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世界樹は夢を見る  作者: 深月
スーリヤ学術都市
124/201

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翌朝まだ早めの時間、私はザルツの家の呼び鈴を鳴らした。


『・・・ご自由に、お入り下さい・・・』


頭に響く、ザルツの声。ご自由にと言われても、鍵がかかっているのだが・・・

恐らく鍵を開けに来るのも辛いのだろうと予想して、私は空間転移でリビングへと侵入した。


『ええと、どちらに?』


『寝室に』


キッチンへ入って勝手にグラスを拝借し、2階へ。軽くノックをしてから寝室のドアを開けると、ザルツは未だベッドの上。頭を抑えている姿を見るに、やはり二日酔いのようだ。そりゃあれだけ飲めばそうなる。


「おはようございます。お水をどうぞ」


コップを差し出すと、彼は上半身を起こしてそれを受け取り、一気に飲み干した。空になったコップをその手から回収。


「・・・今日は、お休みで」


ダメな大人である。

別に研究棟では出席を取るわけでもなく、何時までに来なければいけないという決まり事も無い。なんとなく目安になる時間はあるが、中には完全に昼夜逆転している研究者もいるし、その気になれば、今日は気分が乗らないから休み、ということも普通に可能である。

とはいえ、二日酔いで休みというのはダメな大人と言わざるを得ない。


「今日頑張れば明日はアルの日ですから」


「そこをなんとか」


「回復魔法、かけましょうか?」


「あー・・・いえ、これは名誉の負傷と言うやつなので」


名誉の負傷で仕事を休むというのもなんだかなぁ。

とはいえ本人がそう言っている以上無理やり魔法で治すのも難である。


「では私は研究室に行きますので」


「適当に切り上げてくださいね、多分ウルドもロッシュも来ませんから」


ダメな大人たちである。

ザルツが鍵を掛け直しに行かなくてもいいように空間転移で庭に出ると、私は一人研究室に向かった。一応軽くノックをして、返事を待たずにドアを開ける。静まり返ったミーティングルーム。一応右側の2つのドアをノックしてみるが、返事はない。

居ないものは仕方ないので、ソファに腰掛けて収納してあった一冊の薄い論文を取り出した。

カイトの論文である。

仮説しか立てられなかったという言葉が示す通り、その論文は完結しているわけではない分かなりボリュームは少ない。これを読み終わる頃には誰か来るだろうと、ページを捲った。


カイトの研究はまず転生者への聞き取り調査からスタートしたようだ。内容は転生前の何を覚えているのか。サンプルは6名と少ないが、転生者を集めるだけでも大変なので仕方のないことだろう。

6人が共通して覚えていたのは、転生前の名前と、自分が死んだということ。自分が死んだ記憶があるのに今この世界にいるという違和感が転生を自覚させる大きな要因である、と綴られている。

更に、サンプル6人のうち4人の記憶は、その世界観からこの世界とは違う世界から来ていることを示しており、同時に異世界の存在の証拠にもなっている。

残る2人は転生前にそれぞれアルディア、ミュールで暮らしていたという証言からこの世界の住人であったらしいことが判明。これにより転生者は異世界からの転生に限らないことがわかる。

しかし、先に挙げた共通点以外の記憶には一定した共通点が見られず、中にはそれ以外は全く覚えていないという転生者も1名。

サンプルは全員人間。獣人の転生者は見つからず、その存在に関する前例すら存在しない。

以上を踏まえて、獣人については不明だが、転生者の記憶量にかなりのばらつきがあるため、人間に関しては転生者であるものの転生前の記憶が無い”潜在的転生者”が存在する可能性がある、と締めくくられ、論文は終わっている。


なるほど、と思える内容である。”転生前の記憶がある者”を転生者と表現しているだけで、記憶がないから転生者ではないという証拠にはならない。調査を行っていたカイト自身も、記憶がないだけで異世界から転生した人間である可能性は多いにあるというわけだ。

そもそも輪廻転生という観点から見れば、特定の存在だけが転生すると考えるよりも、全ての存在が転生を繰り返していると考えるほうがよほど自然だ。


うん、カイトの論文もなかなか興味深い。これも何かのヒントになるときがくるだろうか。

それにしても・・・本当に、誰も来ない。


研究室に来てまだ3日目。そのうち初日は机を設置したりしただけだ。正直、何をしていいかわからない。魔導具でも作ろうか・・・?

そうして作業部屋へ向かおうとしたとき、ノックの音が響いた。


「はーい、どうぞ」


そう声を掛けると、部屋に入ってきたのは一人の男性。

見覚えがある。確か見学のときに声を掛けてくれたお兄さんだ。


「あれ、見学に来てた子?」


「その節はどうも」


「おお、じゃあ飛び級してきたっていう昨日の主役は君だったのか。

ごめんね、参加できなくて」


歓迎会のことだろう。そんなこと気にしなくていいのに。


「俺はイシュタルギーニ。ギィって呼ばれてる。

よろしく!」


そう言って、ギィは笑顔を見せた。

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