第7話 幼馴染みと親友
今まで通りの登校風景。なのにやっぱり違う。
僕の隣にいるのは同じ和泉穂乃果。昨日までは幼馴染みだった。今日もそのつもりだったが、どうも僕の心がそう思ってくれない。幼馴染でなく、僕の好きな人、片思い相手として考えてしまう。
穂乃果の見た目が少し変わったのも影響しているのだろう。
「あのね、姫ちゃんに教えてもらって。スカート短くするのとか」
新内姫花——クラスメイトで穂乃果の親友。ギャルっぽい見た目をしているが、何故か穂乃果と気が合うらしい。新内が告白されている場面に穂乃果が出くわして、断られて逆上した男子生徒から新内を助けた事がきっかけで懐かれたらしい。ラブコメみたいな出会い。
ちなみに新内のスカートは、今の穂乃果よりも短い。
「最初良く分かんなかったからどんどん短くしたら、普通に立っててもパンツ見えちゃって」
「それで出てこなくて良かったよ」
「私の事バカにしてる?」
「ん・・・まあ・・・穂乃果ならやりかねないからな」
「でもそうなる前に隼が言ってくれるでしょ?」
パンツ見えてるぞ、って指摘しろって?
「その前に志穂さんが言うだろ」
志穂さんが笑いながらスカートを直している図が想像出来る。
「とにかく気をつけろよ。短いスカートに慣れてないんだから」
なんにしろ危なっかしい穂乃果に僕は注意を促す。
「はぁい」
返事をしながら隣でぴょんと跳ねる穂乃果。そういうところだって。
そんな穂乃果の様子にどぎまぎしながら中央公園を通り過ぎる。昨日ローレライに乗ってADMと戦っていた場所だ。この朝の時間は、ジョギングをする人と犬の散歩をする人がちらほら確認出来る、平和な公園だ。
昨日——いろいろあった現場。
「あの、隼」
僕の少し前を歩いていた穂乃果がくるりと振り返る。
ほらスカートが——まあいい。
「昨日、私変な事言ったよね?」
「言ったな」
私の事を好きにさせてみせる!と『私』の事を好きな『僕』に言ったのだ。
普通逆だろう。例えばフラれた相手に負け惜しみのように言うなら分かるのだが、好きだっていってくれる相手に言うのは、もうわけがわからない。
まあ、これは穂乃果が言葉足らずだっただけで、僕に愛想をつかされないために、穂乃果の事を好きでい続けさせる、という意味だろう。
それでもなんかおかしいが。
「ちょっと誤解を生みそうな言い方だったけど・・・私、本気だから。私の事を愛想を尽かすなんて許さないんだから」
なぜか穂乃果の瞳の中で炎が燃えている。別にこんな時に負けず嫌いを発動せんでも。
「許さないって言われてもな。それは穂乃果次第じゃないのか?」
「そうよ。そのために努力するって言ってるの!」
穂乃果の宣言。まあこれで穂乃果の女子力やら社会性やらが改善されれば、穂乃果のためにはなるのか。
どうせなら、僕の事を好きになるように努力してもらえれば何も問題はないんだが。まあ、今の穂乃果の態度を見る限り、そんな考えは微塵もないんだろうな。悲しいかな。
悲しいものの、言い換えれば僕のために可愛くなろうとしているって事でもあるのか。
それならまあ——悪くないかも。
そう思って自分を慰めていると、隣にやって来た穂乃果がそっと腕を絡めてきた。ぎゅっとではなく、そっと。
それが距離感を理解している恋人同士みたいで、妙にドキドキする。
「どうした?急に」
平然を装いながら問いかける。
「えへ。いいでしょ?」
僕が勘違いしそうだから、可愛らしくはにかむのはやめてくれないかな。
「まあ、いいけど」
平気なフリして格好つけんなよ、僕。
身だしなみを可愛く整えて、スカートを短くして、そっと腕を取っただけで心が奪われるなんて、男って——僕って単純だよな。
中央公園を過ぎると、僕らと同じ制服を着た学生が多くなる。いつもと変わらない通学風景に見えるが——
なんか見られている気がする。
僕と言うよりは穂乃果だろうか。同じ制服の知らない連中が、可愛くなった穂乃果をちらちら見ているような気がする。考え過ぎか?
