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「味の保証はできませんけど・・・召し上がれ」
フォークをふわふわと押し返す生地の感じは良さそうだ。いざ実食。
「・・・うん、我ながらなかなかの出来です」
固すぎず柔らかすぎないし、茶葉の香りも程よく広がる。大成功と言ってもいいと思う。
「家でこんなおいしいケーキが食べられるなんて・・・」
おいしそうに次から次へとフォークを口に運ぶザルツの言葉に、気づいたことがある。
「そういえば焼き菓子のお店はありますけど、ケーキ屋さんが無いですね?」
「え?・・・転生前はあったんですか?」
「ええ、結構あちこちに」
「なんて・・・羨ましい・・・・・・」
何故だろうか、冷蔵が難しいから?ショーケースが無いというのも理由かも知れない。あるいは、持ち帰り用の箱、だろうか?
紙は普及しているが厚紙というのはそう言えば見覚えがない。紙でできた箱も。その割には紙袋はあるんだよな。
つまり厚みがあって丈夫な紙を作る技術がないということか。ケーキの周りに貼ってある透明なフィルムや下に敷かれているアルミ箔。あれの代用品もなさそうだなぁ。
まあそれを開発してまでケーキ屋を作りたいかと言われれば答えはノーだ。ケーキが手軽に手に入らないのは悲しいけれど、こうして作ればなんとかなるし、極端な話ケーキは無くても生きて行けてしまうのだから。
勝手に考察して勝手に納得した私は、再びケーキを食べ始めた。うん、おいしい。
おいしいんだけど・・・
「・・・おかわりはセルフサービスです」
いそいそとお皿を持って立ち上がるザルツ。別にケーキはまだあるのだから子犬のような目で見つめるのはやめて欲しい。そもそも一人でホールのケーキを食べ切れるはずがない。最初から出来上がったらザルツには持っていくつもりだったし、明日研究室にも持っていこうと思っていたのだ。おかわり禁止と言うつもりは毛頭ない。
何より自分の作ったものを喜んでもらえるというのは嬉しいものだしね。
ウルの日の午前中は図書室で過ごした。迷いの森に関する記述を探していたのだが、確かにこの奥に何かがあると考えるのは自然なことだ。なぜなら迷いの森が不自然すぎるから。
トリスからその北にあるアイゼストまで、その東側を覆い尽くす森の入り口。しかし足を踏み入れてしばらくすると霧に包まれ、なんとかその霧を脱出しても入った地点に戻ってしまうのだそうだ。どういう原理かはともかく、何かを隠している、あるいは守っていると考えるのは当然だろう。
勿論そう考えて迷いの森に挑む研究者は数知れず。その誰一人として霧の迷宮は突破できず、何かを発見したという報告が無い上に森がどれくらい深いのかさえわかっていない。
読み終えた資料を本棚に戻し、図書館を出る。もう少しで皆が昼休みを取る時間だ。午前中は室長であるザルツが高等学園の授業を受け持っているので、午後全員が集まったらミーティングの予定がある。少し早めに食事をとって戻ろう。
4箇所に散らばる学園の中には学生用の食堂があるが、研究棟にはそういった施設はない。軽食を買っていくもよし、どこかの食堂に入るのもよし、お弁当を持参するも良し。時間に融通が効くので選択肢は多い。そういった研究者向けにランチを出す店が多いのだ。競合店が多くても十分にやっていけるほど、トリスに暮らす研究者もまた多いということになる。
軽く済ませるつもりだったので、図書館近くの売店に入った。イメージはコンビニ。軽食の他文具があったり靴下などの簡単な衣類が置かれていたり、歯ブラシや洗顔料などもある。男性用のシャツが売っているのは多分徹夜続きの研究者向けなのだろう。需要を満たした結果、広く浅く商品を扱う結果になったのだと思う。
そのレジで会計をしている一人の男性の後ろ姿に見覚えがあった。
ザルツである。高等学園から研究室に向かう直線上にこの売店があるので、途中で立ち寄ったのだろう。しかしなぜだかちょっと慌てた様子?急いでいるのだろうか。午後にはまだ時間があるのに。
紙袋を持って立ち去るザルツの胸元にちらりと見えたのは・・・薄っすらとピンク色の痕。あら、あるじゃないの浮いた話。
ふぅん・・・学生か同僚かは知らないけれど、モテるという噂は伊達じゃないわけだ。まぁ、私がどうこう言うことではないか・・・ん?ないのか?
まぁいいや。私は何も見なかった。うん。
少しのもやもやを抱えつつ、昼食は売店で購入したサンドイッチを図書館の談話室で食べた。
昼を軽めにしたのは昼食後にデザートがあるから。昨日焼いたシフォンケーキを持ってきているので、午後はそれを食べながらゆったりとミーティングをしようという計画である。数日もすればギィが実験の結果を持ってきてくれるかも知れないし、魔導具研究室に顔を出すのもいいかもしれない。
うん、時間もあるし、ちょっと立ち寄ってみようか。




