120
翌朝、日課のトレーニングを終えてから研究室へと向かった。
中にはもうメンバーが揃っているかも知れない。そう思うと少し緊張してしまう。
ドアの前で少し息を整えてから、ノックをする。
・・・返事がない。
もう一度ノックしてみるものの、やはり返事はない。うーん。
入っていいものか悩んでいると、後ろから男性に声を掛けられた。
「どうかしました?」
「あ、いえ、あのノックしたんですけど返事がなくて・・・」
「中にいるはずだけどな・・・
まあいいや、どうぞ」
そう言ってドアを開けてくれた。どうぞ、ということはメンバーの一人だろうか?茶色髪の獣人の青年は、ザルツと同年代に見える。
彼の後に続いて部屋に入ると、ソファに寝転んだ姿勢で本を読むザルツの姿が見えた。集中しているのだろうか、私達が入ってきたことにも気づいていないようだ。
「おーいザルツ。お客さん」
男性はザルツに歩み寄って浮かんでいた本を取り上げた。そこまでしないと気づかないとは、ものすごい集中力だ。
「え?あ・・・」
お客さんという言葉は聞こえていたようで、慌てた様子でこちらを見ると、ザルツはクスクスと笑った。
「ティエラ、自分の研究室に入るのにノックはいりませんよ?」
・・・言われてみればその通りかもしれない。
「ロッシュ、紹介するからウルドを呼んで下さい。部屋にいるはずですから」
ロッシュと呼ばれた男性が右奥の部屋を軽くノックして、返事も待たずにドアを開けた。中から出てきたのは金髪で細身のお兄さん。
「噂の新人さんー?」
ちょっと間延びした喋り方のお兄さんは、なんとなく見覚えがある。確か、見学に来たときに見かけたような?
彼が出てきたのを確認すると、ザルツが2人を紹介してくれる。
「研究室のメンバーのロッシュとウルド。
うちのメンバーはこれで勢揃いです」
ロッシュは茶色い髪に茶色い瞳、それよりも濃い毛色のもふもふ耳ともふもふ尻尾。イヌ科である。もふもふ。
ウルドは金髪に青い瞳をしていて、細身だとは思ったがかなり細い。不健康に見えるくらいに。
「フォルティエラ=カナデ=アルディアと申します。
ロッシュさん、ウルドさん、これからどうぞよろしくお願いしますっ」
ペコリと頭を下げると、2人ともにこやかに挨拶を返してくれた。
「それから、精霊のレイです」
「よろしくお願いするわ」
レイも挨拶をすると、2人は少し驚いたような顔はしたものの、ただそれだけだった。
「よろしくねー」
先ほどと全く変わりなく、ウルドがレイに挨拶を返す。それがとても嬉しかった。
「レイと・・・なんて呼んでたっけ、ティエラ?よろしくね」
「カナデ、ですよロッシュ」
ザルツの声音が怖い。笑顔だから余計に怖い。
「人の婚約者を気安く呼ばないでください」
「うわぁこわっ。その独占欲こわっっ。
よろしくねカナデ」
「カナデは見学に来てた子だよねー?」
「あ、はい!やっぱり、廊下でお会いしましたよね?」
「あ、覚えてたんだー、うんうんそうだよー」
和やかな空気、名前を聞いても変わらない態度、そしてレイに対しての態度も。
こんな風に人と接することが出来るなんて、思っていなかった。まだ数日しか住んでいないけど、もうスーリヤ最高と言ってもいい。来てよかった!本当によかった!!
「折角揃ったことですし、ミーティングしましょうか」
ザルツの言葉で丸いテーブルを囲む私達。ちなみに自己紹介している間にザルツが全員分の飲み物を用意してくれていたので、暖かいカップを手にゆったりとしたミーティングの始まりである。
「まずティエラに簡単にうちの説明をしましょうか。
色々な内容を調べているという点でちょっと異色な研究室ですが、特に担当や期間を設けたりはしていません」
小さく挙手をする。ザルツが頷いてくれたので、質問を1つ。
「担当を、というのはわかるんですが、期間というのは?」
「まあ要するに、今はこの研究をする!とか決めてるわけじゃないってことかな」
「全部同時進行ーみたいなー?」
それは大変そうだ。
「それぞれが他の研究のヒントになったり、時にはつながっていたりするので、そういうのは決めないようにしてるんですよ。
例えばですけど、創世記の内容は古代文明の滅亡と関わっているでしょう?」
「なるほど、遺跡の調査が創世記を読み解くヒントになったりするんですね?」
「そういうことー」
ふむふむ。大変そうだけど発見は多そうだし、なによりおもしろそうだ。
「最近は2つの調査予定が並行して進んでるところ」
「遠征ですか?」
「そそー、南東と、ずっと東」
随分ざっくりだけど、それも手分けして同時進行するんだろうか。
進んでいく話に、わくわくして仕方がない。ここは、希望に満ちている。




