135 side:ザルツ
ティエラが姿を見せなくなって、4日が経った。研究室に来ないだけではなく、家にいる気配もない。アルディアに帰っているのかも知れないが、連絡もない。
声を届ける魔導具には連絡がないし、腕輪型の方は・・・彼女が、壊したのを目の前で見ている。
心配で心配で仕方ないが、自分がやらかしたことはわかっているので、こちらから連絡もできずにいる。
今は魔導具研究室のギィが部屋に来て、4人で打ち合わせ中だ。
「カナデの意見が欲しかったなぁ」
心底残念そうにギィが言う。あれからウルドもロッシュも、ティエラの話題は出さなかった。だから、カナデという名前を誰かが口に出すのを聞くのすら久々だ。
「で、カナデいつ帰ってくんの?」
「僕が知りたいですよ」
「お前何やったのよ」
「それが・・・高等学園の生徒で一人しつこく迫ってくる子がいるんですけど」
それから、あの待ち合わせ場所での出来事をギィに話した。
確かにあんな光景をティエラに見せた僕が悪い。悪いのはわかるけど・・・僕は一方的に言い寄られているだけであの生徒に興味はない。迷惑しているのは僕の方なのだ。
「そういうのはさぁ、見えないところで終わらせてから待ち合わせ場所に向かうべきじゃねぇの?」
「だからって高等学園の校舎内で女生徒と押し問答するわけにもいかないじゃないですか」
「そりゃお前からすればそうかもしれんけどさぁ」
ギィの言うことももっともだが、僕にも一応教師としての立場とかがある。
「そもそもザルツ、お前カナデとちゃんと話したのか?」
「いないのに話せるわけないじゃないですか」
「いや、そのもっと前にだよ」
「? 誕生日を覚えていなかったことですか?」
「お前それはそれでひどいな・・・でもそれじゃない」
こんな風に言われる何かに心当たりはない。
「何のことです?」
尋ねる僕の言葉に、ギィは頭を抱えた。
「たしか四の月の・・・カナデがケーキ持ってきた日」
「あのケーキおいしかったねー」
「うん、うまかった。でもそれは置いといて、だ」
「あの日は・・・ティエラが僕に意地悪してケーキくれませんでした」
「子供かよザルツ。それから?」
「それから・・・そしたら僕のこと兄として、って言われて・・・」
「その前のことだよ」
何のことを言っているのか本当にわからない。
「はっきり言ってくださいよ!僕が何したっていうんですか」
「ウルドとロッシュに聞かれてもいいんだな?」
「別に何もしてないですし」
それからギィは、はぁ、と深いため息をついてから僕を諭すように言った。
「あの日、シャツに口紅つけられて、着替えたいから部屋貸せって俺のところに来ただろ」
・・・?
ああ、そういえばそんなことがあった気がする。焦って売店で替えのシャツを買って、ギィのところに駆け込んだんだ。
「そんなことありましたね、そう言えば」
ウルドとロッシュが呆れるような顔で僕を見ている。でも言わせてもらうけど僕だって抵抗はしてるんですからね。
「あれ、多分カナデ知ってるぞ」
「・・・え?」
ウルドとロッシュが、今度はうわぁ、って言いたそうな顔で僕を見ている。
え、だってティエラはそんなこと一言も・・・
「何か言ってなかったのか?」
「確か・・・戻りが遅かったのはどこか寄ったのか聞かれて」
そう、確か・・・
「売店に寄った、って答えて、その割に荷物がないんですね、って言われて」
「それから?」
「・・・立ち寄っただけなので何も、って答えたら、僕のことを、兄として慕った人、って言ってて」
頭を抱える3人。
「口紅事件とその誤魔化し、そして誕生日知らない事件、からのあの修羅場、ね」
「カナデ帰ってこないかもねー」
「ちなみにそのもっと前だったと思うけど、ザルツにとって自分は妹みたいなものだと思う、って言ってたのも聞いてる」
そんな・・・
「僕・・・どうすれば・・・」
「うーん、覚悟しとく、かなー?」
ウルド、不吉なこと言わないで下さい!!
「祈るしかないんじゃないか?」
偉大なる魔道士様世界樹様ティエラと仲直りさせてください・・・!
「カナデ、うちに移籍かな」
嫌です!僕の・・・
僕のだなんて、そんなこと言う資格、ないです、ね。




