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「見学の学生さんかい?」
ザルツと一緒に歩いてきた数名の青年たちもまた、私に気さくに挨拶をしてくれた。ザルツの同僚にあたるのだろうか。
「はい、お邪魔しております」
こんなところでカーテシーをするのはおかしいと思って、私は普通にペコリとお辞儀をした。
「ザルツの方から声を掛ける相手なんて珍しい。
さぞかし前途有望なお嬢さんなんだろうね、そういう学生さんは大歓迎だよ」
おお、普通にザルツと呼ばれているのか。そういえば研究者としてはただのザルツとして、って以前言っていた。とはいえ彼らはザルツの身分を知らないのだろうか?
「この間僕の使っている魔導具を絶賛してたでしょう?
あれの製作者ですよ」
「あれか!あれはいいよなぁ、俺も欲しいわ」
どれのことだろうか。
「あの銀製の栞ですよ」
なるほど。本が好きな人には気に入られるだろうな、あれは。
帰ったら自分の分も作るつもりでいるし。
「使って頂けているみたいで、嬉しいです」
「あれはもう手放せないですね、快適すぎて」
そんな他愛ない話をしてから、また研究棟をうろうろさせてもらったが・・・
正直これ以上はあまり意味がない。
だって、もう決めてしまったもの。
なんとしても両親を説得して、私はスーリヤに来る。そう決めた。
そうと決まってしまえば残りの日程は消化試合のようなもので、予定通り他の研究棟も見せては貰ったが、研究内容そっちのけで心はどう両親に話すかをずっと考えていた。
いいアイディアも浮かばないまま、ラーファまで戻って屋敷の使用人達への土産をしっかり確保して、再び海路でアルディアへ。
屋敷に帰り着いたのは、九の月がそろそろ終わろうかという頃だった。
飛び級の審査や手続きにどれほどの時間がかかるのかはわからない。わからないからこそ話すのは早いほうがいい。
帰宅したその日の夕食の席で皆にお土産を手渡した後、私は切り出した。
「お父様、お母様。お願いがございます」
「何なりと言ってみるがいい」
「スーリヤで勉強と、研究をしたいのです」
「ふむ、学校を卒業した後のことか?留学か・・・
とはいえまだ3年もある、すぐに決める必要があるのか?」
「いえ」
緊張しながらも、私はきっぱりと言った。
「今の学校の卒業を早めて、来春から」
私のその言葉に、ヴォイドは眉根を寄せる。
「飛び級の制度があるのは知っている。お前が優秀なことも。
しかしそう焦る必要はなかろう」
「焦っているわけではありません。ただ単に時間を無駄にしたくないだけです」
「3年間学校に通うことが時間の無駄だと?」
「私にとっては、そうです」
しばしの沈黙。緊張しすぎて、嫌な汗が背中を伝う。
「・・・無駄と思う理由は」
「3年生からの選択授業の中に、学ぶべきことがありません。
魔法や付与魔法、魔導具作り、これらについてまだまだ勉強は必要ですが今の学校で学ぶような基礎訓練ではありません。
経済学についても同じで、高等学園の授業のような専門的な内容には知らないことが多いですが、今の算術と地理を組み合わせただけの基礎は少し考えれば自分で導き出せます。
剣については騎士団に入団したほうがよほど効率的です」
「スーリヤでは学べることがあるというのか?」
「見学した限りでは、それこそ無数に」
「現在の担任は?」
「ガルヴァ先生です」
「シエラ、明日学校にいってガルヴァどのの意見を聞いてきてくれ。
本当にティエラにこれ以上教えることが無いのかどうか」
「ええ、わかりました」
頭ごなしに否定されることはなかった。私の意見をちゃんと聞いて、そして考えてくれている。正直、だめだの一言で終わらせられると思っていたのだ。
「ティエラ、この場で結論を出すことはできない」
「はい、わかっております」
この日は、話はここで終わった。
翌日、再び夕食の席。
「午後の実習の時間は、ティエラはほとんど自習をしているのですって」
「自習を?何故だ」
「課題が一度の授業で終わってしまって、それ以上教えられることもなくって。
自習ではティエラは何かしらの実験や検証を一人でしているそうですよ」
「ティエラ、事実か?」
「はい。以前お渡しした霊石の色と出力についてのレポートは、その自習の時間で行った実験を基にしたものです」
「ふむ・・・」
再び考え込むヴォイド。流れは悪くない。しかし決定打には欠けるような気もする。
祈るような気持ちで私はヴォイドを見つめていた。
「シエラの意見は」
「いいんじゃないかしら?行かせてあげたら」
「ティエラの意欲も、優秀さもわかった。認めたいところだが・・・
8歳の娘を一人で遠方にやるというのがどうにもな・・・」
「大丈夫じゃないかな?」
口を挟んだのは、エイドだった。意外なところから発せられた言葉に、ヴォイドが視線で理由を問うた。
「騎士団の中で話題になってたよ、今回の旅の話。
サイファさんとリッドさんが話したみたいでね」
話題というのは、旅で発生したイレギュラーについてのことらしい。
「王都に向かうことも、そのルートもティエラが決めて、護衛やメイドへの指示も全部ティエラがして、襲撃者を捕えたのもティエラ。
2人曰く、”俺達は姫様の指示通り動いただけで、その上出番もなかった”だってさ」
そんなことを言ってくれていたのか、あの2人。高く評価してもらえてたんだなぁ。嬉しい話だ。




