第6話 幼馴染みのスカート
昨日の幼馴染みの謎の宣言から一夜明け、僕は穂乃果の家の前に立っていた。いつも通り、一緒に学校へ行くためだ。
ちなみに昨日の謎の宣言だが、ハルに聞く事である程度は合点がいった。
ハルは穂乃果の将来を案じた僕や志穂さんと違って、僕の片思いが消えてしまうとローレライでマーメイド・エフェクトが発動しなくなるから、愛想をつかされると困ると言ったのだ。
だからハルが言ったのは非常に実務的な話だ。そこから、僕に見捨てられるという不安に至ったらしい。
そう説明されると分かったような気もするが、昨日の宣言はよく分からない。本人もよく分かってないんじゃないか?
これからその答えあわせが出来るのか、出来ないのか。不安を抱えてインターフォンを押す。
普段ならここで母親である志穂さんが出てくれ、穂乃果がまだ起きてないから起こしてくれと言われて部屋に突撃するのだが、それはもう出来ないな。
僕も言葉にしてしまった事で意識してしまうし、穂乃果の方も自分の事をオンナだと思っている男に寝顔を見られたいと思うだろうか。身の危険を感じたりしないだろうか。
あえてそうして穂乃果の自己防衛本能を呼び起こすという方法もあるが、今の所やめておいた方がいいだろう。
少しがっかり。
好きな人の寝顔を見る事が出来ない事にがっかりしていると、がちゃっとドアが開く。そして志穂さん——ではなく、珍しく穂乃果が顔をだす。
ん?
「あ、あ、お、おはよう、隼」
「ああ、おはよう」
少しぎこちない笑みを浮かべる穂乃果。それは昨日の事があったからか、それとも——
「なあ、穂乃果」
「な、何?」
いつもと様子が違う事には気づいている。それは態度だけではない。
「だから、あの・・・」
別に言っていい事だよな。
「何よ」
穂乃果の気が睨んできたので、はっきり言ってやろう。
「何でスカートが短いんだ?」
いつもなら膝頭をしっかり隠したあたりまで下ろしているチェックのスカートが、膝上、太ももが少し見えるくらいまで上げられている。僕は今日の今日まで、穂乃果がこれほど短いスカートを履いているのを見た事がない。
そもそも、制服以外のスカートなんて滅多に履かないのに。
確かにギャルの類から考えるとまだまだなのだろうが、穂乃果にそんなイメージに無かったので僕は面食らってしまった。
穂乃果は少し恥ずかしそうに手で足を隠す。
「えへへ、ダメかな?」
「いや、ダメじゃないけど」
僕としてはダメな訳がない。好きな女の子の短いスカート姿を見られるのは。眼福に違いない。
あまり目にする機会のない意外と健康的な太ももに目が言ってしまう。いやいや、何を見てるんだ。いや、好きな子の可愛い姿を見るのはいけない事だろうか。
何だか複雑。
それに、よく見れば変化はそれだけではなかった。いつもは無造作な髪がきちんと整えられ、前髪が右眉の上でヘアピンでまとめられている。表情が前髪で隠されず、綺麗な眉がはっきり見える。そのせいかいつもより可愛いく見える。
「いい・・・と思う」
「良かった」
穂乃果はほっと息を吐いた。
「ちょっと待って。まだ学校の準備してないの。中に入ってて」
穂乃果に促され、玄関に入る。早起きして身だしなみを整えたものの、準備が終わってないのか。それは昨日のうちに終わらせる物だぞ。穂乃果らしいと言えば穂乃果らしい。
ただ、早起き出来た事は褒めてあげよう。
しかし、髪を整えてスカートを短くしただけであの変化はなかなか。僕を穂乃果の事を好きにさせるなどと言った昨日の宣言によるものなのか、なんだか刺激的。
それにしても、あのスカートは短いと思う。
「隼君おはよう」
リビングに入ると、穂乃果の母親である志穂さんがソファに座ったままにこにこと挨拶してくれる。穂乃果のお姉さんと言ってもいいぐらい、若々しくて可愛らしい女性。見た目は穂乃果にそっくりだが、中身は全く違い、世話好きのしっかり者。
「おはようございます」
僕は挨拶を返して、隣に腰を下ろす。
僕の母親仲のいい志穂さんは、僕の顔を見てにやにやする。
「ねえ隼君。穂乃果が可愛いと思わない?」
言われて準備を進めている穂乃果に目をやる。いや、言われなくても可愛いと思う。でも、はっきりそう言うのは気恥ずかしい。
「ええ。いつもとちょっと違いますね」
穂乃果はなぜか弁当を手にうろうろしている。いや、そんな事より短いスカートがふわふわして危なっかしいんだが。
「んー。あの見た目には無頓着な穂乃果がああなるとはねー。誰か気になる男でもできたのかナー?」
いや、僕の方を見ないで。
多分僕の事を意識しての格好なんだろうとは思う。ただ、それは好きな人にアピールするためのそれではなく、自分を好きだと言っている男を引き止めるための行為でしかない。いわば『隼の心を繋ぎ止めておく作戦』だ。
そう考えると、嬉しい反面悲しい。
「私としては隼君と一緒になってくれれば嬉しいんだけどね」
志穂さんは会う度にそんな事を言ってくれる。昨日言われた時は思わず泣きそうになったくらいだ。
ただ、志穂さんは僕と穂乃果の今の状況を知らない。想いが僕からの一方通行だって事を。
ちょっと泣きそう。僕に任せてくださいって言えればどれだけ良かっただろう。でも、それは叶わないのだ。
なにせ、穂乃果にその気が無いのだから。
そんな事を言っていると、穂乃果が自室のある二階から通学鞄を持って下りてくる。
バタバタしているのでスカートの端がひらひら揺れ動く。
「なあ、穂乃果」
「何?」
穂乃果はダイニングに置いてあったパンに齧り付く。朝食まだだったのか。
「スカート短いって事を自覚しろよ。あんまり動くと中見えるぞ」
「!!見たの?」
「いや、見えてないが」
「・・・でも、見えてもいいように可愛いパンツ履いてきたし・・・」
パンツが見える前提で行動するなよ。中に短パン履くとかスパッツ履くとか他に出来る対策はあるだろうが。
穂乃果が僕をちらちら見ている。
「えっと・・・見る?」
「そういう冗談を言うな」
見たいって言ったら見せてくれたのか。見たかった気持ちもゼロだとは言えないが。
そんなやりとりを志穂さんは微笑んで眺めている。
穂乃果がパンを飲み込んだのを見て、僕は立ち上がる。
「いいから食べたら学校に行くぞ。穂乃果が早起きしたから遅れる事はないだろうが」
「私もたまにはやるでしょ?」
「たまにでそんなに胸を張るな」
「いいじゃん。出来た時くらい褒めてよー」
「はいはい。よく出来ました」
そんないつものやりとりをしながら玄関に向かう。そして穂乃果がローファーを履くために勢いよく腰を下ろすと——ふわりと一瞬スカートが捲れ上がり、白い物がチラッと——
だから気をつけろって言ってるだろうに。
僕は違うドキドキを抱えながら、靴を履いて穂乃果と共に玄関を出た。




