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背の高い、単身者用と思しきアパートメントが並び、その割にはやけに静かな町並み。中央に緑豊かな公園が広がり、それを中心とした六芒星の形に教育機関が配置され、北には様々な学問が日々研究される巨大な研究棟が東西に並ぶ。
トリスが擁する学術都市スーリヤ。王都から出て東へ2日馬車に揺られ、移動を開始して3日目の朝に私達はこの街に到着した。
王都と学術都市の間には大きな街はない。宿場町が発展しても良さそうなものだが、ここを通過する人の数に比べて宿を利用するような人が極端に少ないため、宿がいくつか並ぶポイントがいくつかある程度。この世界では長距離を移動する際は野宿が当たり前。観光に訪れる人だってどこかしらで野宿をする必要性は出てくる。それ故に移動中に宿で休むということを逆に贅沢に感じるのがこの世界の人々の常識であるらしい。勿論大きな街では宿を取るのは普通のことだが、宿場町として栄えるというパターンは決して王道ではなく、街ができてその中に需要があるから宿が増える、という程度なのだそうだ。
宿を利用する人が少ないというのは、学術都市に生活する人々のうち移動を度々必要とする層が主に学生である、ということに理由がある。他の街や国に実家があり、アパートメントを賃貸で住んでいるのは学生であり、帰省などで頻繁に移動するのはこういった人々。そうではない、元々スーリヤ出身の学生やスーリヤに実家がある学生以外の人々がわざわざ移動する必要は観光に出向くとか研究にどこかへ出かけるとか、そういったときでなければ無いので、その回数は極端に少ない。
そして、学生の多くはそれほど裕福ではないのだ。
宿の代わりに、旅支度がされた乗り合い馬車は定期的に通っている。これを利用すれば野宿の準備や食事を用意する手間と荷物が無いまま宿を取らずに移動が可能なので、こちらのほうが主流になっているらしい。
勿論、私達は宿を2回取って移動してきましたけれども。
これから10日ほどこちらに滞在し、観光したり学校を見学したり。留学中の兄たちに会う予定はない。彼らは残り少ない留学期間を満喫するべく色々な研究旅行について歩いているらしく、スーリヤにいることのほうが少ない。今どこに居るかも、ヴォイドたちは知っているかも知れないが、私は知らない。
来春には帰ってくるのだし、別に無理して予定を合わせてもらう必要もないので、特に不満はない。
スーリヤでの滞在先は予めトリス側が手配をしてくれていた。この街では数少ない富裕層向けの宿である。馬車がその宿の前まで送ってくれたので迷子の心配もなし。一緒に移動してきたザルツとは一旦分かれ、私達は宿に入る。ザルツはこの街に自宅があるので、当然である。ただ、今日明日は休暇は続いているらしく、一度荷を解いたらスーリヤを案内してくれる予定にはなっている。
さて、同行者5人には今後の方針を伝えなくては。
「移動お疲れ様でした。
えー・・・今日と明日は全員休暇です。自由に過ごして下さい。
明後日からですが」
明後日からは主に学校見学だ。なんせ初級学園の他にも高等学園があるし、大きな図書館もある。研究棟も見学させてもらえることになっている。見る場所は多い。
「朝と夜以外、私が出かけている間は全員お休みです」
サイファが小さく挙手をする。
「はい?」
「姫様、俺達一応姫様の護衛なんで・・・」
・・・一理ある。
「ええとでは・・・サイファとリッドは一日毎に交代で私の護衛をお願いします」
となれば、メイド3人にも交代で仕事を与えないと不公平だろうか。
しかし、何も思い浮かばない。
「ジェーン、スイ、メル。交代で・・・一応一人宿に残るように。朝夕の食事の手配などは日替わりで一人ずつ担当して下さい」
あともう一つ言うべきことがある。
「お父様と手紙で相談していたのですけれど。
全員、手の平を上にして両手を前に!」
素直に横並びで私の指示に従う5人。
その手に1つずつ小さな革袋を乗せた。
「今回の旅で発生したイレギュラー、その危険度を考慮しての特別報酬です。
まあ大した金額ではないので、頑張ってくれてありがとうというお礼兼観光中のお小遣い、ということで。
これについては異論は一切認めません!」
きっぱりと言い放つ私にやはりなにか言いたげにしていた5人だったが、
「認めません」
にっこり笑って念押しをすると、皆諦めたように口を閉じてくれた。私の頑固さを旅の間にわかってくれていたようである。
さて、私が出かけなければ皆も羽を伸ばせないので、早めに準備をすることにしよう。
といっても持ち物はほぼすべてマジックボックスの中。やるべきことは少ないが時間は多少あるので、お風呂に入ることにした。移動中は湯船に浸かることはできなかったからね。




