128
その日のミーティングが終わった頃、約束通りギィが資料を持って訪ねてきてくれた。
受け取った資料の代わりにギィの前に紅茶とケーキを置いてから、隣に座ってページをめくる。
「え、いいの?これ食べていいの!?」
「どうぞ」
そう言って資料に集中する。霊石の位置をずらした関係で、構造から修正がされたようだ。イラストでは短い管の部分はなくなって、マウスピースと、それを固定しやすいよう外側に横長のパーツがついているだけ。その接合部、丁度唇に当たる部分に霊石を嵌め込んだようだ。
うん、リクエスト通り。
付与の変更後も出力は問題なし。連続使用時間については、まだ記載されていない。
「前のと違って、水に沈めたまま誰かが触ってないといけないだろ?
だからまだ最終結果は出てないんだ」
なるほど、確かに実験はしにくい構造だと思う。
ギィはフォークを持ち上げながら続ける。
「今のところ5時間までは実証済み。
この時点で十分に実用範囲だよ、カナデのおかげだな」
偉そうにアドバイスして全く改善されなかったら胃が痛くなるところだった。よかった・・・
「私も少し持論を検証してみたんですよ」
栞型魔導具と本を使った実験について話してみることにした。2冊の本を使ったこと、霊石が割れる時間に差があったことなどなど。
「あとは同じ本を使って触れた状態で霊石が割れなければ、って感じですかね」
「しかしそれならあの栞型は実験に向かないかもな」
「それなんですよねぇ」
栞型の魔導具は浮くことがその機能のほとんどを占める。ページが開いた状態を維持するというのは、必要な機能ではあるけれどそれほど霊石に負荷をかけていないと思うのだ。つまり、浮いた状態を維持することを霊石に触れながら確認しなくてはいけないわけで・・・
「うっかり力を入れちゃうと、常に浮いてました!って言えないですしねぇ」
浮いていたのか、手で支えていたのかが判別しにくいのである。やり方はそれなりにあるのだろうけれど、資料にする際に、わかりやすく”実験に影響を与える外部要因がない”ことを示すためには不向きなのだ。
「何かしら実証用の魔導具を作ったほうがいいかもな。
ごちそうさま、めちゃめちゃうまかったよ」
「お褒めいただいて光栄です」
「え?カナデの自作だったの!?」
「家にオーブンがあったので、使ってみたくて」
「天才かよ!」
それはどう考えても褒め過ぎだと思います。
「うちのカナデは天才ー、魔導具チームにはあげないよー」
何故かウルドが得意げにしている。やっぱりなんだか兄っぽいポジションだ。
「いや、しかし冗談抜きでうちに欲しいんだよなぁ。
ザルツ、たまに貸してくれるだけでもいいから頼む!」
「お断り・・・いえ、ティエラがいいなら」
話を振られたザルツは、ぼんやりした様子で個室へと消えていった。
「え、何あれどうしちゃったのうちの室長」
「ザルツが壊れたー」
「いや、その前に私をモノ扱いしないでくださいよ・・・」
ギィが心配そうに私を見る。
「何かあった?」
うーん、ギィに矛先を向ける気はないのだけれど、ウルドとロッシュがいる場で話すわけにもいかないし。
「ギィさんに心当たりがなければ、私にはなにも」
なんだかチクチク刺してるみたいで我ながら嫌な言い方だ。失敗したなーと思っていると、それは顔に出ていたらしい。
「あー、や、カナデが気を遣うことじゃないよ。
しかし、なんつーか・・・そういうことかぁ・・・」
頭を抱えるギィの姿に、なんだか申し訳なくなってくる。ギィが悪いわけじゃないのだ。
「や、ギィさんが気にすることでもないですし・・・」
「あいつが魔導具研究室に来てたの、気づいてたんだろ?」
「・・・ええ、まぁ」
何かを話すべきか迷っている様子のギィは、やはり何かしら知っているのだと思う。私が魔導具研究室を訪ねたときに中に入れなかったのは、そういうことなんだろう。しかし、それをギィから釈明されるのはなんだか違うようが気がする。
だからといってすぐにザルツと話をする気分でもない。こればっかりは自分でも変えられそうになかった。
多分、それを慮ってくれたのだろう。ギィは無理に話そうとすることも、ザルツと話せと諭すこともしなかった。
「まあ、カナデがそのうち聞いてやってもいいと思ったら、な」
それだけ言って、ウルドやロッシュと同じように、私の頭をぽんぽんとしてから、ギィは自分の研究室に戻っていった。
それを見たロッシュとウルドも、また両側から私の頭をぽんぽん。
意地になっている自分が子供みたいだな、と思ったけれど、いいのだ。
私は8歳の子供なんだから。




