第9話 幼馴染みは冷たくない
「柊木君、ちょっと冷たくない?」
その日の帰り、僕は新内姫花に不満をぶつけられていた。
徒歩通学の僕と穂乃果と違って電車通学の新内とは帰る方向が違うのだが、今日はわざわざ着いてきてそんな事を言って来たのだ。
ただでさえ派手な新内に絡まれると目立つのでやめてほしい。
「何が?」
不満をぶつけられたものの心当たりが無いので、問い返す。僕は誰に対しても冷たく接した記憶はないし、そう文句を言われるほど態度を変えた記憶もない。特に穂乃果に対しては、溢れそうになる気持ちを抑えるために努めて今まで通りの態度で接する事を心掛けている。
まああるとすれば、母親似の切れ長の目のせいで目つきが悪いと言われる事があるくらい。だが、今回は関係あるのか?
見ると、相変わらず僕と腕を絡めている穂乃果もよく分からないようで不思議そうな顔をしている。
そんな僕と穂乃果の反応が気に入らなかったらしい新内は、ふんと鼻を鳴らす。
「さっき見てたよ。穂乃果がせっかく一生懸命にお弁当作ってくれたのに、つまらなそうに食べてたでしょ。良くないよ、そういうの」
「そんな態度してたか?」
嬉しさを押し殺していたので自分がどう見られていたかは分からない。穂乃果に確認すると、
「うーん・・・ちょっと厳しかったかな」
そう言って苦笑いした。
「ほら」
新内はそれ見たことかと手を腰にあてる。金色のサイドテールが揺れる。
「普段料理しない穂乃果が頑張って作って来たんだから、もっと嬉しそうにしても良くない?せっかく彼女が作ってくれたんだよ?」
「いや、だから彼女じゃないって」
「その言葉には説得力がないの!」
新内は言いながら、絡み合った僕と穂乃果の腕を指差す。新内は先日からずっとその件に関しては、何度否定しても疑ってるんだよな。
つか、何が気に入らないんだよ。
「これで付き合ってないなら、この世界に付き合ってる男女なんかいなくなるでしょ。こんな自然に腕組めるなんて、カップルの特権なんだから」
「そんな事無いだろうよ。仲の良い幼馴染みがしてたっていいだろ」
僕としては恋人同士として腕を組んでいてもいいのだが、穂乃果にその気は無いし、実際違うし。ただの『隼の気持ちを繋ぎ止めておく作戦』の一環だしな。
ともかく、仲良くしてるのがそんなに悪いのかよ。
「そうだよ姫ちゃん。私たちは別にそんな関係じゃないし、お弁当だって味見してもらったみたいなものだよ」
「だとしてもよ!」
大きな声出すなよ。
「柊木君が穂乃果の気持ちをないがしろにしてるようにしか見えないの。午後だって、穂乃果が一緒に体育館に行こうって言ってたの断ってたでしょ?」
「今日体育は男子が外で、女子が体育館なんだから、一緒に行ったって意味無いだろ」
あれはただ穂乃果が勘違いしてただけだぞ。
「そうじゃないのよ!女の子が一緒にいたいってアピールしてるのに、どうして断るのよ!」
あれ?何か変な話になってきた。
「今だってそう。そうやって穂乃果が腕取ってるのに、何でもないみたいな素っ気ない態度。それではっきり彼女じゃないとか。穂乃果が可哀想だと思わないの?」
「私別に何とも思ってないよ」
「穂乃果はいいの!黙ってて!」
思いの外鋭い声に体をびくっとさせる穂乃果。金髪美人は怒らせると怖いな。今の所怒られる筋合いはないのだが。
「ねえ柊木君」
新内は僕の顔を覗き込んでくる。怒りを滲ませたような、悲しみを滲ませた顔。
「柊木君が悪い人だとは思ってないけど、もうちょっと穂乃果の気持ちに寄り添ってもらえないかな?見てると穂乃果がいたたまれなくて」
・・・なるほど。ようやく合点がいった。
どうやら、穂乃果が僕に対して好き好きアピールをしているのに、僕が素っ気ない態度であしらっていると勘違いしているのだろう。
実際には僕は好きな気持ちをどうにか押し殺して穂乃果と接しているのに対し、穂乃果の方は好きと言う感情ではなく僕の心が離れないようにと接しているだけなので、新内の印象とは逆になっているとも言える。
僕の本当の気持ちと、二人の今現在の状況を知らない第三者から見るとそう見えるのか。
気をつけなきゃな——とは思うが、だったらどうすればいいのか。僕が素直に穂乃果への気持ちのままに行動したら、見た目はただのカップルになるだけだ。
そうなると周りは穂乃果の気持ちが成就したなんて思うのかもしれないが、実際には穂乃果の本当の気持ちを無視する事になる。
それが正しいのか?
どうすればいいかは分からないが、ひとまずは新内をどうにかするのが先だろう。誤解されたままだとは言え。
「新内・・・僕は穂乃果をないがしろにはしてないぞ。大切に思ってるし、寄り添ってるつもりだ。ちょっと・・・そういう表現するのが下手なだけなんだよ。だから、もうちょっと見守っててくれよ」
現状、はっきり言えない以上は完全に誤解を解くのは難しい。ただ、僕が穂乃果の事を蔑ろにしていると言う誤解だけは解いておきたい。
僕が言うと、新内は疑わしげに眉を顰めると穂乃果の方を見る。
「それでいいの?穂乃果」
「う、うん」
ここで何で真っ赤になってんだよ。
「穂乃果は子供で純粋だから、私は心配なの。ちょっと大切だって言われただけで赤くなっちゃって」
新内は穂乃果に抱きついて頭を撫でる。こう見ると見た目は違うが、姉妹みたいだ。
「こうやって甘い事言って誑かしているんじゃなければいいけど。でもいい?柊木君に酷い事されたら私に言うのよ?学校中の女子を連れて破滅させてやるんだから」
怖い事を言うな。新内なら実際に出来そうだからなおさら怖い。
「やめてよ〜。隼にひどい事しないで」
「ったく・・・あんたは・・・」
新内は思いの外優しい笑みを浮かべて穂乃果を撫でる。
「今日のところは引き下がってあげるけど、私、ずっと見てるからね」
「監視すんな」
かくして、誤解が解けたんだか解けていないんだかよく分からないが、意味もなく十字架を背負わされる事になった。




