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歩いては休憩し、また歩く。時々小さな動物を見かけるが、それだけだ。森に大きな変化はないまま、野営を繰り返しながらただただ歩く日が、それから3日続いた。
いつものように木の上で目を覚ますと、薄っすらと広がる霧に包まれていた。
しかし、マントが湿った様子がないし、体が変に冷えているということもない。
「やっぱりこの霧、おかしいね」
探知魔法にもなんの反応もない。今のところ危険はない、か?
「カナデ、この霧・・・」
「何かわかった?」
「ううん、でも、同じ感じがする」
「同じ?」
何と?
「うん、あたしと同じ感じ」
レイと?実体化した精霊という意味だろうか。それとも精霊そのもの?
「うーん、霧全体がってこと?」
「そこまでは、ごめん、わからないわ」
ふむ。しかしこの霧に精霊が関わっているのだとしたら、この奥に世界樹に関連する何かはきっとある。
重力を軽減しながら枝から飛び降りる。ふわり、と地面に降り立って、進行方向を確認するために探知魔法に意識を集中すると。
何も反応がない。これはさっきと同じ結果だ。でもおかしい。
入り口の魔導具の反応どころか、動物の反応すら無いのだ。かといってこの霧が何らかの反応を示すこともなく・・・
「少しずつ濃くなってる?」
相変わらず水分を含まないその霧は、徐々に濃度を増しているように見える。濡れて体温が低下する心配はないが、安心できる状況ではない。
正直どうすべきか、いい案が浮かばない。しかしここで立ち尽くしていても状況は悪くなるだけだ。
「当初の予定通り、直進しよう」
幸い木の下で切り払った草はそのままだった。自分で作ったその一人分のスペースと、仮眠に使った木の位置関係から方向を決めて、進む。足元の生い茂る草をかき分けながらなので、まっすぐ歩けているかわからない。不安が滲みを作るかのように胸に広がっていく。
しばらく進むと、1m先も見えないくらいに濃い霧に包まれた。うん、これは先人たちが進めなかったのも納得だ。一旦立ち止まり、目指していた方角を見失わないよう、その辺りに生えていた木の枝を3本折り取って、矢印の形にして遠方に浮かべる。
「やっぱり、同じ感じがする」
レイが先程と同じことを繰り返す。この霧が精霊なのだとしたら、意思疎通ができるだろうか?
「ねぇ、聞こえている?私はフォルティエラ」
声に出して呼びかけてみるが、反応はない。
・・・実体化した精霊だとして、今まで会話ができたのはレイだけだ。それなら、念話のほうがまだ可能性がある。
『ねぇ、聞こえる?』
辺り全体に響かせるようなイメージで、魔力を乗せて呼びかけてみる。反応は無い。しかし・・・一瞬だけ、霧の流れが止まったような?
その後再び呼びかけても同じような変化は見られない。気のせいだったのだろうか。
『私はフォルティエラ。ロキの友達よ!』
もう一度、そう呼びかけた。
ざわり、と木々が鳴る音がする。無風だった私の周囲の風が動くのを感じる。
ロキの名前に、反応した!
『ロキにはティエラって呼ばれているわ!』
風の動きが少しずつ速くなっていく。そして少しずつ霧が晴れて・・・
前方の霧だけが晴れて、霧の間に私が通れるくらいの細い小道が出げした。
罠、ということは無いと思いたい。
『こっちに進めばいいの?』
返事はない。ただ小道がそこにあるだけだ。
「行くしか、ないよねっ」
そうして私は、足元の草を払いながら、小道を進んでいった。
3時間ほど歩いただろうか。草は腰辺りまで高くなり、ますます歩きづらい。しかしそれはつまり、私が入り口に向かって歩いているわけではないということだ。
そろそろ休憩を取りたい。どこまでこの小道が続くかはわからないが、すぐに霧を抜けられると思うのは楽観的すぎる。空中に障壁を展開し、その上に座る。意識して維持しなければいけないが、立ったまま休憩を取るよりはマシだろう。
マジックボックスから携帯食を取り出して、齧る。カップに固形のスープを入れて、水を注ぎ、魔法で加熱して熱いスープにした。まだ六の月、日差しの入らない森の中、しかも霧の中は少し寒い。温かい飲み物があるというだけで落ち着く感じがする。
探知魔法には相変わらず動物の反応すらみられ無い。この霧の中だからなのかもしれない。なにか魔法的な力が働いているのだろうか。魔法自体が発動しないわけではないので、アルディアの王宮のような魔法妨害でないことは確かだ。
十分に休憩を取ってから、再び小道を進む。そこからまた同じだけ歩いた頃、ついに周囲の霧は薄くなり、そして、晴れた。
目の前には背の低い草に覆われた、踏みならされた道が出現していた。霧を完全に抜けたようだ。
「さすがにちょっと疲れたね」
「あたしは別に疲れてないわ!」
「そりゃレイはずっと肩の上にいたじゃない・・・」
今日の探索はここまでに切り上げて、再び私は丈夫な木の上で仮眠を取ることにした。




