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世界樹は夢を見る  作者: 深月
スーリヤ学術都市
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アルの日は家で引きこもることを決めて、食料品をある程度買い込んで帰った。

明日はやってみたいことがある。

荷物を置いて、空間転移でアルディアへ。セルガに挨拶をした後書斎の本を一冊拝借。折角いらしたのですから夕食をどうぞ、と言う言葉に甘えて、家族と一緒に食事をした。ちなみに空間転移のことは詳しくは話していないが、こことスーリヤの家を行き来する魔法がある、ということは使用人達にも話してある。じゃないと帰ってきて見つかった時大騒ぎになってしまう。


「実際行ってみて、どうだ」


「興味のあることが多すぎて、目移りしてしまいます」


それから、遠征の予定のこと、歓迎会を開いてもらったことなんかを話した。


「カイトお兄様、論文読ませていただきました。

とっても興味深くて、面白かった!」


そう言えば、返さなくてはならない。今日は持ってきていないことを詫びると、カイトは全然気にしていないようで、持っててくれていいよ、と言ってくれた。

今後何かのヒントになるかも知れないので、手元に置けるのはありがたい。素直にお礼を言って甘えることにした。


「楽しそうでよかったな、ティエラ」


そうして久々でもない団欒の時間は終わり、訓練所を経由してスーリヤに戻った。




翌日、書斎から借りてきた本を取り出して、キッチンで料理の準備。

何をするかと言えば、お菓子作りである。この家のキッチンにはオーブンが最初から設置されていて、使ってみたいと思っていたのだ。

オーブンと言っても魔導具ではない。薪を使うタイプのものだ。クッキングストーブ、とかいうんだっけ?

さすがに薪オーブンを使うのは初めてなので、レシピ無しなんて無謀なことはしたくない。そもそもお菓子作りは計量が命。材料の配合を覚えていたり自分で決められるほどの経験などない。そこで書斎にあったこの本のことを思い出して、借りに行ったというわけだ。


レシピさえあれば簡単なお菓子は誰にでも作れるものだ。道具を揃えるのが大変だったりはするけれど、技術が必要ないお菓子というのは多いのだ。特別美味しいものを作ろうと思ったらそういうわけにもいかないのだろうけど。

オーブンに火を入れてから、早速粉類を計ってはふるいにかける。そして難関、メレンゲと格闘すること20分。ハンドミキサー無しのメレンゲ作りは心が折れそうになる。魔導具、作ろうかな・・・材料を混ぜ合わせて型に流し、オーブンへ。

焼き上がりまで30分くらいだろうか。焼いている間に片付けを済ませると、どきどきしながら待つ。生地が焼けてきて、甘い香りが漂う。うんうん、いい匂い。


『ティエラ』


念話が響く。


『はーい、具合は大丈夫ですか?』


『ええ、もうすっかり・・・そちらに伺っても?』


『どうぞ、鍵は開けておきますので』


玄関の鍵だけ開けて、再びキッチンに戻る。そろそろ時間だ。ドアが開く音が聞こえるが、構っている暇はないのだ。

ドキドキしながらオーブンを開けると・・・焼き目に多少ムラはあるものの、ふんわりと膨らんだシフォンケーキが魅惑的な甘い香りと、仄かな紅茶の香りと共に姿を見せた。

取り出して竹串の代わりに金属製の串を刺してみる。引き抜いて串を見たが、生地がくっついた様子はない。しっかり焼けてる、かな?

逆さまにして、あとはゆっくり冷ますだけ。


満足気に頷く私の姿をザルツが見ているのにようやく気づいた。


「庭に出たら殺人的にいい匂いがしてきたので何かと思ったら・・・

お菓子も作れるなんて、器用ですねぇ」


「レシピ無しでは作れませんけどね。

甘いもの、お好きですか?」


「ええ、とても」


そういえば何度か一緒に食事をしているけれど、デザートもしっかり食べていた気がする。


「冷めたら一緒に、いかがです?」


「ありがたくご相伴にあずかります!実はそれを期待して来ました」


その言葉に思わず笑ってしまう。


「まだかかりますよ?」


「30分位ですか?」


「いえ、3時間ほどは」


ショックを受けたような顔で固まるその表情は、悲壮感さえ見える。


「こんなにいい匂いを振りまいておいて・・・お預けとは・・・」


気持ちはわかる。しかしここで妥協してはせっかくのふわふわが萎んでしまう。

焼いてすぐ食べられるようなもののほうが良かったかなぁ。


「そういえば、昨日研究室にギィさんがいらしてましたよ」


そうして昨日の報告を話して時間を潰し、改めて歓迎会のお礼を言い、その節はすみませんとひたすら謝られ・・・


お預けの時間が過ぎて型から外した紅茶のシフォンは、しっかりとメレンゲのふわふわを維持したままその形を保っていた。ナイフを入れてみてもふんわりとしてるし、生焼けの場所もなさそう。うん、成功である。


急いで生クリームをホイップして、その間に紅茶はザルツ任せ。だって私の紅茶よりおいしいもの。

カットしてお皿に乗せたシフォンケーキに生クリームを添えて。

二人分用意してテーブルに運ぶと、ちょうどよく紅茶も湯気を立てていた。

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