それとも、仲睦まじく腕を組んで歩いている様子を見て『リア充死ね』とでも思われているのか。
よく分からないが、他の男に穂乃果が見られるのが少し嫌だ。これを独占欲と言うのだろうか。
対して穂乃果は人の目が増えてきたからか、僕の腕を強く掴む。
「ちょっと恥ずかしい」
いつもより短いスカートが恥ずかしいらしい。そんなに恥ずかしいならやめればいいのに。
もうすぐ学校に着くから、人の目は増えるばかりだぞ。クラスの連中にだって、そろそろ遭遇したっておかしくない。
「えーーーー!」
ほら、こんな風に。
突然目の前に現れて大声をあげたのは、長い金髪をサイドでまとめ、今の穂乃果よりも短いスカートを履いた新内姫花。さっきも話に出た穂乃果の親友。元々整った顔には薄く化粧をしている。
「マジ!?」
普段は二重でぱっちりな印象のある目を大きく見開き、僕らを指差す。
「・・・前から怪しいと思ってたけど、やっぱ二人は——」
「違う。勘違いするな」
言いたい事は分かるが、ここは否定しておかないと。
「見せつけるように仲良く腕組んでるのに、何を勘違いする事あんの?」
新内はそう言いながら僕らに詰めてくる。確かに、わざわざ腕を組んで登校しておきながら何でもないというのは都合のいい話だ。
以前から僕と穂乃果は付き合ってるんじゃないかと勘違いされ続けて来たが、その噂を助長するような行為だろう。
実際には穂乃果が僕の心を繋ぎ止めておくための行動に過ぎないのだが、それは僕と穂乃果しか知らない。
そうして僕がどうやって誤解を解こうかと苦慮しているのだが、穂乃果は隣できょとんとしている。
「ねえ、穂乃果」
新内はそんな穂乃果の顔を覗き込む。
「なんで私に黙ってたの?」
少し怒ったような声。
「ふぇ?」
間抜けな穂乃果の声。おそらく、穂乃果はよく分かっていない。
新内はもう少し距離を詰める。
「柊木君と付き合ってる事、なんで私に黙ってたの?」
そう言われて数秒。しばらくぽかんとしていたが、ふいに何かに気づく。
「ち、違うの!別に付き合ってるとかそんなんじゃないの!」
手をばたばたさせて焦り出す。でも僕の腕は掴んだまま。
やっぱり。穂乃果は僕の心を繋ぎ止める事に集中しすぎたせいで、その様子が周りにどう見られるのかまでは考えが及ばなかったのだ。
ようやく気づいて否定はしたのだが、この穂乃果の様子は図星をつかれて慌てているようにしか見えないので逆効果か。
「ふ〜ん」
やはり信じた様子のない新内。そして綺麗に整えられた眉を顰めながら、短くなったそのスカートに目を留める。
「スカート短くしたのだってさ、柊木君のためじゃないの?」
「そ、それは・・・」
いや、それは僕のためなんですよ。ただ、意味あいは違うけど、
「ぐ・・・隼が太ももが見たいって言うから」
おい。
「急におかしな事言うなよ」
「へぇ、柊木君って変態なんだ」
「そんな訳ないだろう!」
「ねーねー、私の太ももでも興奮すんの?」
「見せなくていい!」
僕を変態にする事で誤解を解こうとするのは無理があるぞ。そんな変態にくっついてる穂乃果も変態って事になるんだからな。
しかしまあ、美女二人に太ももをチラ見せされるのは、悪い気分ではないけどさ。




