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「こちらこそよろしくお願いします、ギィさん。
フォルティエラ=カナデ=アルディアです」
「・・・もしかして、噂の婚約者?」
気になる言い方だ。
「噂の・・・?」
「ザルツが特定の一人に執着するのが珍しいもんだから、一時期話題になったんだよ。
あいつ、見た目はいいしあの性格だし、研究者としても優秀だしでモテるんだけどさ、その割に浮いた話は一切なし」
うん、確かにモテないわけがない人だとは思う。
「その上装飾品なんて一切つけてなかったところに、突如あらわれた指輪。
その指輪はどうしたんだと聞く奴は絶えず、返ってくる答えはこうだ」
すると、急にギィは芝居がかった口調で続けた。多分ザルツの真似なんだろう。
「僕、婚約しまして。
・・・しかも随分嬉しそうにそれを言うもんだから、遂にあのザルツに恋人が!ってね」
「なるほど。・・・彼にとっては妹みたいなものだと思いますけどね」
目を少しぱちくりと瞬かせるギィ。何か変なことを言っただろうか。
「それで、その噂のザルツは?」
「自主休暇というやつですね。ウルドさんもロッシュさんもですけど」
「ここもか・・・うちの連中も大半が自主休暇だよ」
ダメな大人が多すぎです。
「なにか伝言しておきますか?」
「いや、また来るさ。
あ、でも・・・君も魔導具作るんだっけ?」
そう言えば彼は私の作った栞型魔導具を褒めてくれていたっけ。
ギィの言葉に頷くと、手に持ったノートを広げて彼は話し始めた。
「水中探索用の魔導具がちょっと行き詰まっちゃってさぁ。何かいい案がないかと思って来てみたんだ。
形状はこのページにあるイラストの通り。
機能自体は問題ないと思うんだけど、起動して10分くらいで霊石が割れちまう」
そのページをじっくりと見せてもらうと、描かれているのは口に咥えるタイプの魔導具のようだ。極端に管の短いシュノーケルのような構造で、その管の先端に霊石を嵌め込む形。
ふむ。
「コストの問題だと思うんですけど・・・出力は問題ないんですよね?」
「うん、水中でも問題なく空気を生成できてるよ」
「私の持論というか仮説というか・・・検証も何もできていないんですけど、いいですか?」
前置きでそう断りを入れると、ギィが頷いてくれたので続ける。
「全ての魔導具は霊石に触れないと起動しませんけど、これは起動に必要な精霊の力を触れることで供給しているからだと思うんです。
一度起動すると止めるまで動き続けるタイプの魔導具は、どれも長時間使用し続けると霊石の力を使い尽くしてしまうのではないかと」
つまり、電池切れのような状態になるのだと思う。私が作ったあの栞も、水道も、恐らく連続使用には限界がある。ただ、空気を生成するという機能に比べてエネルギー消費量が大幅に少ない上に、霊石も最上級のものを使っているのでその限界に至るまではかなりの時間がかかるだろう。この辺は質の悪い霊石で同じものを作れば検証ができそうだ。
それでも多くの魔導具はそう簡単に霊石が割れたりはしない。ということは何らかの方法で霊石は精霊の力を補充しているのだと思う。それが、触れるという動作で成り立っているというのが私の持論だ。
「多分、”起動すると空気を生成し続ける”という付与がされていると思うんですけど、それを”霊石に触れている間は空気を生成する”という付与に変えて、霊石が常に触れている状態になるように・・・そうですね、咥える部分の唇に当たる位置に霊石を嵌め込んでみてはどうでしょうか」
「・・・なるほど。うん、それでやってみるよ!
カナデ、うちの研究室に移籍しない?」
「魔導具作りは趣味のようなものなので・・・」
確かにそれは楽しいし興味がないわけではないが、専門にする気はないのだ。
「ここに飽きたら是非おいで!
ちょっと、早速試したいから失礼するよ、ありがとうカナデ!」
そう言って小走りで去っていくギィ。・・・これで失敗したらどうしよう。
検証できそうなことはやっておこうかな。暇だし。
そんなわけで、私は適当な小さい原石を青い状態の霊石に変えて、あの栞と同じものを2つ作成した。
資料室から2冊の本を適当に抜き取る。それらを持って共有スペースのソファへ。
2冊の本のうち片方は、創世記の絵本並に薄くて装丁も簡易な本。もう一方はハードカバーの分厚い辞典である。それぞれに魔導具を挟んで、左右の手で同時に触れると、本が浮き上がり・・・
30分ほど経っただろうか。霊石が割れる音と同時に、図鑑がソファの上に落下した。もう一方はまだ浮いたままだ。
そのまま観察して、2時間ほどが経った頃。もう1冊もついに霊石が割れて落下した。
うん、仮説を完全に立証するものではないけれど、ある程度の信憑性は、得られたかな。
満足して、割れた破片や本を片付けて、帰路についた。




