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「お時間になりましたら呼びに参ります」
そう言って、執事はメイドさんたちを全員引き連れて出ていってしまった。
うーん、あと30分。ただ時間が来るのを待つというのは所在ないものだ。
「座りましょうか」
ザルツが椅子を勧めてくれたので、ドレスが皺にならないように浅く腰掛けた。
隣に椅子をもう一つ持ってきて、ザルツが座る。
「ティエラ様、本当にこの度は申し訳ありませんでした」
未だ引きずっていたのか・・・
「その話はもう終わったはずです。
気にしていないものを何度も謝罪されても困ってしまいます」
その言葉に納得してくれたのかどうかはわからないが、話題は別の話に。
「一つ、確認させていただきたいことが」
ザルツが改まった風に言い出したので、私も背筋を正してまっすぐにザルツの目を見た。
「あの・・・いや、ちょっと待ってください」
何故か狼狽えるザルツ。百面相というやつだ。
何度か深呼吸をして、ザルツは再び私の方を向き直った。
「僕との結婚についてです。
パーティーで発表してしまえば、覆すことができません」
「?
はい、そうですね」
「本当に、よろしいのですか?」
「へ・・・?」
思わず間の抜けた声が出る。まさかそんなことをここまできて確認されるとは思わないでしょう、だって。
「視察のときに、誘導尋問のように婚約を認めさせてしまったので・・・」
そういえば、そうだったかも知れない。
「本当はお嫌ではないかと、昨日から居てもたってもいられず・・・」
意外と弱気?
「私は、嫌なことは嫌と言いますよ。これまでもこれからも」
「・・・っ!
ありがとうございます!」
満面の笑み。相変わらず優しい人だ。
「ザルツ様」
「はい?」
「今後共よろしくお願いしますね」
私も笑顔を返した。
ドアのノックの音が響く。
「参りましょうか、お姫様」
ザルツと私は、一度笑顔を向け合ってから歩き出した。
この人も、この人の家族も、きっと今以上に大切な人になる。
私に迷いはなかった。
会場のドアが大きく開かれ、ゆっくりと中へ。私の右手を取るザルツの左手の薬指には、私が贈った指輪が嵌められている。
一部には警備の手配の関係などで私のことは伝わっていたようだが、多くの人たちはその指輪の相手は誰かと、噂話をしあっていたのだろう。ザルツの隣を歩く私に注がれる視線は、正直かなり痛い。
国際的な社交界にデビューしていない私は、当然トリスで顔が知られているわけがない。加えて年齢差もあれば、ザルツの立場もある。ヒソヒソと私を見て交わされる会話。そのいくつかははっきりと耳に届いていた。
「なんだ、お相手は誰かと思えばあのような小娘とは・・・」
「見目は良いが、何者だ?」
「あのような幼い娘に相手が務まるのならば私の娘でもよかったではないか」
時には肯定的な声も聞こえてはきたが、そのほとんどは不満の声。実際8歳の小娘なんだから、仕方ないとは思う。だから気にしない。こんな評価、いくらでも覆してやる。
「皆様、本日は僕の20の誕生日にお集まり頂き、大変光栄に思います」
始まる、ザルツの挨拶。穏やかな声は凛と響いて、会場はすっかり静まった。
「お集まり下さいました皆様に、もう一つご報告をさせて下さい。
シルザリッツ=トリスは、こちらにいらっしゃる姫君と、婚約を致しました」
沸き起こる拍手。拍手の音量に内心は関係ないものね。
「ご挨拶を」
ザルツに促され、私は会場を見渡してから深く腰を落としてカーテシーをする。
「アルディア王が末子、フォルティエラ=カナデ=アルディアと申します」
この挨拶の言葉にも慣れたものだ。
この瞬間に私の正体を知った会場中から、ちょっとしたどよめきが起こる。
「この場を借りてご紹介頂けますことを光栄に思います。
若輩者ながら皆様にお認めいただけるよう、精一杯精進をして参ります」
言い終えて、小さく礼をして再び後ろにさがる。
すると、執事がすすっとザルツの傍に進み出て、何かを手渡した。・・・打ち合わせにあんなのあった?
「フォルティエラ様」
ザルツは私に向かい合って片膝をつく。そして私の左手を取って、薬指に、指輪を。
「婚約の証に、僕からの枷を嵌めることをお許し下さい」
左手に軽くキスをして、ザルツは立ち上がり会場を再び見渡した。
「今夜は祝宴です。どうぞ楽しんでいってください」
盛大な拍手が鳴り響く。先程の比ではない。私の素性を知った途端現金なものだとも思うけれど、多分この拍手は、毅然としたザルツに贈られたものだろうな。
祝宴は続き、たくさんの人々からのご挨拶と、祝福の言葉を頂いた。
途中、執事が私が用意したプレゼントの包みを持ってきてくれたので、ザルツに直接手渡す。
さすがにこの場で開けることはできないので、日本で言う花束贈呈みたいな感じ?受け取って少ししてまたザルツの手から執事に預けられるという、たらい回しされる不憫なプレゼント。
しかし、スイが手伝ってくれてよかった・・・プレゼントの包みで恥をかくところだった・・・・・・




