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巨大ロボに乗って幼馴染みに告白し続ける話  作者: みつつきつきまる


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第8話 幼馴染みとお弁当

 僕と穂乃果が腕を組んで登校した時は随分騒がれたが、不思議なもので三日もするとそれは当然の出来事のように処理された。


 だが、それは『柊木と和泉は付き合っているらしい』という不確定な噂が消えた事を意味するのではなく、『柊木と和泉はつきあっている』という、まるで事実であるかのような噂に切り替わっただけの話だ。


 僕としては余計に面倒な話になったとしか思えない。


 とは言え、穂乃果による『隼の心を繋ぎ止める作戦』は止まらないし、僕としても穂乃果への片想いをやめる事も出来ない。かと言って詳細に説明する訳にもいかないので、僕としては静観する事に決めた。


 そのうち治るだろ。


 さて。


 昼食の時間。今日はなぜか母親が弁当を作り忘れたらしい。市内で洋食店を営む両親はいつも帰りが遅く一緒に夕食をとる機会が少ないため、せめて弁当は作ると言ってこれまで欠かした事はなかったが、今日は忘れたらしい。


 まあ、毎日弁当を作ってくれるので感謝しかないので、作り忘れたからと言って責める事は出来ない。


 ただ気になるのは、決して寝坊した訳じゃないという事くらいだろうか。


 いつも通りに起きて、なぜか弁当を作り忘れたらしい。


 まあ、深く考えても仕方ないか。


 だったら学食でも行こうか。学食行ってる友達もいるだろうから誘って——


 そう思いながら教室を見回して友達を探していると、窓際の僕の席まで穂乃果がやって来た。穂乃果は廊下側の席なので、普段はわざわざ来たりしないのだが。珍しい。


「一緒にお弁当食べようよ」


 さらにそんな事を言うので、クラスがちょっとざわつく。


 妙な噂が治まるのを待っているのに、燃料投下するのかよ。


「普段は新内なんかと食べるんじゃないのか?」


 見ると、いつも穂乃果が一緒に昼を過ごしている金髪美少女の新内と、黒髪清楚の山中美潮がこちらを見ている。


 ぐっと胸の前で拳を握っているが、何のポーズだろう。


「今日はいいの」


 穂乃果は言って、前の席の椅子をこちらに向けて座る。


 ・・・ちょっと真正面から見られると照れくさい。


 思い返してみれば、穂乃果が身だしなみを気にするようになってから正面にからじっくり見る機会はあまりない。


 可愛いな。やっぱり。


「あー、今日は弁当が無くてね。母親が忘れたらしくて」


 言いながら穂乃果から視線を外す。当然一緒にお昼を過ごせれば嬉しいが、残念ながら弁当が無い。


 すると、


「あのね、今日はお弁当を作ってきたの」


 ファンシーでカラフルな恐竜のイラストが描かれた巾着に包まれた弁当箱を僕に差し出す。


 クラス中の視線が集まるのに気づかないフリをしながら、弁当箱を受け取る。


「志穂さんが作ってくれたって事?」


 志穂さんは料理上手だからな。でも何で?


「私が作ったの」


「穂乃果が?」


「うん」


「えっと、だな」


 言葉が見当たらない。普段料理の『り』の字も知らない穂乃果が、お弁当を作ったと。お米一つ砥げないでお馴染みの穂乃果が?


「うん。初めて作ったから、隼にも食べて貰おうと思って・・・。佳代子ママにお弁当作らないでってお願いして」


 落ち着かない様子で言いながら自分の弁当箱を取り出す穂乃果。


 なるほどそういう事か。穂乃果がうちの母親——佳代子ママに弁当を作らせなかったのか。となると、昨日のうちから連絡してあったのか?


