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「むぅ・・・」
考え込むヴォイド。あとひと押しだと思うんだ・・・
「お願いします、お父様!
心配でしたら頻繁に屋敷に戻ります!」
空間転移があるので顔を見せに来る程度なんの問題もない。
私の言葉を聞いてそれに思い至ったらしいヴォイドは、ため息をもらしつつ、最後には・・・
「わかった、認めよう」
「ありがとうございます!」
こうして、私の進路は決まった。
勿論、いくつかの条件はつけられた。時々は帰って顔を見せること、兄の成人の儀には参加すること、住む場所は治安のいいところを選ぶこと、兄たちのような遠征に出かける場合は事前に報告すること。
どれも私を心配してのもので、理不尽な要求は何一つなかった。
しばらく手続きをしたり飛び級のための試験を受けたりと少し慌ただしい日が続いた。しかしそれもすぐに落ち着いて、春からスーリヤに行くための条件は全てクリアした。
それらが片付いた頃にはエイドの結婚式があって、エルミラが幸せそうな顔をしていたのをよく覚えている。
日々は過ぎて、二の月。
今私がいるのは、ザルツの自宅の一角にある、工房だ。
『到着しました』
『リビングにいますよ』
廊下に続くドアを一応ノックする。鍵を開けて廊下に出ると、私はリビングへと向かった。カジュアルな服装のザルツが、私を見て微笑む。
「いらっしゃい、ティエラ様」
「今日はご面倒をおかけします」
「いえいえ、面倒だなんてとんでもない」
今日、ザルツの自宅を使ってスーリヤに来たのは、入学手続きと家さがしをするためだ。ザルツが付き添ってくれると言うのでアルの日に、と思っていたのだが、休日は人が多いですから、と休暇を取ってくれたので甘えることにした。
まずは高等学園で、入学の手続きを。
ザルツが推薦書を書いてくれていたので、授業の免除申請と研究棟への所属手続きもその場ですることができて、しかもそれは簡単に受理された。ザルツ、恐るべし。
次に物件探し。
ザルツに不動産屋に案内してもらって、私は貼りだされている物件を真剣に眺めた。治安のいいところを、という絶対条件があるので、街の事情はザルツと店の人に聞こうと思うが、取り敢えずは相場のチェックやどんなアパートメントがあるのかをじっくりと見ていたのだが・・・
「・・・どうかしました?」
ザルツが物件を見る私をじーっと見つめているのだ。
「アパートメントにするんですか?」
「他に選択肢が?」
「戸建てのほうが気楽でいいですよ?」
・・・それは確かにそうだろうけれど。
「特に、治安のいい場所は戸建てのほうが多いんです」
ふむ。
「スーリヤで一番治安がいいと言われているのは、僕の自宅があるあたりですね」
言われて、その近辺の物件を見てみると、確かにほとんどが戸建て。集合住宅のほうが少ないというのは想定外だった。
別に戸建てで問題があるわけではない。最近は魔導具で荒稼ぎしているし、資金は有り余ると言ってもいいほどある。戸建てだったら水道の魔導具も付けられるし魅力的ではあるのだが・・・8歳で戸建てに独り暮らしって、大家さんの信頼を得られるとは思えない。どうやらこの世界では家を借りるのに保証人という制度がないのだそうだ。私だったらそんな契約で支払い能力の怪しい8歳児に家は貸さない。
「あ、これ」
そう言ってザルツが一枚の物件情報を手に取る。
間取り図が載っていたので覗き込むと、ザルツの自宅と同レベルくらいの屋敷である。自分の引越し先でも探しているのかと思えば・・・
「ここにしましょうよ、ティエラ様」
私の家かよ!!分不相応にも程があるでしょう!!
「すいません、ここ内見できますか?」
話が進んでる!?
ザルツと不動産屋さんの間でさくさくと話が進み、何故か本当に内見に行くことになってしまった。馬車を回してくれて、渋々乗り込んで、そして案内された場所というのが。
「ここ、ザルツ様の自宅じゃないですか」
「見るのは僕の家ではありませんよ?」
そりゃそうだろう。
「こちらになります、鍵を開けますので・・・」
不動産屋さんが入っていったのは、ザルツの自宅の隣の屋敷。
見た目もどう考えてもザルツの家と同レベルだ。
浴槽がついた浴室に、広々キッチン。部屋数も多い二階建て。うん、お高いんでしょう?
「こんなところ、学生に貸してくれるわけがないでしょう・・・」
「プレゼントしますよ?」
「は!??」
「いえ、ですから・・・」
「いや、待って下さい。それは無い、それは無いですよ!」
思わず繰り返してしまった。
「戸建てプレゼントするとかどこの大富豪ですか!」
「うーん、大富豪ではないですけど・・・気に入りませんか?この家」
はっと気づいたようにザルツは、今度は子犬のような悲しげな目をして言う。
「すみません、僕と隣の家はお嫌ですよね・・・」
「いやそれは心強いですしありがたいですけど」
「じゃあここにしましょう」
にこにこ笑顔のザルツさん。
ちょっと考える時間をください・・・




