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ノックをして少し待つと、内側からドアが開けられた。顔を出したのは目的の人物、ギィ。時間的にいないかもしれないと思っていたので、会えたのはラッキーだ。
「こんにちは」
「あれ、カナデ!うちに移籍する気になった?」
「いえそれは。
でもあの魔導具の進捗が気になってしまって」
「ああ、あれか、うん!
えっと・・・資料持ってそっちに行くよ。それでもいい?」
「それは勿論構いませんけど・・・二度手間では?」
資料がまだ出来ていないと言うならともかく、今の言い方ではそれなりに進展があったということだろう。
「今、お忙しかったですか?すみません」
「あ、いやそういうわけじゃないんだけどさ」
うーんと腕組みして悩むギィにこれ以上我儘を言うのも難だし、中で秘匿したい研究をしているかもしれない。報告が聞けるならそれでいいわけだし、戻るとしようか。
ではまたあとで、と約束をしてドアを閉めた。閉まる直前に中で聞こえた声に聞き覚えがあったことは、知らない。
ウルドとロッシュは既に揃っていて、丸テーブルでだらけていた。昼食後に眠くなるのはよくわかるけど、ダメな大人たちめ。
「お二人とも、お腹に余裕あります?」
「俺の胃は余裕、そしてウルドの胃は異次元収納というのは有名な話」
「そんなに細いのに!?」
「えー?俺意外と細マッチョだよー?」
心底意外そうな声を出してしまった。その細い体のどこに栄養がいってるんですか・・・まぁいい、そういうことなら。
「甘いものはお好きです?」
「え、嫌いなやつなんているの?」
「甘すぎなければすきー。甘すぎるのはーちょっと苦手かなー?」
それなら大丈夫そうだ。ならばまず紅茶の用意をして、お皿とフォーク・・・は、あるし。うん。
段取りを確認して、私は2人に微笑んだ。
「食後のティータイム、いかがです?」
10分後、私達は丸テーブルを囲んでティータイムを楽しんでいた。マジックボックスのことは一応秘密にしているので、一旦個室に移動してケーキを用意して、トレイに乗せた状態で共有スペースへ。クリームもホイップした状態でアルミ製の容器に入れてきたので、抜かりはない。
昨日よりも生地が落ち着いてしっとりしたシフォンケーキは我ながら上出来である。美味。
「これならホールまるごといけちゃうよー」
「おかわりありますけど」
「もらっていーいー?」
嬉しいものである。ウルドのおかわりを用意すべく立ち上がると、丁度ロッシュの皿も空になった。
「物足りなければ少なめに切り分けましょうか?」
「もらう!」
ロッシュの尻尾は嬉しそうにパタパタと左右に動いている。
その言葉に微笑んで、お皿を持ってケーキを切り分けに再び個室へ。
シフォンケーキの乗った2枚のお皿を持って戻ると、今戻ったらしいザルツの姿があった。
「あー!ティエラそれ!僕も!」
「残念、売り切れです」
ロッシュの分を小さく切り分けた分本当は少し残っているのだが・・・先に個室に戻って収納してしまえばいいだろう。なんとなくザルツに食べさせるのは癪だ。
「そんな・・・僕が戻る前に出すことないじゃないですか・・・」
まるでサラサラと風化しそうな雰囲気を醸し出しつつ、絶望の表情を浮かべるザルツに、残る2人は容赦がなかった。
「ザルツが遅いのが悪いんでしょー」
「悪いが分けてやるつもりはない」
2人の前にお皿を置くと、その言葉通りザルツから守るように食べ始めた。
早めに個室のケーキは片付けに戻ろう。
「片付けてきますので、ゆっくり召し上がってくださいね」
「「はーい」」
「ティエラ」
そそくさと移動しようとした私に、声がかかる。
「・・・怪しい」
そういうとザルツは早足で個室のドアを開け中へ・・・
「やっぱり!あるじゃないですか!」
「それギィさんの分です」
意地でもやるものか。
「なんでそんな意地悪言うんですかぁ!」
ぴくり。
自分でも驚くほどにイライラするのがわかる。
ドアを後ろ手で閉めて、微笑みを湛えたままの私。イライラしすぎて涙腺が崩壊しそうだ。
「お戻りが遅かったのは、寄り道でも?」
「・・・いえ、売店には寄りましたけど」
ふぅん。
「その割には何もお持ちじゃないんですね?」
そう、ザルツはマジックボックスを持っていない。
そして、購入したものも、紙袋すら。
「・・・・・・寄っただけなので、何も」
ふぅん。。。
私はシャツの胸元をゆっくりと見てから、言った。
「よく、わかりました。
ですが、私が兄と慕った方は他人の分のケーキを横取りするような方ではないので。
そのように、信じておりますので」
あとでギィが来たときにすぐ出せるよう、綺麗なお皿にケーキを取り分けて、クリームも添えて、埃よけにカバーをかけてから自分の机に置いて、部屋を出た。
何故か悔しくて悲しくて仕方がなかった。
「カナデ、ごちそうさまー」
「うまかったよ、ありがとな」
2人が両側から、ぽんと頭の上に手を置いた。
この2人のほうがよほど兄らしいじゃないか。
「お粗末さまでした。また何か作ったら持ってきますね」
「「よろしくー」」
しばらく、個室からザルツが出てくることはなかった。