 どうりで弁当が無いと知らされた時、やけににやにやしてたな。あの佳代子さんは。


 となると——


 心躍らせながら弁当箱を取り出す。僕の好きな子が、僕のために作った初めての手作り弁当。それがどんな意味を持つかは計り知れない。


「穂乃果がねぇ・・・味はともかく、お腹痛くならないだろうな」


「そっ・・・ママと一緒に作ったから、大丈夫に決まってるでしょ!」


 そりゃそうか。まあ、穂乃果の料理で与えられた痛みは、きっと愛おしいに違いないのだが。


「あの二人、やっぱりそういう関係なのかよ」


「そう言えば腕組んで登校してるって」


「そうだよな、あんな可愛い幼馴染みがいたら黙ってられないよな」


「俺も幼馴染みが欲しいな」


 ひそひそ話が聞こえて来る。ほっといてくれ、とも思うが——勘違いしてはいけない。これは、『隼の心を繋ぎ止めておく作戦』の一環に違いない。


 作戦に手作り弁当を使うとは、穂乃果もあなどれない。


 しかし、どういう理由であれ穂乃果が料理に興味を持ったというのは朗報。穂乃果の女子力向上のため、必要な能力であろう。


 だから僕は、好きな子に作ってもらった弁当だからといって胸を一杯にしている場合ではない。穂乃果にはより高みを目指してもらわなくては。


 僕はそんな使命感と共に穂乃果のそれより一回り大きな弁当箱のフタを開ける。


 内容はシンプルそのもの。弁当箱の半分を白米が占めており、おかずは卵焼き、唐揚げ、タコさんウインナーというオーソドックスな構成。


 いかん・・・冷静になれ。後光が差しているように見えるのは気のせいだ・・・。


「随分茶色が多いな。もっと彩があった方がいいぞ」


「むー。見た目はいいから、早く食べてみてよ」


 急かす穂乃果。内容が同じ自分の弁当にはまだ手をつけていない。


 つまり、穂乃果が人生で初めて作った弁当を、僕が最初に食べるのだ。


 その栄誉をしっかり胸に刻み込もう。


「じゃあ食べるぞ」


 ああ、緊張するな。


「ああ、緊張する」


 穂乃果も同じ気持ちか。熱い視線を僕に向けている。


 僕は震える箸で卵焼きを掴む。黄色と言うよりほぼ焦げ茶色で、所々黒い卵焼き。


 ごくりと喉が鳴る。


 意を決して卵焼きを口に運ぶ。


 ・・・


 ・・・


 うまい。


 焦げの部分が苦いとか、塩の塩梅を間違えてものすごくしょっぱいとか、中がちょっと半生で怖いとか、そんな事は関係なく、うまい。味覚とは関係なく、僕は人生でこれ以上美味な卵焼きを食べた事がない。


 うわ。泣きそう。


「で?どうかな?」


 不安げに揺れる穂乃果の瞳。


 ぐっと奥歯を噛み締める。


「・・・焦げが気になるし、しょっぱすぎる。それに、ちゃんと中に火を通せよ」


 穂乃果の女子力の為、心を鬼にする。


「厳しいなー。その割に全部食べるんだね」


「もったいないからな」


 こんなうまい卵焼き残す訳がない。血圧は上がりそうだが。


「じゃあ次は唐揚げ食べてよ」


 厳しい評価ではあったものの、食べてもらえた喜びがあるのか、唐揚げを勧めて来る。勧められるままに一口で口に放り込む。


「・・・身が固いくて中がパサパサしてる。火を通し過ぎだ」


「えー。だって中まで火が通ったから心配なんだもん」


 初心者が陥りがちな心配。不安に思って火を通しているうちに肉が固くなってしまうんだよな。火が通ってないよりはいいけど。


 でも、顎が鍛えられそうでうまい。こんなうまい唐揚げ食べた事がない。


 また泣きそう。


「じゃあタコさんウインナーは?これは失敗しようがないから」


 穂乃果は意地になったのか、タコさんウインナーを自分の箸で掴んで僕に差し出す。いや、ここでこれは——


「マジかよ、あいつら」


「くぅ〜見せつけてくれるよなぁ・・・」


 周りの羨望の声など聞こえるものか。今の僕にはタコさんウインナーしか目に入らない。


「タコさんの割に、足が二本しか無いけど」


 明らかに足に見立てて四分割した部分のうち二つがどこかに行ってしまっている。 


「足の数なんて誤差だよ」


 開き直る穂乃果。そう言って僕の口に押し込んでくる。


 ・・・


 うまい。


 市販のウインナーを焼いただけだが、涙が出るほどうまい。


「・・・これは及第点だな」


 言いながら、心の中で血涙を流す。


 穂乃果はえへへと言いながら頭をかいているが、僕としては『うまいうまい』と言いながら食べられないのが悔しくて仕方ない。


 しかし、これが穂乃果の女子力向上に繋がるのだ。僕の感想など表に出すべきではない。


 そんな僕の気持ちなと露知らず、穂乃果はどこかホッとした様子で卵焼きを箸で掴んで口に入れる。それ、さっき僕の口に入った箸なんだけど。


「うわ!しょっぱ!よく食べたね」


 そんな現実もあるが、僕の方はご飯一粒残らず平らげた事は報告させてもらう。


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