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スーリヤの雑踏に紛れ、人影のない路地裏に入ってから、私はラーファの街の少し西側に転移した。街の中や港よりは転移を見られる確率は低いだろう。探知魔法を発動してみるが、近くに反応はない。大丈夫そうだ。
ラーファから東の森までは馬車で1日程度の距離だと聞いている。ひたすら東に進めばいいのだから迷うこともないだろう。
飛翔の魔法で舞い上がり、東へ向かった。どれだけの速度が出るのか今まで試したことはなかったが、特に意識しなくても思いの外はやい。馬車よりは確実に速いが・・・まだ足りない。そんな気分だった。
風の抵抗を弱めるため鋭角に尖った障壁を前方に展開する。もっと速く、もっと。そう意識すればするほど速度は上がった。
「カナデ、一人で行くの?」
「一人じゃないわ。レイがいるもの」
「そうね!あたしがいるわ!」
そうして空を飛ぶこと1時間ほど。地形を無視して超高速で移動しているのだ、馬車の移動速度の比ではない。
辿り着いた森の手前で一旦地上に降りて、マジックボックスから使い慣れた剣と、刃渡りの長めな短剣を取り出し、同時に出現させたホルダーを腰に巻き付けてから装着する。短剣は枝なども切り払えるようにと思って今回用意したものだ。手には馴染んでいないが、実戦があるとすれば使うのはショートソードだ。問題ない、はず。
ブーツはすでに履いているし、あとは手にグローブを。胸当てを付けた後、やはりちょっとサイズが合わなくなっていたので、土魔法で加工して調整。
うん、準備は万端、かな?
「さて。まずはちょっと様子を見ますか!」
もう一度飛翔の魔法で高く舞い上がり、上空から森の様子を見渡してみる。
全体にうっすらと霧がかかっているのはわかるが、見通しがきかないほどではない。ただ、目に見える範囲全てが森。この森が見たまま広がっているのだとしたら、想像以上に広大だ。
「レイ、どう思う?」
「うーん、あの霧が普通じゃないっぽいのはわかるけど」
「やっぱそんな感じだよねぇ」
先が見通せる程度の霧に包まれたくらいで、探索班が悉く方角を見失うとは思えない。何かしらの力が働いていると考えて警戒しておくべきだ。
「王道は地上から、かな」
一度行き詰まるまでは素直に地上から奥を目指すことに決めて、地面に降り立つ。時間は午後3時。今からアタックするのは無謀だろうか。
「一先ず2時間。それまでに霧に遭遇しなければ一旦帰還。霧に遭遇したら・・・スタート地点に戻るって言う話だし、直進で」
「おっけーカナデ!」
森に侵入したところで、左右2本の木にそれぞれ赤と青の太い革紐を巻き付けた。探知魔法に反応するように魔法を付与した魔導具になっている。これで戻ってきたときにも目印になる。霧に阻まれた場合、正確にスタート地点に戻るのか、それとも単に森から出される結果になるのか・・・
探知魔法を使いながら森の中を進む。時折動物らしき反応はあるが、変わった様子はない。入り口付近だからか、小道になっているようなことはないがそれほど鬱蒼とした感じもなく、足元も木の根に気をつける程度で、下草や枝を切り払う必要も無い。
「今の所普通の森ね!」
うん、レイの言う通り。正直普通すぎて拍子抜けするくらいだ。
1時間ほど歩くとさすがに歩きづらくなってくる。草は太ももくらいの高さまで伸び、その草に倒木や根本が隠されてつまずく回数が増えてきた。この状態が続くと野営の場所に困るが・・・太い木の根本の草を少し切り拓いて、炎を使わないようにすれば大丈夫だろうか。しかしそれでは動物避けにならない。
「ちょっとお試し!」
できるだけ太い幹の木を選んで、登っていく。ひょいひょい軽々と登れるのは、足元に障壁を展開して足場を作りながら登っているからである。
あまり高いところの枝はやはり細くて強度に不安があるが・・・低めの枝なら太さはそれなり。幹にもたれ掛かる形でなら、睡眠は取れそうだ。小柄で良かった。
探索中の睡眠は木の上で取ることに決めて、再び森の奥へ進んでいく。そろそろ予定の2時間が過ぎる。しかしここから帰還するのはちょっと面倒だな・・・
木の上で休息がとれるなら無理に戻る必要もない。物資はマジックボックスに十分詰め込んであるのだし。
「予定変更!今日はここで野営しよう」
携帯食を食べる程度とはいえ、食事くらいは落ち着いてとりたい。下草を短剣で少し刈りとって、座れるくらいのスペースを確保した。厚手のマントを敷いてその上に座ると、収納から水袋とコップを取り出し、一口。
うん、生き返る気分だ。
水分補給はこまめにしたほうがいい。水筒にも水を満たしておいた。
乾パンと干し肉をつまみつつ、探知魔法の範囲を広げる。
入り口の木に巻いてきた魔導具の反応を見るに、進めたのは3km程だろうか。足元が悪いとは言えあまりに遅い進行速度だ。
まあ仕方ない。森の歩き方に慣れてくればもう少しはスピードアップできるだろう。
食事を終えたあとは木の枝に登って、マントを体に巻き付けて浅い眠りについた。




