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拾い上げて、霊石に触れる。
「はぁい・・・」
気の抜けた声で返事をすると、聞こえてくるザルツの声。・・・ザルツの声?
そうだ、相手はザルツしかいないじゃないか。スマホ感覚で出てしまった。頭回ってなさすぎだろう、自分。
「ティエラ様?
応答してくれないと、通信機の意味がないじゃないですか」
仰る通りです。
「眠ってしまってました・・・」
頭を冷やすと言って部屋を出たのに、完全に寝ていたことが恥ずかしい。
「えぇと、どうしました?」
「用が無いと、使っちゃいけませんか?」
「いえ、そんなことはないですけど」
つまり、用件は無いということ?
「緊急時以外も使っていいんですよね?」
「?
ええ」
「それならティエラ様も、腕輪型のほういつも着けていてくださいね」
「え、あ、はい」
そうして、音は途切れた。
ああ、つまり、緊急のときに呼ぶのは嫌だけど、使ってはくれる、ということかしら。完全に無駄になるわけじゃなかったなら、良かったかな。
腕輪型の魔導具を左腕にはめて、今度は朝まで眠ったのだった。
目が覚めるとすぐに、スイが紅茶を淹れてくれた。なんとなく砂糖を入れて、甘めの紅茶を楽しみながら窓の外を見る。今日もいい天気。
昨日はなんだかんだ世話をさせてしまったけれど、今日は同行の5人にきちんと休暇をとるように申し付けた。買い物に行くも良し、ゆっくりするも良し。折角トリスに来ているのだから、5人にもちゃんと観光の時間をあげたかったのだ。
『ティエラ様』
急な念話にちょっとびっくりしてしまう。こちらにも呼び出し音をつけるべきだっただろうか?
『おはようございます、ザルツ様。
昨日は申し訳ありませんでした』
『お気になさらず、と言いたいところですが』
ですが。
『謝罪を受け入れるのには条件をつけさせてもらいます』
からかうような口調だが、私にとっては真剣な問題である。
『・・・どのような?』
『これから僕が言うことに、ティエラ様は”はい”しか言ってはいけません。
これが条件です』
それ、実質条件がいっぱいあるってことではないのだろうか。
『どうされますか?』
『・・・わかりました』
『ではいきますよ?
あなたが辛いときは、連絡を下さい』
『・・・はい』
『そうでないときも、連絡を下さい』
『はい』
『ただ単に声が聞きたいと思ったら、連絡を下さい』
『はい』
『僕が同様にあなたに連絡することを許して下さい』
『はい』
『では、これが最後です。
今日は、デートに参りましょう?』
『・・・はい!』
そうして、この日は王都を案内してもらった。私達が王都に入った南の門から
はまっすぐ北に大きな通りが伸びており、その北端に位置するのが王城だ。ただしその通りからまっすぐに跳ね橋が降りているわけではなく、通りを北上するだけでは王城を囲む湖にぶつかる。そこから東西に少しずれた形で二箇所、跳ね橋が降りるようになっているのだ。
大通りには馬車の窓から見てきたように、滑らかな石材を使った建物が多く並ぶ。魔導具を扱う店や本屋が多いのがトリスならでは、だろうか。勿論魔導具はトリスでも高級品なのだけれど、アルディアのように富裕層向けのものばかりではなくて、いわば企業向けとでもいうのだろうか、大規模な工房や商会が工具や事務用の魔導具を所有しているのだそうだ。
「さて、なにかリクエストはありますか?」
「はい!お土産を買いたいです!」
挙手して元気に答える。まずはお土産の確保が最優先だ。
「ご家族の分ですね。
学校にも必要であれば、お菓子とかですかね?」
「いえ、家族の分だけで。
あ、そういえば」
家族の話で思い出した、報告しておくべきだろう。
「エイドお兄様・・・長兄が屋敷に帰ってきていまして」
「おや、それはそれは。
確かアルディア中をまわってらしたんですよね?」
「ええ。それで、今は婚約者の方も一緒にいらしてて」
ふむふむ、と頷くザルツ。
「十一の月に挙式が決まったそうです」
「それは、おめでとうございます。
思ったより早いですね、僕としては喜ばしいですが」
長兄の結婚のタイミングが未定だったからザルツと私の結婚時期も未定、ということだったので、エイドが結婚してしまえば未定にしておく理由もなくなるのだ。もしかしたら何かしら話が進む可能性もある。まあ、進まない可能性もあるわけだけれど。
「そういうわけで、両親とジルお兄様、エイドお兄様、その婚約者のエルミラ様。
5人分と、あとは屋敷の皆に、ですかね」
屋敷の皆にはザルツが学校用にと言ったように、お菓子の類がいいだろう。下手に形に残るものは、趣味じゃないものだったとしても使用人の立場でそんなことが言えるわけもないし、気を遣って嫌々使い続けるしかなくなる、なんて私だったら嫌だもの。
先に日持ちのするお菓子を購入しようかとも思ったが、まだ屋敷に戻るまでは20日以上ある。いくら日持ちがするといっても限界があるだろう。王都で買うのは家族の物だけにして、皆への分は帰りにラーファで購入することにした。
・・・時間経過の無いマジックボックスの必要性を感じた。




