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「僕の、部屋ですね・・・」
2人で戻って入り口を閉じる。ザルツは深呼吸をしてから、部屋の隅にあったティーセットで紅茶を淹れ始めた。慣れた手つきで二人分の紅茶を用意すると、テーブルへ。椅子を2つ並べて、片方を私に勧めてくれる。
「ミルクとお砂糖、使います?」
「いえ、このままで。いただきます」
私が淹れた紅茶より断然おいしい。考えてみれば普段は学術都市で暮らしているのだ。家事も慣れているのだろう。
「どういう理論なんですか?距離を縮めているのとは違いますよね?」
まさか理論の話が最初に来るとは。ザルツらしくて思わず笑ってしまった。
「そうですね、空間と空間をつなげている、と言うべきでしょうか」
「瞬間移動のように?」
「あれは場所と場所をつなげているんじゃなくて、いや、つなげているといえばつなげているんですけど」
自分でもそこまで深く考えていなかったので、説明が難しい。
マジックボックスから筆記具を取り出し、紙を広げる。離れた2つの点を記して、それをザルツに見せながら説明を続けた。
「瞬間移動は、A地点にいる自分をB地点までジャンプさせています。
空間転移はそうではなくて・・・」
紙を折り曲げて、2点をくっつける。
「こうやって、A地点とB地点をくっつけているんです。そしてその間を跨いでいる、という感じでしょうか」
「なるほど、これなら瞬間移動のように何かに重なってしまうことはないわけですね」
「ええ。仮にくっつけた地点に物があれば、単純に壁になって通れないと思います」
そこまで説明すると、ザルツは深くため息を吐いた。
「また危険な魔法なのかと思って心配しました・・・」
「・・・その節はご心配をおかけしました」
「それにしても」
そこで区切って、紅茶を一口啜る。
「ずるいです」
うん、確かにレイの力はずるいと言えるほど強力だ。
「僕のほうはティエラ様に会いに行けないのに・・・!」
ずるいって、そこですか!
論点がなんだか駄々っ子のようだ。
「まあ、あの魔法があるので、緊急時は呼んで下さいということです」
「嫌です」
「それを断られてしまったら通信機の意味が無くなるじゃないですか」
「僕はティエラ様の危機に駆けつけることができません。
それなのに自分の危機では呼びつけるなんて不公平ではないですか」
私も逆の立場ならそう思ってしまう気はする。しかしだからといって、駆けつけることができるのに呼ばれずに何もできなかったとしたら、それだって辛い。
・・・でもやっぱり気持ちはわかってしまう分、反論できない。
頑張って作ったつもりだったけど、通信機は活躍の機会がなさそうだ。
まあ、便利グッズは喜んでくれたし、それでいいか・・・よし、気持ちを切り替えていこう。
「そういえば、王都を案内してくれるんですよね?」
「・・・ええ」
・・・ご機嫌斜め。通信機は喜ばれないどころか気分を害してしまったようだ。完全に蛇足じゃないか。自分が必要だと思ったからといって相手もそうだとは限らない。自分の価値観を押し付けるようなことをしてしまった後悔が押し寄せる。
「すみませんでした。今日は部屋に戻りますね。
頭を冷やしてきます」
泣き出しそうになってしまって、私は逃げるようにザルツの部屋をでて、小走りで割り当てられた部屋へと戻った。廊下で誰にも会わなかったことだけが救いだ。魔導具を投げ捨ててベッドに潜り込み、頭まですっぽりと隠して、静かに泣いた。
物音で私が戻ったのを察したジェーンが部屋に来てくれたけれど、今日は誰も取り次がないように伝えて、ジェーンも追い返した。
泣きながら、自分の悪いところがわかっていながら、それでも少しだけ、やっぱり人間なんてと思う自分が、一番嫌だった。
何かの音で目が覚めた。
泣き疲れて眠ってしまったようで、すっかり暗くなっていた。顔を洗おうとして目がひどく腫れているのに気づいて、魔法で冷やす。しばらく冷した後になってから回復魔法を使えば良いことに気づいて、改めて魔法を使った。
「なにやってんだろ・・・」
ぼそりと呟いた言葉が静かな室内に響いて、余計に虚しい気分になる。こんなときは、どうするんだったかな。魔導具作り、の気分ではない。誰かに話したいわけでもないし、そもそも話したくても相手がいない。
日本では、こういうとき・・・そう、ひたすら眠っていたっけ。眠っている間は何も考えずに済むから。今はまだ何も考えられない。
寝よう。そう思ってまたふらふらとベッドに倒れ込んだ。
まどろみ始めた頃、チリン、と何かが鳴った。煩いな、と思った。
しばらくしてまたチリン、と鳴る。何だっけ、この音。
ああ、通信機。放りなげたままだった。




