105
祝宴は遅くまで続いた。日付を跨ぐ頃まで続くということだったので、私は程よい頃合いを見て先に退場して部屋へと戻った。まだ8歳ですからね。
ジェーンが紅茶を淹れてくれて、ゆったりと椅子に腰掛けてそれを味わう。立食形式だったためそれなりに足に疲労が溜まっているのがわかる。少しほぐしてから寝ることにしよう。
会場ではゆっくり見ることができなかった、贈り物の指輪を改めて眺めてみる。私が贈った指輪とペアに見えるように気を遣ってくれたのだろう、デザインはほぼ同じで、黒い小さな霊石の代わりに同じくらいのサイズの黒い宝石が埋まっている。8歳の私の手にはまだ大人っぽすぎるけれど、学校を卒業するくらいにはもう少し似合うようになるだろう。ただ、左手に並んだピンキーリングとは全く合わない。会場には外していったマジックボックスとなら、まぁ一緒でもいいかなという感じ。
悩んだ末、ピンキーリングを右手に移し、左手の人差し指にマジックボックスをつけることにした。マジックボックスの霊石のほうが格段に大きいのでそちらのほうが目立ってしまうけれど、良しとしよう。
明日からは数日王都に滞在して観光。それから学術都市の自宅へ戻るザルツとともに移動し、学術都市でもしばらく観光と、学校の見学もさせてもらえることになっている。アルディアに帰りつくのが九の月の末頃なので、丸々一月学校は休みを申請してある。
マジックボックスのおかげでいくらお土産を買っても困る心配はないし、旅で多少減りはしたものの資金はまだまだ潤沢だ。明日からの観光を楽しみに、今日はおやすみなさい。
朝はいつも早起きして訓練をしているため、日々の習慣で今日は早くに目が覚めた。とはいえここで断りもなく訓練を始めるわけにもいかず、軽くストレッチと筋トレだけして浴室で汗を流す。
久々に自分で紅茶を淹れたら濃くなりすぎてしまったので、ミルクティーにして誤魔化した。
・・・暇である。
テーブルの上にはプレゼントの包みが2つ。昨日退場したあと、執事から明日また直接シルザリッツ様に、と言われ手元に帰ってきていたのだ。不憫なプレゼント達。
それを今更どうする気もないので、一旦マジックボックスへ。代わりにシルバーの塊を出して、土魔法で小さく3つ千切りとった。
作るのは魔導具ではない、ただのシルバーアクセサリ。頑張って旅についてきてくれたメイド3人へのちょっとした感謝の品だ。魔導具は高価な物なので、手作りとはいえ受け取ってもらえるとは思えないので、ささやかな物にすることにしたのだ。
そうして少しして出来上がったのはバレッタが1つとヘアピンが2つ。ジェーンは髪を三つ編みにまとめているので、一人だけバレッタにした。
午後になって、そろそろ暇をつぶすのも限界になってきたので、ベルを鳴らしてトリス王城のメイドさんを呼ぶ。いい加減プレゼントも渡したい。ザルツの部屋を訪ねたい旨を伝え、連絡に向かってもらった。
一応昨日の夜は遅くまで祝宴があったし、お酒も飲んでいたので遠慮していたのだけれど、もう午後だし流石に起きているだろう。
「ああ、ティエラ様、申し訳ありません・・・」
部屋で待っていたザルツは、顔色が悪かった。
「・・・二日酔いです?」
「お恥ずかしながらその通りです」
ふむ。
「ちょっと失礼」
近くにあったテーブルの上に2つの包みを一旦置いて、座っているザルツの背中に手をあてる。・・・体内の毒素が抜けていく、ように。
実は身近に回復魔法を得意とする人がいて、旅の間になにかあったときのために、と色々教えてくれたのだ。その人というのは、シエラである。
「いかがです?」
「すごい!治りました!
兄上も皆もひどいんですよ・・・ティエラ様が退場した途端にすごい勢いで飲ませてきて・・・」
確かに、私が居る間はほとんど飲んでいなかったはずだし、なるほどそういうことだったのか。大人って大変。しかし顔色もすっかり良くなったようだし、もう大丈夫そうだ。
「ザルツ様、改めて。
誕生日おめでとうございます」
プレゼントを手渡すと、ザルツは嬉しそうに笑ってくれた。
「ありがとうございます、ティエラ様。
開けてもいいですか?昨日から気になってて」
勿論、と答えた後に気づいた。
「あ、やっぱりちょっとまって下さい」
メイドさんが急に入ってきたりはしないだろうか。人払いを、というのもなんだか違う気がするし、探知魔法を使っておくことにしよう。
「すみません、どうぞ開けて下さい」
こちらに向かってくる反応もないし、うん、大丈夫。
包みを開けるザルツ。先に開けたのは便利グッズの方。しおり型になっている。
「銀製の・・・しおりです?
あれ、でも霊石がついてるってことは魔導具ですか?」
私は本棚から適当な本を一冊取り出して、手渡した。
「本に挟んで、えーと、ベッドで寝転んで、霊石に触れて下さい」
ゴロンと横になり、言われたとおりに霊石に触れるザルツ。するとザルツの顔の上30cmくらいのところにページが開かれた状態で本がふわふわと浮かぶ。
「という風に、寝転んだまま本を読めます」
「なんて・・・なんて画期的な発明なんですか・・・!」
寝転んで本を読むのって意外と腕が疲れるんだよね。重い本なら尚更。うつ伏せで読むと腰とか肩とかが痛くなったりするし・・・
うん、よろこんでもらえたみたい。




