたという安心感もあって、私はすぐに眠りについた。
翌朝、少し気だるさは感じたものの休息は十分に取れた。
少しすると再び案内を受け、樹上の一際大きな家屋の中で、彼らと話す機会が与えられた。固有の名前を持たないという彼らにそれぞれなんと呼び掛ければいいのかわからない。不自由ではないのだろうか。
「フォルティエラは”記憶持ち”だな?」
「”記憶持ち”?」
「前の生の記憶を持つ者のことだ」
転生者のことか。
「ええ、その通りです」
「前の生はこの世界で?」
「いえ、地球という・・・別の世界です」
「なるほど、記憶量が多いのだな。
宿した精霊が会話をするほどに」
!
魔力差の要因を、知っている!?
「記憶や知識に左右されることを、ご存知なんですか?」
「無論」
さすが世界樹のお膝元、か?
しかし、彼らは精霊を宿していない。多分。
「失礼ですが、この集落には精霊を宿した方がいないように見えますが・・・」
「その通り。我らは精霊を宿さない」
「では、なぜ精霊の力のことを?」
「我らは皆、前の生は精霊であったからだ」
精霊が、転生して人となったのが、彼ら?
「皆、というのは?」
「我らは皆、”記憶持ち”だ。そして、元々は精霊であった。
それ故に精霊を宿さない」
それ故に、の意味がよくわからない。
「わからぬ、という顔だな。
要するに我らの記憶は膨大だが、無用なのだ」
彼らは皆転生前は精霊で、その記憶がある。しかし精霊であったがゆえに・・・転生前の記憶は既に精霊樹に全て渡している、だから、その膨大な記憶は世界樹にとって不要・・・?
「つまり、世界樹にとって無用な記憶が多すぎるから、ということですか?」
「その通りだ」
そして、彼らについて少し詳細に教えてくれた。
精霊が人として転生すると、皆彼らと同じ種族になり、その全員が転生前の記憶を有している、彼らの言う”記憶持ち”であるらしい。精霊としての記憶がある彼らは、転生した後も世界樹のために生きることを選び、知識や記憶を運べない代わりにこの場所で来訪者の警戒や排除を行っているのだそうだ。あの霧は彼らの領域と私達の領域を隔てる壁の役割をしているため、それを越えるものが現れた際に駆けつけて、場合によっては”排除”する、と。
「あの霧は、精霊なのですか?」
レイが自分と同じ感じがすると言っていた霧。領域を隔てる壁、と言っていたが、あの霧には確かに意思があった。
「それはわからぬ。
前の生でもあれのことは知らなかった。レイも知らぬであろう?」
「ええ、でもあたしと似た感じがしたの」
「ならば精霊なのかもしれぬ」
彼らにも正体はわからない、か。それにしても・・・
「魔法無しで不便ではないのですか?」
精霊を宿していないのだ。正直魔法無しでこの集落を作れるとは思えない。それほどにこの家屋の床に張られた板は綺麗に切断されているし、壁も、屋根も、なんらかの技術があるように見える。
「精霊を宿していないだけで魔法が使えないわけではない」
「それは、元々精霊だったから、ですか?」
「この領域だから、だ」
この領域とは、多分あの霧を越えたこちら側のこと。こちら側に来てから魔力探知に反応はなかった。恐らく動物たちも皆精霊を宿しては居ない。2つの領域の大きな違いは、これだと思う。
私がこちらで魔法を使えないわけではない。しかしあの言い方から考えると、彼らは私達の領域では魔法が使えない。
この領域には魔力に代わるなにかが、ある?精霊の力とは別の何かを魔法に変換している、そう考えればいいのだろうか。
頭が混乱してくる。
彼らは聞いたことには答えてくれるが、それ以外のことはほとんど話してくれない。質問を選ばなくては求める情報が得られないのだ。難しい問答をしている気分。
しかし、なかなか頭が回らない。
落ち着いて、考えなくては。




